大判例

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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)2522号 判決

原告 長瀬洋一 外九名

被告 日本電信電話公社

主文

原告らの請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告らは、「被告が昭和四四年五月二九日原告らに対しなした別表処分内容欄記載の各懲戒処分(以下本件処分という)は無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、

被告は、主文と同旨の判決を求めた。

第二原告らの主張

一  当事者

(1)  原告らは、被告の職員で、被告の職員らで組織する全国電気通信労働組合(以下「全電通」と略称する)に加入しており、原告らの勤務場所、組合の役職等は別表記載のとおりである。

(2)  被告は、日本電信電話公社法によつて設立された法人で、公衆電気通信業務およびこれに付帯する業務を行うところの公共企業体であり、肩書地に主たる事務所をおき、愛知、静岡、岐阜、三重四県を統轄する事務所である東海電気通信局傘下に、愛知電気通信部に属する一宮電報電話局、名古屋無線通信部に属する名古屋中統制無線中継所において、その業務を遂行している。

二  全電通の六九年春闘

全電通は、昭和四四年(一九六九年)四月一七日、決議機関の決定にもとづき、賃金闘争を中心とする春季闘争として、同労組中央本部指令第六号により、始業時より午前一一時まで、全国五拠点九事業所(後記被告主張のとおり)において、ストライキ(以下四・一七ストという。)を行なつた。

三  被告の原告らに対する懲戒処分

被告は、昭和四四年五月二九日、原告らに対し、別表処分内容欄記載の本件処分の発令をした。

四  しかし、本件処分は違法無効であるから、その無効確認を求めて、本訴に及んだ。

第三被告の主張

一  原告らの主張第一項は認める。

同第二項は決議機関の決定にもとづくものであることは不知、その余は認める。

同第三項は認める。

同四項の主張は後記のとおり争う。

二  本件処分の正当性

公労法一七条一項は、もとより合憲であり、被告公社の法的性格、その事業の公共性、被告公社職員の地位、業務内容等に照らし、被告公社職員の行なうストは、同条に違反する違法ストであることは明白である。

これを本件について言えば、本件ストの具体的態様、業務阻害の結果の重大性等にかんがみれば、本件ストが公労法一七条一項違反の違法ストであることは明白であり、しかも、その違法性の程度は極めて強度である。そして、原告長瀬、同井上、同森、同吉沢、同池森、同北村、同吉川らは、全電通一宮分会ないし全電通名古屋中統無中分会の分会執行部の役員として本件スト実現のための指導的役割を果たしたものであり、原告井上、同石黒(本件処分時は旧姓岡田、以下岡田という。)、同小川、同鈴木、同吉沢は本件違法ストに参加したものであり、いずれも公社法三三条、公社就業規則五九条に該当するので、本件処分をなしたのであり、もとより正当な処分であり、懲戒権の濫用にもあたらない。以下にこれを詳論する。

(一)  公労法一七条一項の合憲性

公労法一七条一項は合憲であることは、いわゆる全逓中郵事件に関する最高裁判決(昭和三九年(あ)二九六号、同四一年一〇月二六日大法廷判決、以下「東京中郵判決」という。)が明確に判断しているところであるし、また、公労法一七条と同趣旨の規定である地方公務員法(以下「地公法」という。)三七条一項、六一条四号もしくは国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条五項、一一〇条一項一七号については、それぞれ都教組事件に関する最高裁判決(昭和四一年(あ)第四〇一号、同四四年四月二日大法廷判決、以下「都教組判決」という。)もしくは仙台全司法事件に関する最高裁判決(昭和四一年(あ)第二二九号、同四四年四月二日大法廷判決、以下「全司法判決」という。)がいずれも憲法二八条に違反しない旨判断しているところである。

もつとも、東京中郵判決をはじめとする最高裁の前記判決は、いずれも刑事判決であり、法の禁止規定に違反する争議行為のあおり行為等について刑事罰を適用することについては、極めて限定的な解釈を示した。しかしながらその前提としては、争議行為の禁止規定が合憲であることを明らかにしているのである。とりわけ公労法一七条一項の合憲性については、東京中郵判決が極めて明確に判断しているところであつて、その判旨はその後いくつかの最高裁判決において判例として引用されているところである。都教組、全司法判決は、その論旨において中郵判決と若干趣きを異にする個所もあるが、結論においては地公法、国公法の争議行為禁止規定の合憲性を認めている。公労法一七条一項の合憲性については、すでに東京中郵判決が明確に判断を示しており、都教組判決等の論旨がこれに影響を及ぼすものではない。

付言するに、前記三判決は直接的には懲戒処分の問題とは無関係というべきであるが、論旨のなかには、すでに述べたとおり、禁止規定違反の争議行為について、懲戒処分を行なうことを肯定する立場を示しているものと解される部分が随所にみられる。たとえば東京中郵判決では、公労法一八条、同三条の規定を検討し、このような民事責任を伴う争議行為の禁止をすることは合憲であると明示し、都教組判決は地方公務員の争議行為について、それが違法な行為である場合に公務員としての義務違反を理由として、当該職員を懲戒処分の対象とすることはもとよりあり得べきことであると述べている。

そして具体的には、教職員が行なった一日の一せい休暇闘争の違法性は否定し得ないとして、被告人らに対し懲戒処分をし、または民事上の責任を追及することはあり得べきことに言及しているのである。このように最高裁の前記三判決は、間接的ではあるが、禁止規定違反の争議行為に対しては、懲戒処分等の不利益処分を課し得ることを肯定する立場に立つと解される。

ところで、最高裁判所昭和五二年五月四日判決(以下五・四判決という。)は公労法一七条一項の解釈につき、同項は公共企業体等職員の争議行為の全面一律禁止を規定したものであつて、憲法二八条に違反するものではないことを明らかにするに至つた。

右判決の判示を要約すると、「五現業の職員は、国家公務員であるから、非現業の国家公務員と同様、憲法八三条の財政民主主義に表れている議会民主主義の原則上、国会の特別の委任がない限り、法律・予算の形で勤務条件が決定されるべき特殊な憲法上の地位にある。三公社の職員も、財政民主主義の原則上国会の意思とは無関係に資産の処分・運用を行ないえない全額国庫出資の公社に勤務している点で、勤務条件の決定に関する憲法上の地位は右と基本的に同一である。そのため、これらの職員に対しては、労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権も、その一環としての争議権も、憲法上当然に保障されているわけではないのであつて、現行法上これらの職員に協約締結権を含む団体交渉権が付与されているのは、憲法のもとで許されている国会の裁量によるものと解せられる。さらにこれらの事業は利潤の追求を本来の目的としておらず、その労使関係には市場の抑制力が働かないため、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を果たすことができず、また、公共性の高いこれらの職務の停廃により国民生活が重大な支障を受けるおそれがあるから、争議行為を全面的に禁止したことは不当とはいえない。加えて、右の禁止に対応する仲裁などの代償措置もよく整備されており、結局、その禁止を違憲とする理由は存しない。」というにある。

ここにおいて、公労法一七条一項の違憲論は、その立論の根拠を全く失うに至つた。

(二)  公労法一七条一項違反のストにつき公社法三三条に基づく懲戒処分の適法性

(1) 違法ストもストである以上は、労働者の団結体たる労働組合の統一的集団的行為であることは当然であるが、反面においてストは、団体構成員である組合員が共同して意欲した個別行為の集合であることも否定することができない。従つて、端的に言えば、ストは組合の行為であると同時にこれに参加した個々の組合員の行為であるから、違法ストにつき組合が団体として責任を負うのとは別に、個々の組合員もその責を負うべきである。

元来、スト権の保障は、正当な争議行為に限りこれを労働法上団体行動として保護することである。ストは業務の正常な運営を阻害する行為であるから、一般市民法上は刑事、民事の責任が生じ得べきものであるが、これらの責任を免責し、また、ストを理由とする解雇等の不利益取扱いを禁止することに、スト権の権利性が認められる。このようなスト権の保障は正当な争議行為に限られており、ストが不当、違法なときには、それは労働法上もはや団体行動として保護されず、右に述べたような正当な争議行為に与えられる免責的利益を享受し得ないのである。換言すれば、違法ストは労働法上の団体行動ではなく、法的には個々の労働者の個別行為として経営秩序や服務規律に服することとなるのである。もちろん、ストが労働組合の行為でもあるという側面から、組合としても責任を負うべきことが生じ得るが、この組合としての責任と個々の労働者の責任とは、別個独立のものとして併存するのである。

正当な争議行為の民事免責を定める労組法八条は、「労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない」旨規定し、本来免責なき場合に組合員個々が使用者に対し債務不履行ないし不法行為による責任を負うことあるべきを当然予定している。また、同法一二条は、法人の不法行為能力に関する民法四四条の規定を、法人たる労働組合に準用するものとしているが、右民法の規定の解釈上、法人とともに機関個人の責任が生ずるものと解されている。そして、労組法一二条は、同法八条に規定する組合の正当な争議行為については、右準用を除外する旨明らかにしているのである。

以上は、違法スト一般についての懲戒責任の法理であるが、公務員関係のストとその懲戒責任については、次の点が注意さるべきである。

一般に私企業における企業秩序ないし服務規律は、労務の提供に関連する事項に限定され、私企業における懲戒処分は原則として、このような企業秩序の維持の目的の範囲において行なうことができるものと解されている。これに対し、公務員関係等における秩序は後にも述べるとおり、公務員等の地位の特殊性から、単に労務を提供することに関連する義務に限らず、公務員たる地位等に伴う様々な服務義務、例えば、信用失墜行為の禁止、政治的行為の制限、営利企業への従事制限等の義務を課しているという意味において、私企業の労働関係における企業秩序とは異なる特殊性をもつものである。したがつて法の禁止に違反する争議行為についても、単に職務秩序違反というにとどまらず、法によつて課せられた公務員等としての服務義務に違反する側面をもつことを、看過することができないのである。

また、国公法は、国家公務員たる職員について適用すべき根本基準を確立する等の目的(一条)から、九八条二項において職員の争議行為等を禁止しているのであつて、その旨は、団体的に行なわれる争議行為を組成する個々の職員の行為を違法なものと評価し、これを禁じていると解せざるを得ない。公労法一七条一項も同様に、職員および組合員の一切の争議行為を禁止し、同法一八条は右規定に違反する行為をした職員について、解雇という不利益処分を定めているのであるから、争議行為が集団的な性格をもつということを理由に、個々の職員の行為について、法律の規定に基づきその懲戒責任を問うことを妨げるべき理由は全くないのである。

(2) 被告公社は公社法三三条で公社職員に対する懲戒制度を定めているが、これは公社職員の義務違反ないし非違行為について法定の制裁を課することによつて「職員等の非違を戒め、公社の秩序を維持することを目的とする」(日本電信電話公社懲戒規程二条)ものである。一般に私企業における懲戒の目的については、使用者の立場からする職場規律ないし企業秩序の維持にあると解されている。公社職員の懲戒もその服務関係の秩序維持の目的から設けられている点においては、私企業における懲戒と実質的に共通する面のあることは否定できないが、服務関係における秩序は公社職員の地位の特殊性に照らし、私企業の労働関係における企業秩序と本質的に異なる要素をもつことが注意されなければならない。

すなわち、わが憲法上公務員はすべて全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではないとされ(憲法一五条二項)したがつて、国家公務員たる職員にすべて国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行にあたつては全力をあげてこれに専念しなければならないものと服務の根本基準が定められている(国公法九六条一項)が、これを公社職員についてみれば、公社法一条、三四条の当然の帰結として日本電信電話公社職員就業規則(以下「就業規則」という。)四条の服務の基準等、すなわち、職員はその職務の遂行にあたり公社業務を合理的かつ能率的に運営して、国民の利益を確保することによつて、公共の福祉を増進することを常に念頭に置き法令等を遵守するとともに職務に専念することを求めているのであつて、条文の体裁を異にするとはいえ、その趣旨は全く公務員と同じである。

このことは公務員等の服務関係は国民に対し、職務の民主的かつ、能率的な運営を保障することを目的とする(国公法一条一項)のであり、いいかえれば、それは国民の信託、その負託ということによつて基礎づけられることになるのであつて、このような勤務関係の特殊性から法あるいは就業規則は公務員等に対し、種々の義務ないし制限を課しているのである。

国公法等が公務員等に対して課している法令および上司の職務上の命令に従う義務(国公法九八条一項、公社法三四条一項)や職務専念義務(国公法一〇一条一項、公社法三四条二項)は、私企業の労働関係においてもこれと同様のものを見出すことができるにせよ、公務員等の場合には国民全体の利益ないし公共の利益の維持という見地から、法によつて課せられている義務である側面を逸することはできない。

また、私企業における企業秩序ないし服務規律は、原則として労働者の労務の提供に関連する範囲に限定されると解されているが、公務員関係等における秩序維持の要請は、公務員等の地位の特殊性から、このような労務の提供に関する限度にとどまらず、職務の内外を問わず全体の奉仕者たること自体を対象として様々な服務義務を課している。例えば、信用失墜行為の禁止(国公法九九条、就業規則九条)、私企業からの隔離・営利企業等の従事制限(国公法一〇三条、一〇四条・就業規則一一条)などがその典型である。これらの義務ないし制限は、私企業の労働関係にはみられない固有のものということができる。

要するに、公務員等の懲戒制度は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき公務員等の特殊的地位に基づき、公務等の執行ないしは公務員等に対する国民の信頼を維持することにその目的があり、使用者の利益保護を目的とする私企業の懲戒制度と、これを同一視することはできないのである。法の禁止に違反する争議行為についても、このことは同様である。被告公社の電信電話業務は公衆電気通信法によつて、公共企業体たる被告公社の独占業務として組織づけられているものであり、それが正常に運営されること自体が国民全体の利益と密接な関係にあるというその本質に照らして、争議行為は公社業務の維持の面からする職務秩序に違反するものであるとともに、他面においては準公務員として課せられた服務義務に違反する側面をも有し、懲戒責任は免れ得ないところである。

したがつて、職員が公労法一七条一項違反の争議行為を行なつた場合は、そのこと自体、〈1〉就業規則に従う義務を定めた規定(公社法三四条)、職務専念義務を定めた規定(公社法三四条)に違反するとともに、〈2〉職務上の義務に違反し、または職務を怠つた場合に該当し、同時に、就業規則五九条一・一八・一九号にも該当する。

したがつて右行為は、公社法三三条の定める懲戒事由に該当するものとして、懲戒責任を免れ得ない。

(3) 公労法と公社法及び就業規則との関係

公社法及び就業規則の服務規程は、準公務員たる公社職員について適用すべき各般の根本基準を確立し、国民に対し、職務の合理的かつ能率的な運営を保障すること等の目的で制定され、同法の服務および懲戒関係の諸規定は、このような立法目的に基づき服務関係における秩序を維持する観点から定められている。一方、公労法は公共企業体等の労働条件に関する苦情または紛争の友好的かつ平和的調整を図るため、団体交渉の慣行と手続とを確立することを第一次の目的として(一条)、この関連において公共企業体等の正常な運営を最大限に確保するため、職員等の争議行為を禁止しているのである。このように公社法等と公労法とは立法目的を異にし、その規律する側面を別にしている。公務員等の関係における秩序維持ないし服務義務の確保ということは、本来国公法等に予定されている事項である。したがつて、公労法一七条一項違反の行為は、右にいう服務義務確保の観点から考察した場合、公社法三三条の問題となるのである。

もとより公労法一七条一項違反の争議行為は、同法一八条の構成要件にも、公社法三三条の構成要件にも該当する。しかし先に述べたような公社法等と公労法との立法目的の相違に照らし、右の両者は併立し、そのいずれかを適用することは可能であるし、また適法である。

右のいずれを適用するかは、結局のところ公共企業体側の選択に委ねられていると解される。

(4) 公労法一八条の立法趣旨

公労法一八条の解雇が懲戒解雇の性格を有するか否かについては、見解が分れているところであるが、千代田丸事件判決(昭和三八年(オ)第一〇八九号・同四三年一二月二四日第三小法廷判決)が述べているように、公社法における職員の身分保障に関する規定にかかわらず解雇することができると定められた趣旨に照らし、公社法に規定する懲戒処分としての免職とは別個の処分ということができよう。

しかし他面において、公労法一七条一項違反の争議行為に対して法が解雇でのぞむことを明らかにし、違反者を公共企業体等から排除すべきことをはつきりさせていることは、業務の正常な運営を阻害する行為の発生を容認できないとしてその違反を重大視しているものである。この意味において一八条の解雇は、実質的にみて制裁としての性格を有するものであることは否定できない。

右に述べたように、公労法一七条一項の違反の行為に対する一種の制裁として法が解雇までできると定めた趣旨に照らしても、当該行為の態様、程度等を勘案して、解雇に至らない停職以下の懲戒を行ない得ることは当然というべく、かく解することこそ合理的であるといわなければならない。違法争議行為に対しては、公労法一八条の解雇しかあり得ないとする見解は、常識的に考えても妥当性を欠くものである。

(三)  被告公社職員のストと国民生活に及ぼす影響

(1) 公社の法的性格

公社は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し、並びに、電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法人たる公共企業体である(公社法一条・二条、公労法二条一項)。

すなわち、公衆電気通信事業は、従来、純然たる国家行政機関によつて運営せられてきたのであるが、元来、国家行政機関は権力をもつて国民を統治することがその機能の中核であつて、事業の運営そのものはその本来的な使命ではない。そのため国家機関とその職員とを規整する法体系は、このような権力機能の遂行に適合するように構成されていて、事業の経営には必ずしも適合していない。

しかしながら、国営事業でも企業である以上、その運営の高能率化をはかる必要があり、そのためには国家事業に一般行政機関と異なる相当の自主性を与える必要があるところから、一種独特の法人として公共企業体が創られたのである。これは、国家行政の経済的活動分野における合理化をはかるための一方式であり、この意味で公社は国家目的達成のための国の行政組織の一種というべきである。

(2) 公社に対する公法的規制

公社の行なう公衆電気通信事業は、後述するように、高度の公益性、社会性ないしは独占性を有し、本質的には国家社会並びに国民生活の維持発展の最低基盤を保障するものであつて、国家財政あるいは経済政策上、極めて重要な意味をもつとともに、国民生活全般ないしは国民の福祉に対して高度の関連性をもつているのである。

したがつて、その事業自体が、国家秩序もしくは、国家社会秩序のうちに組織づけられているのであつて、このことは次に述べる実定法の諸規定からみても明らかである。

すなわち、公社はその資本金を全額政府の出費とされ(公社法五条)、郵政大臣の監督を受け(同法七五条)、その業務の運営は国家の両議院の同意を得て内閣が任命する経営委員をもつて構成する経営委員会の指導統制に服し(同法九条以下)、その総裁、副総裁は右経営委員会の同意を得て内閣が任命し(同法二一条)、その予算については郵政大臣及び大蔵大臣の検討、査定を受けて国会に提出され、国会の議決を必要とし(同法四一条・四八条)、その会計は会計検査院の検査を受け(同法七三条)、その業務の実施状況に関し、行政管理庁の調査を受けることとされ(行政管理庁設置法一二条一二号)、不動産登記法、土地収用法、著作権法、船舶法、水難救護法、公有水面埋立法、特許法、地方自治法、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律、医療法、緊急失業対策法、建築基準法、下水道法、公共用地の取得に関する特別措置法等数十の多数にのぼる関係法令を準用するものとされ(公社法八五条、日本電信電話公社関係法令準用令)、さらに公衆電気通信サービスの料金額の決定は法律によつて定められ、あるいは郵政大臣の認可を要するものとされているのであり(公衆電気通信法(以下「公衆法」という。)六八条)、また職員の賃金決定についても財政民主主義の原則上、政府、国会から強い制約を受けているものである(公労法一六条)。

(3) 電気通信事業の公共性

現代社会においては、政治、経済、社会生活等諸領域でその活動が多様化しているため、的確な情報の収集把握が強く望まれている。

このような社会にあつて、物理的な空間の障壁を克服して即時に情報を伝達する電気通信は、今や欠くことのできない重要性を帯びているし、今後もますますその役割が大きくなつていくことは確実である。

日常生活の上でも情報化社会と言われる今日の社会の要求に答えて、電気通信は、国民生活に直接又は間接に関係する諸情報の収集、交換に活躍し、生活内容を向上させてきていることは周知の事実であり、また最近では身体障害者や一人住いの老人用等新しい電話が開発されて国民福祉の面でも寄与している。さらに電気通信は、一一〇番、一一九番の例をみれば明らかなように国民の生命身体及び財産の安全という点でも多大な貢献をしているのである。ちなみに一一〇番及び一一九番による犯罪ないしは火災の通報は、昭和四八年度において合計四二〇万度数、一日当り一万度数以上にも及ぶに至つた。

以上述べたとおり、電気通信は、迅速通信としてはこれに代替し得る通信手段がなく、しかも政治・経済・文化・社会等国民生活の全領域において国民の利益と密着し、社会の公器として、一瞬たりともその役割を無視し得ないものであることがまず認識されるべきである。

このように、電気通信は、生活、政治、経済、文化等社会機能の中で、きわめて重要な役割を果しているが、このことは電気通信事業が高度の公益性と社会性を有していることを意味する。

また、電気通信事業を運営するには、ぼう大な設備を大量にかつ広範な地域に設ける必要があり、効率的な資本投資の上からも、莫大な投資額を要することからも、さらに料金、サービス内容等の画一性の社会的要求からもその事業は独占性を固有の特質とせざるを得ない。

前記のような社会性に加えて、かかる事実上、法律上の独占があるが故にその運営にあたつては、最高度の能率を発揮することが社会的責任として要請され、ここに企業性もその特質となるのである。

以上述べたように、公衆電気通信事業には公益性、社会性、独占性、企業性等の特質があり、これらの特質はまたその公共性のすぐれた徴表でもある。

公衆法第一条が、公衆電気通信業務の運営について、「合理的な料金で、あまねく、かつ公平に提供することを図ることによつて、公共の福祉を増進する」とうたつているのは、この公共性の趣旨に出るものといえよう。そして公衆法が公衆電気通信役務の提供については、すべての国民に対し差別的取扱をすることなく、公平に行うべきものとし(公衆法三条)、天災・事変その他の非常事態において、社会生活の基礎安定のために業務の一部を停止し得るものとし(同法六条)、あるいは役務に関して誤配達電報の返還・通知義務(同法二二条)、非常電報・非常通話・緊急通話等の優先制度(同法一五条・一六条・四九条・五〇条)、加入電話加入申込の承諾義務、並びに公益のための優先的承諾義務(同法三〇条一ないし三項)等を定め、料金についてこれを法定し、(同法六八条)、警察・消防のための通信、新聞社・通信社、その他災害予防のための通信料は、減免し得る(同法七〇条ないし七二条)としているのは、まさしく電気通信事業を国民全体の公器として考えていることを示すことにほかならないのである。

このほか、電気通信事業においては、検閲の禁止(同法四条)、秘密の確保(同法五条)等が明文をもつて規定されているのであつて、公社の行う電気通信事業をとおして、国民全体の共同利益もしくは公共の福祉の実現が強く要請されているのである。

以上述べたところから明らかなように、公社の行う公衆電気通信事業は、国家社会・国民全体の公器として、昼夜をわかたず無数の通信をいつでも迅速・確実に扱うべき使命を有するものとされ、現に右使命をはたしているのであつて、その業務の公共性は疑いの余地なく、また、その業務の一時なりとの停廃が国民全体の共同の利益を害し、あるいは害するおそれのあるものであることも明らかである。

(4) 公社職員の法的地位

前述したように、公社は、公共性と企業性という二つの面を調和させ、能率的運営を図らねばならない。したがつて、公共性の面は一般に公法の規律を受け、その企業性の面は概して私法の規律を受けるという公私両法にまたがる存在となつている。

そして、公社職員は、「罰則の適用に関しては法令により公務に従事する者とみなす。」とされており、(公社法三五条、一八条)、この関係からの身分関係は、右にいう公法的な部面に該当するものであり、また公社職員は国民全体の共同利益に奉仕し、究極的には国民に責任を負わなければならないのであつて、そのことはその服務関係の本質が国家公務員と異なるところのないことを示している。

公社職員に対しては服務の根本基準(公社法三四条、国家公務員法九六条)罰則の適用(公社法一八条、三五条)、犯罪告発義務(日本電信電話公社関係法令準用令二条一三号)予算執行責任(予算執行職員の責任に関する法律九条、二条三項、三条二項)等多くの公法的規制により国家公務員との等質性を保持するような配慮がなされ、争議行為の禁止(公労法一七条)等その労働関係及び給与関係については国の五現業と同様の法律制度になつている。

したがつて、公社職員の法的地位は国家公務員、なかんずく現業公務員の地位に近く、国家公務員に準ずるものであることは明白である。

(5) 公社の業務について

(ア) 公衆電気通信サービス

公社は、公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務その他公社設立の目的を達成するために必要な業務を行うこととされ(公社法三条一項)、さらにこれら業務の円滑な遂行に妨げのない限り、郵政大臣から委託された業務、その他の委託による業務を行うことができるとされている(公社法三条二項)。公衆電気通信業務とは、電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備たる電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供するいわゆる公衆電気通信役務を提供する業務である(公衆法二条)。すなわち、公社の行う事業は、公衆電気通信役務(サービス)を提供する事業である。

(イ) 公衆電気通信網

この公衆電気通信サービスは、電話機、電話線、交換機、無線通信設備等、きわめて多種多様の、しかも日進月歩する電子工学を主体とする電気通信設備により提供されており、これらは、全国にわたつて設備され、おのおの有機的につながり、これを鳥かん図的にあらわせば、濃淡のある網目のような電気通信網となつている。

電話の通信網について言えば、電話の通信回線には、加入者と電話局とを結ぶ市内電話回線と電話局相互間を結ぶ市外電話回線とがあり、この両者によつて全国的な電話回線網が構成されている。このうち市外電話回線網についてみると、全国に散在している加入者の中から任意の加入者を選んでこれと通話が出来るようにするために、全国に設置されている約五三〇〇(但し、昭和四四年当時)に及ぶ、すべての電話交換局を何等かの形で結ぶことが必要である。そこで、公社は、おおむね半径一五キロメートルごとに地域を区切り、その区域の中で最も通話量の多い都市に設置されている電話局をその区域の集中局とし、この集中局に当該区域内の各電話局からの回線を集中して市外通話の中継を行わせるようにしている。

これらの集中局をいくつかまとめて中心局を設け、さらにその上位に総括局を設け、この最上位の総括局相互間を接続することによつてすべての電話局相互間の通話が出来るようにしているが、特に通話量の多い特定の区間については上位の局を経由しないで直通で結ぶ回線を作成して、市外回線網の効率的利用をはかつている。

(ウ) 公衆電気通信施設

公衆電気通信網を構成する公衆電気通信設備を分類すれば、電話機等電話回線の末端に設備された「宅内施設」、電話線等通信を運ぶ有線の伝送路として設備された「線路施設」、電話交換機等通信交換のため設備された「交換施設」、電報、加入電信、データ通信関係の「電信データ施設」、大量の通信を送るために設備された「搬送施設」、マイクロウエーブ等無線関係の「無線施設」、さらには各設備の運用に必要な電力を供給するために設備された「電力施設」に区分される。

これらがすべて完全にその機能を発揮し一体となつてこそ、はじめて期待される電気通信サービスを国民に提供できるものである。

(6) 公社の部門別業務の概要

(ア) 電電公社の機構

公社の機構中、電気通信局は公社の地方機関であつて、日本国土を東京・関東・信越・東海・北陸・近畿・中国・四国・九州・東北・北海道の一一区に分つた各区に設置され、各受持区域内の機関を管理し、本社が定める基準に従つて事業運営の指導統制を行つているものである。

右電気通信局の管理の下に四九の電気通信部、八の都市管理部、一二の地区管理部が設けられ、それぞれの管轄区域内の電話局、電報局などの現場機関を指導援助し、また設備・拡充を実施するなどの業務を行つている。

電気通信局の下には、以上の電気通信部等三部のほかに、一〇の搬送通信部が置かれて搬送回線の統制、搬送機械等の建設・保守を行い、また一〇の無線通信部が置かれて無線回線・無線機械等の建設・保守を行つている。

電話局・電報局、電報電話局等は、電気通信部・都市管理部・地区管理部の管理下にあつて、公衆電気通信事業の第一線に立つて利用者たる国民にサービスを提供し、施設の保全・整備の仕事を直接扱つている現場機関であり、電話中継所は搬送通信部の管理の下で中継所の局内設備・市外電話回線の保全及び建設等を扱つている現場機関であり、無線中継所は、無線通信部の下で無線中継所の局内・局外設備並びに無線区間の保全建設等を扱つている現場機関である。

(イ) 電信運用部門の業務

電信には電報・加入電信があるが、主たる業務は電報である。電報の業務は、受付・通信・配達の三つに大別できる。

電報受付業務は、利用者が注文する多くの種類の電報を窓口・電話・船舶・加入電信等から受付、配達を担当する電報局等に送信するために必要な形を整備する作業であり、通信業務は、受付部門から回されてきた電報を配達局まで伝送する作業である。

配達業務は、発信局から各中継局を経て送られてきた電報を受取人に届ける作業である。この配達のうち約七%の通数は外部に委託している。

(ウ) 電話運用部門の業務

(手動交換業務)

手動による電話交換業務として、申込み即時通話サービス業務(手動即時という。)一〇〇番通話(DSA通話という。)サービス業務等がある。すなわち、手動即時業務は、直接ダイヤル市外通話が不可能な地域の電話から市外通話の申込みがあつた場合、公社の電話交換取扱者が即時に相手と接続し、通話を行わせるものであり、この方法によらなければ、他の市外通話の方法がなく、そういう意味では基本的なサービスといえる。

また、ダイヤル市外通話が可能な区間であつても料金の明細を知りたい場合等に交換取扱者に接続を依頼し、それによつて通話を行わせるのがDSA通話サービス業務である。

さらに、農山漁村地域にある地域集団電話や小形公衆電話等、ダイヤル市外通話がかけられない電話からの市外通話も、これら交換取扱者によつて接続するものである。

なお、昭和四九年四月において交換手を通す通話は一日約五三〇万通存在する。

(案内サービス業務等)

交換取扱者が行う番号案内サービスには、市内案内(一〇四番)と市外案内(一〇五番)がある。電話番号帳発行日以後に新しく電話をひいた人、あるいは住所を変更した人の電話番号を知るには、番号案内サービスに頼るしか方法がなく、その点で不可欠のサービスである。

また、通話の利用方法の問合せや、通話料金等に関して、利用者から問合せを受けた場合、それに対して取扱者が案内する利用案内サービス業務があり、さらに、通話先の加入者が番号変更等の異動により空番号になつていることを知らないでかけてきた利用者に対し、新番号や異動内容を案内したり、あるいはダイヤルを間違つてまわし、使われていない番号などにかかつたとき、その旨及び利用方法を知らせたりする通知サービス業務がある。

(通話サービスの維持向上のための業務等)

電話運用部門では、通話の品質を常に良好に保つため、日常通話量の測定、分析を行つて設備の有効利用、過不足改善等に役立てたり、個々の利用者の電話のつながりぐあい(通話完了率という。)を調査し、電話のかかりにくい原因を究明したり、手動サービスの応答時間等を調査してサービスの管理を行つたりしている。

また、電話料金決定の資料となる度数料の指数調査も実施している。

(エ) 保全部門の業務

公衆電気通信サービスは、電気通信設備を有機的に構成した網、すなわち、市内電話網・市外電話網・電信網・専用及びデータ通信網、テレビ及びラジオ中継線網等によつて提供されているが、保全業務はその通信設備の操業(オペレーシヨン)と通信設備の保全作業を行つている。保全作業は、大きく分けると、自主的に計画を立てて行う予防保全業務、外部からの要請に基づいて行う他動的な保全業務、付帯的共通的な業務及び建設工事に大別することができる。

予防保全業務は、通信設備障害の探索、修理及びこれに付帯する作業である「障害修理」、設備の正常な運転を続行させるための蓄電池の補液、機器の注油、メータの監視、機器の清掃などの「運転作業」、保全統計資料収集、分析、施設台帳の整備、各種部外工事の際の立合、保全計画の作成、回線統制、その他管理的な作業である「保全管理」、定期または随時に行う施設の試験及び巡回、並びにこれに基づく不良施設の部分的小修理作業である「試験及び巡回」、設備不良原因の探究のため行う監査点検及びこれにより発見された不良箇所の小修理などの「監査点検」等多くの作業によつてなされるものである。交換機を例にとればその障害のうち三分の一は日常の予防保全作業の中から発見されたものであり、放置しておけば大きな障害等に発展する危険性を事前に除去し得るという点でも予防保全業務は、極めて重要な業務である。

また、顧客の要請、災害の応急復旧などのように、他動的な要因に基づいて実施される他動的保全業務には、加入電話、公衆電話、加入電信等の移転または加入取消し、廃止に伴う作業である「構内外移転工事」、部外からの申請により行われる電柱及び電話線等の移転作業である「支障移転」臨時の加入電話、公衆電話、専用電話及び市外電話回線、電信回線などの作成または撤去を行う作業である「臨時回線の作成等」等の作業、並びに風水害、雪害、火災、盗難などによる施設の被害を応急的に復旧する「災害に伴う保全作業」がある。

さらに、現場機関においては、工事の規模が比較的小規模な建設工事、すなわち加入電話、加入電信、専用電話などの新規取付等の「加入者開通工事」、「各種付属機器、特殊装置の取付」、各種公衆電話、地域集団電話等の新規取付作業である「その他の新増設工事」などを実施している。

最近における電信電話設備並びに自動即時網の拡大及び通信機器の安定に対する社会的要請の高度化等に対処するため、通信施設の保全業務はますます重要になつている。

とりわけ、電気通信設備は完全に機能しうる状況に整備され、配置されていてこそ、はじめてその効用を発揮しうるのであるから、通信設備の保全の重要性は通信サービスと同様、もしくはそれ以上にこれを軽視しえないのである。電信電話は電力設備・搬送設備・無線設備・線路設備・交換機器・電話機等一連の機械設備が相互に密接な関係を有し、いずれもが適正確実に作動することによつて、はじめてその機能を発揮するものであるが、これらにつきものの自然的消耗による故障をはじめ、交通事故・道路工事・その他の人為的原因、あるいは地震、火災等の偶発的原因によつて、常に障害発生の危険にさらされているのであつて、一箇所の線路障害が一地域内の何千何万もの電話の不通を結果し、一交換機の一部の機能麻痺が当該電話局全部の交換機を麻痺させ、ひいては、他の電話局との通信を不能にさせるといつた事態も容易に想定され、通信の重要性、非代替性をあわせ考えれば、一時なりともこれら障害に対する警戒の弛められていいはずはないのである。公社ではかかる事態発生の予防、障害の早期発見、そして早期修復に可能な限りの努力を傾注しているのであり、そのために公社は約四〇%の要員をこの保全業務に従事させているのである。

(オ) 営業部門、共通部門の業務

営業部門は、対顧客活動を担当する部門であり、公衆電気通信サービスの始点を受け持つという重要な業務を有する。一例をあげれば、顧客が電話を初めてひく場合、電話局ではその注文により、すぐ電話を取り付けることを確認したうえ、どんな電話機を何個どのように取り付ければ最も便利であるか顧客と相談し、電話番号を決め、電話の取付日を予約し、電話の取付代金を支払つてもらい、電話を取り付け、通話サービス開始といつた一連の過程のうち、電話を取り付ける業務以外について、公社を代表して顧客と接触しているのが営業部門である。

営業部門は、この他、顧客からの電話の移転注文、電話の名義書換等電話に関する多くの各種注文を聞き、あるいは多様なサービス販売を行うとともに、これを運用部門、保全部門等関係部門に伝えて処理し、顧客の要望を実現させ、その後にあつては、アフターサービスとしての相談活動を行い、さらに、電話料金の請求、収納等の多種多様な業務を有している。

共通部門は、資材、経理、厚生、庶務等公衆電気通信サービス提供の基礎を担当するもので、公共電気通信設備等の調達、保管、配給等の資材業務、企業の財務会計をあずかり、公衆電気通信事業の運営及び能率を図る経理業務、公衆電気通信サービスに従事する職員の福利厚生、給与等を担務する厚生・庶務業務等がある。

(7) 昭和四三年度における電電公社の業務概要

(ア) 電話業務

昭和四三年度末における加入電話等は、総数約一二〇四万(一般加入電話約一一三六万、事業所集団電話約一万、地域集団電話約六七万)、人口一〇〇人あたりの加入電話等の普及率は一一・八、また電話機数の普及率は一七・〇、また公衆電話は総数約三六万四千、人口一〇〇人あたりの普及率は〇・三六でアメリカについで世界第二位であり、これらを扱う電話局数は直営局と委託局とをあわせて、約五六〇〇局である。

昭和四三年度における通話サービスの実情をみると、市内通話については一般加入電話のうち自動式は九四%を占め、市内通話の大半がダイヤルで行われるようになつており、その通話完了率はサービス基準値七五%を上回る平均七五・五%(一〇大都市平均)の良好な状況を示している。

市外通話のうち即時式市外通話については、市外回線の自動即時化率は八七・八%、その通話完了率は平均七六・二%である。一方、手動扱い即時通話(即時網に編入された集中局区域内の手動局の加入者等にかかわる通話及びDSA台通話)及び手動扱いの待時通話は、市外通話の約二〇%で、その一日当りの総数は約三一二万通話、その内訳は一〇〇番通話約一五三万、手動即時約一四三万、待時約一六万であり、即時台の応答基準一一秒以内達成状況は約九二%である。

また、これらの手動扱い局は全国で五〇〇余局、交換に従事する交換要員は約六万六〇〇〇人である。

電話番号等の問合せに対する案内及び利用案内の昭和四三年度一日当りの総数は、市内案内約一五三万、市外案内約四七万、利用案内約一三万の多きを数えていた。

(イ) 電信業務

昭和四三年度における電報通数は、約七二〇〇万通であり、国民一人当りの年間発信数は〇・七通、その内訳は私用電報が約一九%(緊急電報は約三%)、慶弔電報は約三三%、業務用電報が約四八%であるが、委託局を含めて約二万局の受付局と約六八〇〇局の配達局とがこれに対処し、これに従事する職員数は約二万一〇〇〇である。他方、加入電信はその効用が広く産業界に認識されるにおよんで旺盛な需要を示し、昭和四三年度末における加入数は約二万七六〇〇となつている。

(ウ) 保全業務

前述のように、電気通信設備は、完全に機能し得る状況に整備されて、はじめてその効用が発揮されるのであるから、設備の予防保全、障害の早期発見等保全業務は重要なものであり、約一〇万人の職員が保全業務に従事していた。

しかしながら、昭和四三年度においても公社がA級異常障害と呼称している大きな規模で三〇分以上継続して通信障害を与えたものの年間発生件数は約四六〇件、一日平均約一・三件の多きに達しているのであり、これに右障害の発生を未然に防いだものを含めば年間障害発生可能件数が如何に多いかを知ることができる。さらに、もう少し小さい規模において三〇分以上継続して通信障害を与えるB級異常障害の発生件数は、その二ないし三倍にも達していた。

(8) 一宮電報電話局及び名古屋中統制無線中継所一宮分室について

(一宮電報電話局(以下「一宮局」という。)について)

(ア) 一宮局は、東海電気通信局愛知電気通信部所管の現場機関であるが、同通信局管内では、岐阜電報電話局・静岡電話局とならんで一宮市及び周辺諸都市の電報電話通信業務を管掌する大局に属し、四部(一七課)四課一分局三分室をもつて組織され、本件ストライキ当時の総職員数は六六八名である。

四部は、業務部、運用部、第一・第二各施設部であり、業務部は営業サービスと電報サービス、運用部は交換・案内業務を主とする運用サービス、第一・第二施設部は電気通信施設の保守・建設の業務をその所管業務としており、本件ストライキ当時の各部所属職員数は業務部九九名、運用部二一五名、第一施設部一〇二名、第二施設部一〇一名である。

また、通信網の構成からいえば集中局であり、一宮集中局区域内に発着する市外通話のそ通上の中心となつている。

(イ) 一宮局扱いにかかる昭和四三年度末における一般加入電話数は約四万二三〇〇、電話機数は約五万六六〇〇、加入電話普及率は一〇〇人当り一五・六、また、公衆電話数は約九七〇で、その普及率は一〇〇人当り〇・五でいずれも全国平均を上回る普及状態を示している。

また、市内ダイヤル化率は一〇〇%であり、また、ダイヤル通話度数は約二億三〇八万度、一方手動扱い件数は一日当り一〇〇番通話約八二〇〇、待時通話約二六〇、案内約七三〇〇に達している。

以上から明らかなとおり、一宮局と地域住民との関係は極めて密接なうえ、一宮市は人口約二一万の中都市ではあるが、全国的にも著名な繊維産業の中心地であり、その通信範囲は広域にわたつている。

(ウ) 電報業務の扱い件数は、昭和四三年度において発信約一五万六〇〇〇通、着信(配達)約一〇万七〇〇〇通、中継信約一五万一〇〇〇通の多きに達しており、外国電報も二三七通扱つていた。

(エ) 保全業務との関係で現実に発生した障害件数の面からみると、昭和四三年度における交換機関係の機械障害は約一六〇〇件であり、障害の主な原因はリレー等の接点間の接触不 良、機器の調整不良、部品不良、夾雑物、機器の汚れ、布線の断絶・混線・ルーズ、装置・機器の誤操作、取扱不良等多種多様である。また、電力関係の機械障害は約七〇件であり、主たる原因は部品劣化、誤操作、修理不良、整備不良等である。電力関係の障害はその影響力が大きいため、日常における不断の保全強化と職員の技術向上を必要とし、現にそのように努めている。線路関係の障害件数は約七五〇〇件であり、その主な原因は設備劣化、施工不良、自然腐食、雷電、他物倒壊、他物接触、道路工事等である。これら線路障害によつて発生した障害を早期に修復しない場合、電気通信の端末機器を接続する伝送路の中断だけに、特定地域に重大な混乱を惹起するにとどまらず、他地域への影響が派生することもあり、あるいは一一〇番、一一九番等の公安通信回線が組み込まれていれば、極めて深刻な社会不安が発生し、その影響は多大なものとなる。一例をあげれば、昭和四三年三月一五日午後七時頃に発生した異常障害は、付近の火災による類焼によつて発生したものであるが、このため、被害ケーブルは、一宮ないし川島間市外ケーブル二〇〇対、浅井局加入者ケーブル四〇〇対に及び、一宮ないし川島間は全く不通となり罹障回線は市外回線九一回線、市内回線三八八回線にもわたり、一宮局の懸命な努力にもかかわらず回復は翌一六日午後三時までかかつた事実がある。

以上が昭和四三年度における一宮局の機械及び線路の障害発生状況であるが、これら障害の総数は、実に約九一〇〇件にものぼり、一日あたり平均約二五件におよんでいる。公社では、これら障害発生防止のため、定期もしくは随時に機械、線路等の点検整備を行うものと定めており、一宮局もこれに従つて点検整備を反復実施している。

(名古屋中統制無線中継所一宮分室(以下「一宮分室」と略称する。)について)

(ア) 一宮分室は、東海電気通信局名古屋無線通信部所管の現場機関である名古屋中統制無線中継所所属の分室であつて、その職員数は本件ストライキ当時一三名であつた。

同分室は、一宮局に入出する市外通話回線のうち、東京、大阪等全国一九対地に及ぶマイクロウエーブ回線及び超短波回線の送受信の基地であり、名古屋ないし岐阜間のマイクロウエーブ回線の中継基地でもあるだけでなく、日本道路公団が、東名及び名神高速道路の運行を管理する上で、極めて重要な専用電話回線の一宮側の窓口ともなつている。さらに一宮地域における公社内業務連絡用無線回線の基地局ともなつており、これらの点を総合的に見た場合、一宮分室は一宮集中局区域内における市外通話を確保する上で、そのかなめとも言うべき重要な役割を持つ無線中継所である。

(イ) 一宮分室では、無線通信設備の建設・保守及び回線維持管理を担務している。同分室の管理対象である市外回線は、一宮地域と全国主要対地とを密接に結びつける重要な回線であり、同分室業務の停廃が全国的規模の通信障害を誘発するものであることは、右通信業務の中継基地たる性格からいつても明白であり、厳重な点検・検査が要求される部門である。なお、昭和四三年度における同分室取扱いにかかる障害件数は一九九件で一日当り〇・六件に達していた。

(9) 結論

以上に述べたところによれば、公社の行う公衆電気通信事業が、国民生活全体に関連かつ密着し、国家及び社会活動の中枢神経たるべき枢要な任務を有し、また、国の経済、社会、文化等の政策手段として機能するきわめて公共性の高い事業であること、それゆえ、公社職員は各業務を遂行するに当たつては、公共の福祉増進を理念とし、有機的一体となつて公衆電気通信サービスを提供しなければならないこと、また、公社職員はその身分及び職務の性質、内容において、国家公務員に準ずるものであることは明らかである。

なお、このような公衆電気通信サービスを提供している公社におけるストがもたらす業務への影響を考えるに際しては、電気通信の仕組みは電気通信網があるが故に正常に機能しているのであり、その影響を一局所、一地域だけにとどめて判断すべきではないということを考慮する必要がある。

すなわち、網を構成し維持している各局所は、独立した存在ではなく、密接な関係をもち、相互に影響しあい、あるいは依存しあつた存在であるから、たとえ、一局所のストライキであつても、その影響はその局所を中心とする一地域にとどまらず、他の局所をとりまく多くの地域にまで影響を及ぼすおそれがある。

したがつて、公社職員のストは、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれが強く、国民の信託と期待を裏切ることになり、ひいてはそれは国家の存立ないしは国家目的達成の阻害となる。その意味において、公社職員のストは、重大な職務義務違反行為であり、組織内の秩序をびん乱する行為というべきである。

(四)  四月一七日の全電通のスト(以下四・一七ストという。)の規模、態様、業務阻害の程度等

(1) 昭和四四年春闘の概要

昭和四四年春闘は、四月に入り、まず鉄鋼回答が出され、その後民間の回答が一段と促進される中で、四月一七日に官民の統一行動がもたれた。民間労組とならんで公労協も民間支援、賃上げ、反合理化等をかかげてストライキに参加した。四月下旬には本格的な民間賃金の回答が出され私鉄が解決された後、公労協の賃金紛争も五月上旬には公労委の調停、仲裁によつて収束をみた。

(ア) 公労協の取り組み

昭和四三年一〇月一一日総評、中立労連等によりなる春闘委員会が発足し、春闘の統一要求として〈1〉一万円前後の大幅賃上げ、〈2〉合理化反対・労働時間短縮、〈3〉社会保障制度の拡充、〈4〉ストライキ制限の排除、〈5〉物価値上げ反対を掲げることを提案した。

そして、共闘委員会を発足させ、翌年二月五日の同戦術委員会で、春闘の統一要求を、〈1〉要求額一二〇〇〇円、高卒初任給三一〇〇〇円、〈2〉要求方式定額分三分の二以上、〈3〉実施時期昭和四四年一月一日とするとともに合理化反対・不当弾圧反対・労働基本権確立のたたかいを賃金闘争とあわせ強化することを決定し、また、具体的戦術として民間相場が確立する四月中旬にはこれを支援する立場から企業内問題(労働時間短縮・合理化問題)などをからめて実力行使を行い、最終ヤマ場となる四月下旬には大規模な公労協統一ストライキを実施することを決定した。

(イ) 全電通の取り組み

これより先、全電通は昭和四三年八月第二一回定期全国大会において昭和四四年春闘方針を討議し、柱を賃金闘争におき全国電気通信産業労働組合共闘会議(以下「電通共闘」という。)公労協等の統一闘争の中で充実した取り組みを図り要求実現のために徹底した闘争を行い全員ストライキ体制を前提とした拠点ストライキ方式によつて実施することを決定した。

さらに全電通は、第五二回中央委員会を一一月七日から三日間開催し、昭和四四年春闘については大幅賃上げに向けて全組織的行動を直ちに開始し公労協統一闘争の中で要求貫徹をはかることを決定した。

昭和四四年に入り二月二六日から二八日にかけて、第五三回中央委員会が開催され、大幅賃上げの獲得、物価値上げ、健保改悪阻止、安保廃棄、ベトナム戦争反対、軍事基地撤去等のスローガンを採択し、春闘にあたつては春闘共闘に結集して闘うこと、民間賃上げに役立つような実力行使を行うこと、ストライキは公労協統一闘争の中で真に打撃を与える拠点で半日以上行うこと、ストライキ批准投票は四月上旬に行うこと、ストライキ実施時期等の判断は中央闘争委員会等に一任すること等を決定した。

(ウ) 全電通の春闘統一要求

全電通は昭和四四年三月五日公社に団体交渉を申し入れて、基本給一万二〇〇〇円の一律賃金引き上げ、賃金体系の改定、昇給額表の改定等一五項目にわたる要求書を三月一五日を回答期限として提出した。

しかし、公社職員の給与は国家公務員及び民間労働者の給与等を考慮すること(公社法―三〇条)、のほかいわゆる給与総額制(公社法四三条、七二条)等により財政民主主義のもと資金上強い制約を受けているのであつて、このように法律によつて規制された公社職員の給与制度を前提とすれば未だ民間賃金も流動的であり、他の公共企業体等職員の賃金引上げも未確定な段階で一万二〇〇〇円にも及ぶ高額な一律賃上げを要求し公社の責任ある回答を求めることは甚だ無理を強いるものであつた。

右要求に対し、公社は三月一五日「昭和四四年度の賃上げ要求については今後の民間賃金の動向をみきわめたうえで回答する。賃金体系改定問題についても更に今後の交渉の中で話し合いたい」と法令や財政事情等の許す範囲において誠意ある回答を行い今後の団体交渉を通じて、平和的な解決を求めかつ努力する旨を表明した。

(エ) 中央交渉の経過と闘争の展開

(四・一七ストライキ前夜まで)

全電通は要求提出後公社の回答を持つことなく、三月一二日には指示三号を発し、賃上げ要求は勿論、健保改悪反対・物価値上げ反対・減税要求等を含めて春闘を闘いぬくための当面の行動として三月一七日以降全職場で組合旗掲揚、腕章、バツジ着用等によるいわゆる底辺行動を展開すること、三月下旬以降の闘争の準備をすること等を指示した。

その後、全電通は、公社の前記三月一五日回答をゼロ回答に等しいと評価したうえ、前記一五項目要求に関連して三月一九日指令第四号を発し大衆行動の展開、各地方組織の闘争委員会への切替えを指示し、その春闘態勢を固めていつた。

他方右一五項目をめぐる中央団体交渉は三月一八日、一九日、二〇日と連日行われたが、公社としてはもともと前記のとおり要求項目には公社単独をもつては決し難い要求事項もあり、なお、検討を要するとの立場からその解決を今後の交渉に委ねようとしたのに対し、全電通は、これを一方的に公社に誠意なしとして三月二四日指令第五号を発し三月二五日以降全国一斉時間外労働拒否闘争に突入することを指令した。

一方、全電通は第五三回中央委員会の方針に従い、かねてから昭和四四年春闘のヤマ場ではストライキを実施するとの基本線に立つて、その行動をすすめてきたが、三月三一日指示四号を発し、各地方組織は四月四日以降一〇日までにストライキ批准投票―いわゆる「一票投票」を実施しストライキ体制を確立することを指示した。

公社は、ただちに総裁名を以つて、全電通中央執行委員長に対し、一票投票中止の申し入れを行い、全国の公社機関においても対応する組合機関に対し、同趣旨の申入書を手交して、その中止を申し入れたが全電通はこれを拒否して一票投票を実施した。

その間全電通と公社との中央交渉は、さらに四月三日、四日、七日、九日、一〇日、一二日、一四日、一五日と行われたが、全電通は、公社の回答が具体的でないとして、四月一五日、かねての予定に従い、公労協各組合とともに、民間組合と歩調をあわせ四・一七ストライキに突入することを表明した上、指令第六号を発し「〈1〉四月一七日、別途指定する職場は始業時から午前一一時までストライキに突入すること。〈2〉右に該当する各地方組織の非専従役員は本指令にあるストライキの実施及びこれに関連する事項についての執行は一切停止する。」旨指令した。

公社は同日、総裁名による警告書を以つて全電通中央執行委員長に対し、ストライキ実施指令の即刻撤回を厳重に申し入れるとともに、全国の各公社機関においても対応する組合の各級機関に対し同趣旨の警告書を手交した。

(最終中央交渉と四・一七ストライキ突入)

四月一六日午後三時から一七日午前五時四五分まで継続された徹宵交渉において、公社は、当該時点における諸般の事情を考慮した上、公社としてなしうる最大限具体的かつ誠意ある回答として、「公社としては昨年にもまして今年は前進させたいと考えている。従来の経緯を考えて昨年以上に実のあるものとして情勢をきり開きたい。」「現在民間賃金の動向は流動的で全体として把握できる段階になつていないが、おおむね五%を下らないと推測されるので、その方向で検討したい。」と表明したのであるが、全電通はこれをも抽象的かつあいまいだとして、ストライキ突入とストライキ拠点局所を通告した。

その後、全電通は四月一七日、始業時から全国五拠点九事業所においてストライキに突入し、予定通り午前一一時まで強行した。

このストライキは後に詳述するように、ストライキ拠点においては公社の提供する業務に大きな支障が生じ国民生活に大きな影響を及ぼす違法性の強いものであつた。

(オ) 春闘の終結

その後、全電通は四月一八日、四月二一日の交渉を経て二一日午後公労委に対して調停申請を行い、五月二日未明に「八%プラス一〇〇〇円」の調停委員長試案が出され、組合側はこれで事態収拾に向うことを決め、調停不調の後に仲裁移行となり、五月一四日に調停委員長見解(前記の試案と同一)どおりの仲裁裁定が示された。

その間、全電通は四月二八日に指令七号(五・二ストライキの準備指令)を出し、四月三〇日に指令八号(ストライキ突入の指令)を発したが、公労委における五月二五日未明の前記調停委員長試案により全電通は闘争を収拾することを確認し、五・二ストライキの中止指令を出し、さらに五月六日には時間外労働拒否、大衆行動を中止するよう指示したことによつて今春闘は事実上終結をみた。

(2) 四・一七ストライキについて

(ア) ストライキ体制の確立

前述したように、全電通は、春闘共闘会議、公労協の方針及び中央委員会等の決定に従い、決戦段階の公労協統一ストライキへ向け、その体制を確立するよう行動した。

各職場の分会においても、上部機関の開催する会議に代表を送り、ストライキを含めた春闘段階における闘争への取り組みへの討議に参加しまた、分会執行委員会、分会職場委員会等を開いてストライキ批准の一票投票及びストライキへ向けての意識統一を行うとともに一般組合員に対しても職場集会、オルグの実施及び印刷物の配布、局舎へのビラ貼り、腕章等の着用、立看板の掲示等各種情宣活動を行つてストライキ実施の体制作りを行つた。

(イ) 四・一七ストの性格

四・一七ストライキは、公労協統一闘争の一環として民間支援の目的をもかねて実施されたスケジユール闘争であつた。

すなわち、四・一七ストライキは昭和四三年八月の定期全国大会以来常に総評・公労協の統一ストライキを意識しこれと歩調をあわせつつ、闘争計画を組み、闘争準備を実施しつつこれを実施したものである。公社の五%を下らないという回答は、公社としてはじめて自主的に数字を示して回答したものであり従来に比し、前進したものであつたのにもかかわらず、民間賃金の動向も定らない四月中旬のストライキは民間支援の目的もかねたスケジユール闘争というほかはない。

(ウ) 四・一七ストの規模

全国五拠点九事業所において始業時より午前一一時まで全職員による職場放棄という方式で実施された。

拠点局所は次のとおり公社機関の中でも有数の大局が選定された。

東北 秋田電報電話局、秋田中統話中、秋田中統無線中継所

関東 市川電報電話局

東海 一宮電報電話局(名古屋中統無線中継所一宮分室を含む)

近畿 神戸中電局

中国 倉敷電報電話局、倉敷中統話中

(エ) 四・一七ストの特徴

〈1〉 本件ストライキは計画当初から公社業務ひいては国民生活に対する積極的、攻撃的意図があつた。右のような意図の存在は次のような事実により明白である。

(A) 全電通の機関紙である全電通新聞一二二六号(昭和四四年三月八日)は前記第三回中央委員会における四・一七ストライキに関する討議の模様を報じているが、その中にみる地方代表の

「ストライキ拠点の設定には公社に打撃を与えるよう大胆なものにしよう。」

「従来の最高半日のストライキから最高一日のストライキに拡大しよう。」

「組合員の一割を上京させ、本社・市外電話局・中央電報局を長期に占領するくらいの行動も必要ではないか。」等の発言からも窺われるように、同委員会における決定が公社業務に対する積極的攻撃意図の交換の下でなされたことは疑いない。現に同委員会でなされた決定の内容も前述したとおり、明確に公社業務に対する打撃を強調し、拠点局所の選定もかかる見地からなされるべきこと及びストライキの時間帯を一日以内とすることをうたつているのである。

(B) 前記ストライキの規模のところで述べたような有数の大局を選定した。

(C) 抜打ストを計画し実施した。すなわち、

全電通本部は、昭和四四年四月一五日傘下の各地方本部に対し、「四月一七日別途指定する職場は始業時から午前一一時までストライキに突入すること。」とのストライキ突入指令を発出したが、右指令にみるとおり、ストライキ拠点局所を外部はもとより内部も秘匿することによつて徹底した抜打ストライキを計画し、国民一般が争議行為からの自己の生活上の利益を確保する措置を講ずることを著しく困難ならしめた。

労働関係調整法(以下「労調法」という。)三七条一項は公益事業において争議行為を行う場合少なくとも一〇日前までに労働委員会等に争議行為をなす日時・場所等を通知すべきことを義務づけており、右予告義務は公益事業が公共性をもつところから、その停廃を伴う争議行為は必然的に、当該公益事業の運行により日常生活上の便宜を受けている国民に不便を与えずにはおかないので、これを予知させ少しでもその被害を防止しようとすることにその根拠があると解されている。

しかして、法令により一切の争議行為等を禁止されている公社職員に対して、争議行為の予告を義務づける労調法三七条の規定を適用しうる余地はないのは勿論であるが、公社職員があえて争議行為をなすの違法を冒そうとする場合には、同条の精神を汲み進んで社会一般に対する周知を行うことはもとより、公社に対しても、可及的に業務確保対策を講じうるだけの十分な余裕をもつて通知をなすことこそ公益事業たる公社の職員をもつて組織する全電通が条理上、最少限とるべき途であるといえよう。

(D) 公社が行う業務確保対策の策定、実施を困難ならしめる決行方式を採用した。

公社はその業務の遂行が国民生活全体の利益と密着し、寸時の停滞も許さるべきものでないことを終始自覚し、日夜絶ゆまぬ努力を続けているものである。したがつて全電通の四・一七ストライキ実施の意図が表明されるや直ちに全電通に対してその中止を求めるとともに、他方四・一七ストライキ実施に対処するために、なしうる限りの業務確保対策を講じもつて国民生活上の利益の保護をはかつたのである。

しかるに、全電通はかかる公社の業務確保対策に対して、種々の錯乱・妨害戦術をとつて公社を困惑させ、ひいては国民生活に悪影響を及ぼした。

(抜打ストライキ)

労調法に定める予告義務との関連は前記のとおりであるが、公社との関係で抜打ストライキが如何に公社の業務確保対策を困難ならしめたかは多言を要しない。

(陽動作戦)

全電通は四・一七ストライキの実施に際し、ストライキ前夜から各地区において組合役員・ピケツテイング(以下「ピケ」という。)要員等を集合させたうえ、複数の自動車に分乗させ、以後当該地区近辺の電話局に出没自在の運転工作をとらせて、その都度ストライキ拠点局所の把握と当該局所の業務確保対策に懸命となつている公社をしてその出没局所がストライキ拠点局所ではないかなどと思わせて、その的確な判断を誤らしめ混乱させるという徹底した陽動作戦を展開した。

(応援管理者に対するピケ)

ストライキの補助的争議行為としてのピケは争議脱落者の就業により組合の団結が紊され、ストライキがその実効を失うに至ることを防止することを主たる目的とすべきであつて、使用者が組合側のストライキに対抗して自らまたは他に労働力を求めて操業を継続することは(労働協約による制限のない限り)経営権の行使として当然許されて然るべきであるから(ことに前記のように、公益性の強い電信電話事業にあつては事業の正常な運営を最大限に確保する必要性は高いといわなければならない。)たとえストライキの実効性を担保する目的をもつてするのであつても、これらの使用者の権利、自由を実力に訴えて一方的かつ完全に排除することは許されない。しかるに全電通のしたピケは、争議脱落者のためでなく、その目的はあくまで管理者の入局、入室の阻止にあつた。これに対して、公社管理者は組合員に対して電信電話業務に従事する目的を明らにして、入局あるいは入室しようとしたものであるが、組合側は実力により最後までその通行を阻止する建前のもとに、ピケをはつて公社管理者の入局、入室を再三にわたり完全に阻止しようとしたものである。したがつて本件の基本的争議行為であるストライキが公労法一七条により禁止されている違法行為であることを一応はなれて考えても、本件ピケ自体、その違法性は極めて強いものといわなければならない。

(オ) 公社の四・一七ストライキに対する対策

〈1〉 違法行為に対する警告

昭和四四年三月三一日、全電通は、ストライキ批准の一票投票を実施するよう指示したのに対し、公社は、このストライキ批准の一票投票については、明らかに法律で禁止されている違法な行為を前提とするものであり、正当な組合活動ではないとして三月三一日総裁名を以つて全電通中央執行委員長に対し中止の申入書を手交し、また地方の公社機関長より対応する組合の責任者に対し同様の申入書を手交し、職員一般には「職員各位にのぞむ」と題する総裁談話を掲出して良識ある態度を示すよう呼びかけた。

ストライキ突入の指令第六号に対しては、公社は四月一五日総裁から全電通中央執行委員長に対し本件ストライキを企画実施指導にあたつた者に対しては解雇等の、また参加した者に対しては、減給等の処分を行わざるをえない旨を付記し、違法行為に出ないよう厳重な警告書を発し、また、地方にあつては公社の機関長から対応する組合の責任者に対し、前記の総裁の警告書と同趣旨の警告書を手交し、職員一般に対しても、ほぼ同趣旨の警告を行うとともに、就労を指示した。

全電通はストライキ突入の指令に際し、「各地方組織の非専従役員は、拠点指定を伝達された時点から、ストライキの実施に関する一切の執行を停止する」旨の指令を発出したが、この指令はストライキ直前までストライキへ向けて分会組合員を指導し、ストライキ実施に重要な役割を果した分会役員らに対してなされたもので、公社は明らかに処分逃れのための偽装であると考え、念のため通信局長名で「分会役員の皆さんへ」を掲出等して、違法なストライキを前提とする指令には一切従う義務はないことを十分理解し、役員としての良識ある行動をとるよう呼びかけた。

〈2〉 業務確保対策

公社は、万一、ストライキが実施された場合の国民生活に与える影響を最少限にくいとめるべく、公社各級機関ごとに対策本部を設置するとともに、管理者の動員により業務を確保することとしたが、ストライキ拠点局が直前まで判明しないため、対策に苦慮したが、ピケによる入局阻止を想定し、前日から局内へ泊り込みストライキに備えるとともに、拠点局判明後は、さらに必要な他局応援管理者の派遣により、業務を確保するよう務めた。

しかしながら、いずれのストライキ拠点局にあつても違法なピケがはられたため、公社が必要とした時間に必要な人員を確保することはできなかつた。

(カ) ストライキ実施に対する処分

公社は、前記のとおり再三にわたる警告にもかかわらず、強行した違法なストライキ及び暴力的な大衆行動に対して関係組合役員及び一般参加者の責任を追及し、昭和四四年五月二九日、それぞれの責任に応じて停職一三八名、減給六六名、戒告一四二六名、総計一六三〇名の懲戒処分を行つたが、本件原告らはこれら懲戒処分の対象者である。

(五)  一宮電報電話局及び名古屋中統制無線中継所一宮分室におけるストライキ(以下本件ストライキという。)について

全電通愛知支部一宮分会(以下「一宮分会」という。)、名古屋中統制無線中継所分会(以下「中統無中分会」という。)はともに上部組織(それぞれ全電通愛知支部、全電通名古屋支部)へ代表を出席させ春闘についての討議に参画したり、執行委員会、職場委員会を開催してストライキ批准一票投票、ストライキ体制確立への意識統一及び具体的とりくみの企画、討議、決定を行った。

さらに、ストライキ体制確立へ向けて一般組合員に対するオルグ活動、印刷物等による情報の周知浸透をはかる等積極的指導行為を行つた。

(1) 一宮分会のストライキ体制の確立

(ア) 第五回分会長会議

全電通愛知支部(以下「愛知支部」という。)は、昭和四四年三月五日第五回分会長会議(分会代表者会議とも称され、愛知支部傘下の二九分会の分会長をもつて構成され、愛知支部の運営について執行業務を協議し、支部執行委員会の指導方針等の決定に参画することを認められた支部執行委員会の諮問機関)を開催して、さきに実施された第五三回中央委員会の結果報告を行うとともに昭和四四年春闘における支部段階の闘いについて意識統一を図つた。同会議には一宮分会からも原告鈴木が出席した。

(イ) 第六回拡大分会長会議

全電通は、同年三月一九日指令第四号を発出し、各地方組織に対し、同日をもつて闘争委員会への切替えを完了することを指令したが、この指令を受けた愛知支部は三月二四日、名古屋市内で第六回拡大分会長会議を招集し、全電通中央本部訴外片山副委員長による春闘構想の説明及び当面の具体的な取り組みを討議し、春闘行動計画を決定したが主要と思われる討議事項は以下のとおりである。

〈1〉 底辺行動については、すでに実施している分会旗の掲揚に加え、分会執行部は腕章を着用するとともに全組合員が要求貫徹のワツペンを着用する。

〈2〉 大衆行動については、ストライキ体制の確立をはかることをねらいに、第一次大衆行動として、三月二八日昼休みに一斉に決起集会を開催し、終了後、庁内デモを実施し、第二次大衆行動として、四月一四日から同月一九日にかけて庁内デモ、座りこみ、立ち寄り交渉、ビラ貼り、集団交渉等を行うほか、四月一六日から四月一七日朝にかけて非拠点分会では全組合員による集団交渉、待機行動を行い、さらに四月二一日以降も前同様の第三次大衆行動を実施する。

〈3〉 ストライキ批准のための一票投票を、四月四日から同月九日までに行う。

〈4〉 公労協統一ストライキに全電通も参加し、第一波ストライキは四月一七日に想定しているが、内容、規模を含め別途決定されるので、四月一一日全国書記長会議以後に緊急分会長会議を開催し、意識統一を行う。

この会議には、一宮分会からは原告長瀬が分会書記長として出席し、当面する春闘行動の計画等に参与した。

(ウ) 第一七回分会執行委員会

一宮分会は三月二四日の第六回拡大分会長会議終了後、同日直ちに一宮局において第一七回分会執行委員会(分会長、副分会長、書記長、執行委員五名をもつて構成する分会の執行機関)を開催して、一票投票に向けての取り組み、三月二八日の春闘決起集会の開催、運営、ワツペン、腕章の着用、一票投票の具体的な進め方等について討議、意識統一をはかつた。

この結果、一宮局においては、翌二五日以降組合員全員によるワツペンの着用、執行部役員の腕章の着用等による底辺行動が実施されるに至つた。

(エ) 第五回分会拡大執行委員会

さらに、一宮分会は三月二七日、執行部役員のほか、職場ごとの組合員をもつて組織される共通業務部会、運用部会、線路部会、第二施設部会、尾西部会、岩倉部会の各部会長及び青年婦人両会議議長を含めた第五回分会拡大執行委員会を開催して本件争議行為についての一票投票の体制作り、同月二八日実施予定の決起集会の開催等について意識統一をはかつた。

このころから、一宮分会は機関紙「一宮分会ニユース」を春闘特集として編集し、組合員に配布してストライキ体制確立をはかつて行つた。

(オ) 春闘総決起集会

前記第六回拡大分会長会議及び第五回分会拡大執行委員会の決定に従い、一宮分会執行部は三月二八日、一宮局舎屋上において約八〇名の組合員を集めて春闘総決起集会を開催し、一票投票の取り組み、春闘情勢報告等について説明、討議を行い、四・一七ストライキ体制の確立を前進させるとともに、同集会席上において、「一万二〇〇〇円の賃上げ等、諸要求の具体化をはかろうとしないならば、われわれとしても重大な決意をせざるを得ない。」とストライキ実行を意味する決議文の採択を行つて一宮局長に手交した。

これより先同日午前八時二〇分頃、原告井上は分会執行委員として分会長とともに、一宮局前付近において出勤してくる組合員に対し、一宮分会機関紙「一宮分会ニユースNo.18春闘シリーズ5」及び同分会発行のビラ「春闘おはようニユースNo.1」を配布し、四・一七ストライキのための一票投票の成功、同日の決起集会参加への呼びかけを行つた。

(カ) 第八回職場委員会

全電通は、三月三一日指示四号を発出して各地方組織に対し、四月四日以降同月一〇日までに「一票投票」を実施し、ストライキ体制を確立するよう指示したが、これを受けた一宮分会は一票投票の具体的実施について意識統一を図るべく、四月一日、一宮局で第八回職場委員会(大会に次ぐ議決機関で分会役員及び課単位に組合員一〇名につき一名選出される職場委員をもつて構成)を開催した。

こうした情況の下で、四月三日午前八時一五分頃から一宮局前において原告長瀬、同岡田、同井上ら数名は全電通号外(三月二六日発行)を配布し、「四月四日からのストライキ批准一票投票を成功させよう。」「ストライキを含めて四月中旬からの闘争をもりあげていこう。」という趣旨の呼びかけを行い、組合員に対する一票投票の参加ひいては予定されていた四・一七ストライキへの参加を指導し、原告長瀬、同井上らは四月八日朝、一宮局前において「全電通は公労協、春闘共闘に結集する多くの労働者とともに四・一七第一波ストライキを皮切りに、四月下旬、五月上旬にかけ、ストライキをもつて立上ることとなつた。これらのストライキ体制を確立する前提として、四月四日から九日までの期間全国一斉にストライキ批准投票を実施することとなつたが、一票投票を成切させて分会の団結力を示そう。」という内容の愛知支部の機関紙「全電通愛知」(四月一日発行)を出勤する組合員に配布して前同様の指導を行つた。

(キ) 一票投票の実施

分会執行部役員は、四月二日から同月九日にかけて各職場において一票投票のオルグ活動に従事し(四月三日、原告長瀬は、岩倉分室及び西春分室で、原告井上は、第一機械課で、四月四日、原告長瀬は、萩原分室で、四月五日、原告井上は、尾西分局で、四月八日、原告長瀬、同井上は電力課でオルグ活動)、一般組合員に対し、四・一七ストライキ批准投票の呼びかけを行い、オルグ終了後、一票投票を実施した。右オルグ期間中の四月九日早朝分会執行部役員は、「春闘おはようニュースNo.2、一票投票はすみましたか?」というビラを局前で配布し、投票へのしようようを図るとともに「四・一七第一波ストライキに向けて体制の確立をいそごう」という内容の呼びかけを行つた。

さらに一宮分会執行部役員は一票投票の終つた翌四月一〇日午前八時一五分頃から、一宮局前等において、「八一・九%=批准に成功!!」と「四・一七ストライキに向けて体制確立を急ごう」などと記入したビラを組合員に配布し、四・一七ストライキ体制の強化を呼びかけるとともに反対票を投票した組合員に対しても「組織で決定した方向で行動を共にするべきことは当然であり民主主義のルールである。」と訴えてストライキ参加を指導した。

(ク) 第七回拡大分会長会議

四月一〇日、名古屋市で開催された第七回拡大分会長会議においては、「四・一七ストライキを中心とする当面の行動について」を中心に意識統一が行われたが、一宮分会も代表者を同会議に出席させ、討議に参加した。

(ケ) 第六回分会拡大執行委員会

前記拡大分会長会議の開かれた翌四月一一日、一宮分会は第六回分会拡大執行委員会を開催して、一票投票の集約結果について報告、討議を行つたほか、四・一七ストライキについての具体的な取り組みに関し、〈1〉公労協統一ストライキについてと民間情勢、〈2〉四・一七ストライキ設定のあり方、〈3〉四月一七日の勤務の掌握等について討議した。

これを受けて、四月一二日朝執行部役員は、青年婦人会議の役員とともに「全力を上げて四・一七ストを成功させよう!」などと記入したビラを局前で組合員に配布した。

(コ) 分会緊急執行委員会

原告井上を除き、原告長瀬、同森を含む一宮分会執行部役員は四月一三日愛知支部から訴外磯貝副委員長、同杉浦書記長を迎えて分会緊急執行委員会を開催し、本件ストにかかる具体的な対策として左記事項等につき細部の検討を行い執行部の指導体制の確立をはかつた。

〈1〉拠点指定方法    〈2〉準備指令の中止

〈3〉スト防衛方法    〈4〉スト突入時間

〈5〉当日の早朝出勤   〈6〉分局、分室対策

〈7〉貸借役の扱い    〈8〉臨時雇、共済会の扱い

〈9〉年休等休暇の扱い  〈10〉ストライキ当日の勤務状況の掌握

〈11〉再確認オルグの実施 〈12〉ビラ貼り行動

(サ) 分会全役員会議

右緊急執行委員会の決定事項等について、職場の末端組織へ周知徹底をはかるため、一宮分会執行部は、翌四月一四日、部会役員、職場委員、青年婦人両会議全委員を招集して一宮分会全役員会を開催し、前日の緊急執行委員会で決定した「四・一七ストライキ対策の具体的な行動について」の諸事項を出席者全員で確認した。

これに先立つ同日午前八時二五分頃、原告長瀬、同井上、同森の三名は局前において一般組合員に対し、「春闘おはようニユースNo.4」を配布し、その中で一票投票の批准率の高かつたことを強調しつつ「闘うムードは日増しに高まつています。今やストライキを打ち抜くことをおいて我々の賃上げ闘争の解決はありません。いま全国すべての職場でストライキ突入の体制が固められています。一票投票に示した決意を具体的な行動に移す時が迫つています。」などと四・一七ストライキ体制の確立を呼びかけた。

さらに、また同日午後になると一宮分会執行部は大衆行動の一環として木造庁舎非常階段に分会旗を立て、一般組合員の四・一七ストライキへ向けての意識の高揚をはかつたほか、同日午後八時三〇分頃より、一宮局の分会執行部役員等に駐車中の公用車四五台に「大幅賃上げかちとろう」などと印刷したビラ約五〇〇枚を貼付した。

また翌四月一五日の早朝一宮局前において原告長瀬、同井上、同森の三名は「春闘おはようニユースNo.5」を一般組合員に配布し、ストライキ参加を呼びかけた。

(2) 中統無中分会のストライキ体制の確立

(ア) 第五回分会代表者会議

全電通名古屋支部(以下「名古屋支部」という。)は、三月五日、第五回分会代表者会議を開催したが、右会議には中統無中分会からも書記長である原告池森が出席し春闘関係の討議に参画した。その後、中央本部より指示三号を受けた分会執行部は三月一二日、及び三月一七日それぞれ組合掲示板に「四月下旬に拠点ストライキを実施する。その為の底辺行動を開始する。」等の当面の春闘行動方針を掲出した。

(イ) 三・二四分会執行委員会

三月二四日には分会執行委員会を開催し意識統一をはかり、三月二五日から同月二七日まで職場集会を実施して一票投票を中心としたオルグ活動を行つた。

(ウ) 第六回拡大分会代表者会議

三月二五日、名古屋支部の第六回拡大分会代表者会議が開催され、〈1〉四・一七公労協統一ストライキに全電通も参加しストライキは拠点方式によつて行うこと、一票投票は四月四日から四月一〇日までに行うこと、〈2〉大衆行動については第一次ないし第三次大衆行動をストライキ体制の確立を目指して実施し、三月二八日春闘決起集会を開催し、終了後、庁内デモを実施するほか、座り込み、集団交渉、立ち寄り交渉、ビラ貼り等を行うこと、〈3〉春闘スケジユール等の討議検討が行われたが、右拡大分会長会議には中統無中分会からも原告吉沢、同池森、同北村、同吉川からなる執行部役員全員が出席した。

(エ) 春闘決起集会

その後、中統無中分会では一票投票の成功に向けて積極的な動きを示し、三月二八日、右拡大分会長会議の決定に従い、中統無中分会は名古屋で春闘決起集会を開催し、一票投票に対する一般組合員の意識の高揚を図り、さらに右集会終了後、原告池森、同吉川は参加組合員約三〇名を引率し、名古屋中統制無線中継所(以下「中統無中」という。)五階事務室に赴き、所長に賃上要求書を提出するなどの大衆行動を実施した。

なお、これより先の三月一七日中統無中分会執行部では組合員を指導して第一次大衆行動の取り組みとして分会旗の掲揚・腕章の着用・ワツペンの着用等を実施した。

(オ) 一票投票の実施

こうした情勢の中で、分会執行部は四月二日執行委員会を開催し、四月七日には職場集会を開催し、かつ、一票投票を実施した。

この間、原告吉沢ら分会執行部では、三月三一日から四月二日にかけて春闘に関する印刷物「しゆんとう一号」「同二号」及び「同三号」を続けて発行配布し、また、分会ニユース号外「一二〇〇〇円はどうしても必要だ」「四月一七日は公労協統一ストです」「ストライキで反省させよう」等を発行配布し、四・一七ストライキにむけての積極的な呼びかけを行つた。

(カ) 第七回拡大分会代表者会議

その後、分会執行部は四月一四日名古屋支部の第七回拡大分会長会議に執行部の代表者を出席させ、「四・一七ストライキは打ち抜く。このストライキを背景に公社から有額回答をひきだす。」ことを討議し、またストライキ体制確立強化のため第二次大衆行動として四月一六、一七日の両日において「〈1〉庁内デモ、座り込み。〈2〉集団交渉、立ち寄り交渉。〈3〉待機行動。〈4〉ビラ貼り。〈5〉決起集会。」等を強化し、実施すること、およびその具体的展開についての討議決定に参画した。

(キ) 四・一五分会執行委員会

翌一五日の分会執行委員会をへて、四月一六日朝には中統無中五階入口において縦二米、横一米の立看板二枚を設置し、原告池森、同北村が出勤する組合員に対しストライキ決行等に関する寄せ書きを行わせるなどして四・一七ストライキの完遂をあおりたてた。

(3) 違法行為に対する公社の警告等

(ア) スト批准一票投票に対する申入れ等

一宮分会の一票投票にむけての積極的な活動の中にあつて四月一日、一宮局長から分会長に対し今回実施しようとしている一票投票は明らかに法律で禁止している違法な行為を前提とするものであつて、正当な組合活動ではない。との従来からの基本的な考え方に立ち「公共企業体の職員および組合は公労法第一七条によつてストライキ等業務の正常な運営を阻害する一切の行為が禁止されているところであり、このような一票投票を実施することは極めて遺憾であり中止されたい」旨の申入書を手交してその中止を求める一方、右申入書写及び「職員各位に望む」と題する「職員各位は公社事業の公共性に思いをいたし自らが違法なストライキの実施を行うことを決定することの是非について冷静に判断し、良識ある行動をとることを期待してやみません。」旨の総裁談話を局内掲示板に掲出する等、職員各人に対し、一票投票については良識ある態度をとり、これに参加しないよう要望した。

また、中統無中においても同日、一宮局におけると同様、所長が分会長、一般組合員に対し、それぞれ申入書の手交あるいはその写、総裁談話等の掲示により一票投票中止の申入れを行つた。

(イ) ストライキに対する警告等

全電通は四月一五日指令第六号を発出し、本件ストライキの実施及び各地方組織の非専従役員の執行の停止を指令したが、これを知つた一宮局長は、同日直ちに一宮分会長に対し、中央本部のストライキ指令に対しては良識ある態度をとるよう申入れると共に「万一同盟罷業が実施された場合には、公社は峻厳なる態度をもつて対処する所存である」旨記載した警告書を手交してストライキ不参加の呼びかけとストライキ参加者に対する警告を行い、さらに職員一般に対しても、右警告書写及び「職員各位に告ぐ」と題し「公社職員は公社事業の公共性に思いをいたし、同盟罷業の違法なことはもとより、同盟罷業が電信電話を利用する国民の利便をじゆうりんするものであるばかりでなく、賃金問題解決にあたつての公社の誠意をふみにじるものであることを十分認識し、良識ある行動をとられることを望むものであります。」「万一かかる同盟罷業が実施された場合には企画指導にあたった者に対しては解雇等の、また、参加した者に対しては減給等の厳重な処分を行う所存であることを申し添えます。」などと記載された公社総裁名の文書をそれぞれ一宮局内掲示板に掲示し、前同様の呼びかけならびに警告を行つた。

のみならず、同四月一五日及び同一六日の両日にわたり、一宮局長名の「職員各位に告ぐ」と題する前記警告書同旨の文書を職員各人に手交し、前同様の呼びかけと警告を行い、また四月一六日には局長自ら、局内放送を通じて全職員に前同様の呼びかけ警告を行つた。

一六日、東海電気通信局長は一宮局内掲示板に「分会役員の皆さんへ」と題する説得文を掲示し、同分会役員に対しても前同様、本件ストライキについては「役員としての良識ある行動をとるよう」訴えた。

中統無中においては、全電通の指令第六号が発出された四月一六日、中統無中所長が一宮局におけると同様、分会書記長、一般組合員に対しストライキ不参加の呼びかけとストライキ参加者に対する警告を内容とする所長名の警告書、その写あるいは総裁名による「職員各位に告ぐ」と題する文書の手交、局内提出等を行つた。

また、公社において一宮分会による「一万二〇〇〇円獲得までストライキで闘おう」というような立看板、中統無中における「四・一七統一スト成功させよう」という立看板に対し撤去を要求した。

(4) 本件ストライキ前日の状況

(一宮電報電話局)

ストライキを翌日にひかえた一六日、一宮分会執行部は、朝には「春闘おはようニユースNo.6」を配布し、ストライキに参加しようと呼びかけ、午後五時三〇分頃から当日の非番である一般組合員全員を集めて春闘決起大会を開催し、春闘情勢報告、四・一七行動の説明等を行つた後、一般組合員を交渉班、待機班、行動班の三班に編成し、交渉班は集団交渉の行動を、その他の二班は一宮局長室前六階廊下に座り込み待機行動をそれぞれ行つた。

すなわち午後五時頃、分会執行部代表四名(分会長、副分会長、原告長瀬書記長および原告井上執行委員)が訴外森川労務厚生課長に、現場機関長の権限外事項である賃金問題について、集団交渉を申入れてきた。局側はストライキを翌日にひかえ緊迫したこの時期に応ずるわけにはいかないと断つたが、その後折衝が続けられた結果、陳情ということで応ずることにし、〈1〉庁内デモ、ビラ貼りなどの一切の大衆行動は実施しない。〈2〉陳情人数は三〇名以内とする。〈3〉陳情時間は午後六時二〇分から同七時までとする。という条件のもとで、陳情は、局側として訴外近沢局長と訴外森川労務厚生課長が、組合側は分会執行部等三〇名が出席し、訓練室で行われた。その間分会執行部は一般組合員約一〇〇名を六階廊下で待機させていた。

陳情は午後七時一〇分頃終了し、待機させていた一般組合員等に原告長瀬書記長と原告井上執行委員が陳情状況を報告し、午後七時二〇分頃一般組合員等は退局した。

その後、分会執行部は数十名の組合員とともに組合事務室等で待機行動をつづけ、午後八時三〇分頃から同九時三〇分頃にかけて、分会は局側との約束を破り分会執行部等多数をもつて局側の再三の中止命令にもかかわらず局舎内の廊下や便所内に一三〇〇枚に余るビラ貼りを実施し、その後も分会執行部等は組合事務室で徹夜で待機していた。

これらストライキ前日における一連の行為は、ストライキ当日、ストライキ拠点局に指定された場合に備え、管理者側の対策を事前にけん制または攪乱させ、かつ、一般組合員に対するストライキ意識の高揚とストライキ体制確立を企図したものであつて、分会執行部はその指導的役割を果したものである。

(名古屋中統制無線中継所)

ストライキ前日の四月一六日朝中統無中分会執行部は中継所人口(五階)において、縦二米、横一米の立看板二枚を公社に無断で設置し、一般組合員に対し寄せ書を行わせた。なお、看板には原告池森書記長が「四・一七統一スト成功させよう」と大書し、四・一七ストライキへむけて意識の高揚をはかつた。

また、昼休みには分会執行部の主催により六階の休憩室で職場集会が開催された。

さらに四月一六日には、分会執行部が中心となり大要次の行動が行われた。

(ア) 午前一一時三〇分頃及び午後三時五〇分頃の二度にわたり、原告池森書記長から賃上げ問題等について、団体交渉の申し入れがあつたが、局側は賃上げ問題については権限外事項であること、並びにストライキ対策業務多忙のためことわつた。

(イ) 午後五時頃原告池森書記長から今度は賃上げについて陳情の申し入れがあつたので検討の結果、午後五時三〇分から陳情として、〈1〉陳情人数五名以内とする。〈2〉陳情時間は二時間とする。という条件で賃上げ問題等について陳情をうけた。局側は訴外宮崎所長、同升家次長、同中山庶務課長が出席し、組合側は五名の範囲内で午後五時三〇分頃から陳情がはじまつた。そして右陳情の席上、原告池森書記長は同吉川、同北村執行委員とともに当日各課長から各職員に手渡した「職員各位に告ぐ」(警告文書)を各組合員から集め一括返上してきた。そして約束の二時間になる前に訴外中山庶務課長より中止を申入れたが組合側は応ぜず組合員を入れ替り立ち替り出席させ翌午前零時二〇分まで陳情は断続して行われた。

(ウ) この間、午後七時一五分頃中継所内に約二二〇枚のビラが貼られたので原告池森書記長に訴外中山庶務課長より徹去を申し入れたが応じなかつたので、止むを得ず管理者を動員してビラを取り除いた。

(エ) その後も、分会執行部等数名は、公社の退去申入れにもかかわらず休憩室にて徹夜で待機していた。

これらストライキ前日の行為は、管理者側のストライキ対策に対する事前のけん制、攪乱及び一般組合員に対するストライキ意識の高揚、ストライキ体制の確立を企図したもので、分会執行部はその指導的役割を果したものである。

(5) 本件ストライキの実施

(ア) 四月一七日、午前五時頃、一宮局に全電通訴外島田中央闘争委員外三名が来局し、一宮局長および中統無中一宮分室長に対して、一宮局及び中統無中一宮分室がストライキ拠点局に指定された旨通告があり、ほとんど時を同じくして貸切バス一台が到着し、その後の到着分も含め、全電通東海地方本部(以下「東海地本」という。)及び管内各支部の専従役員、書記並びに全電通以外の他労組組合員等約六〇名(約半数がヘルメツト着用)により同局通用門等にピケラインがはられた。

(イ) 公社は、国民生活に影響を及ぼさないよう事前に業務確保対策を講ずるため、拠点局所の把握につとめたのであるが、全電通の陽動作戦によりついに通告があるまでその拠点は判明しなかつた。

すなわち、全電通は組合役員やピケツテイング要員等を五台の自動車に分乗させ東海電気通信局管内一円の地域を分散走行させ、豊橋電報電話局には一六日午後一〇時過ぎ及び一七日午前零時過ぎの二回にわたり、また浜松電報電話局には四月一七日午前零時過ぎに出没させたことを始めとして、東名高速道路や国道一号線等ぞいの電報電話局近辺を通過してあたかもそれらの電報電話局等が拠点局に指定されたかの如き印象を与えるような行動をとつたのである。公社としては拠点局所の早期把握とこれによる業務確保対策の速やかな実施を図らんがために車両を用いてこれら自動車の追跡、路上での看視に最大限の努力を傾注したことはいうまでもないが、全電通のこの陽動作戦によりそのすべては徒労に帰した。

(ウ) 公社は通告によりストライキ拠点局が判明したため、愛知通信部、無線通信部の動員計画にもとづき、直ちに愛知、岐阜県下等から応援管理者約二〇〇名を動員して、一宮市内の局外対策本部に集結させ、午前七時頃、一宮局外の責任者である愛知通信部訴外相沢次長、東海電気通信局訴外鈴木調査役、同訴外平野厚生課長が一宮局前におもむき、ピケ隊の責任者である東海地本訴外藤田副委員長らに対し最低限度三〇名必要な応援管理者の入局とピケの解除を申入れたが、拒否されたため七時三〇分頃一旦局外対策本部に帰つた。

その後、対策を協議した結果、業務を確保するためには何んとしても応援管理者の入局を強行すべきであるとの判断に達し、その旨、訴外鈴木調査役より訴外藤田副委員長に電話したが、話しがつかないためさらに訴外相沢次長を含め三人で話し合いを行うも結論に至らず、午前八時三〇分頃二二名を入局させることを通告し、藤田副委員長の連絡を待つたが、応答がないため、やむなく午前九時頃「これ以上待てない」旨、電話で申入れ、局に隣接する私有地を通つて局舎の窓から応援管理者八名を辛うじて入局させたが、ピケ隊に発見されピケラインをはられたため、その後は入局できなかつた。

(エ) このため、午前九時三〇分頃、訴外鈴木調査役は前記訴外島田に対し、電話で再度ピケ解除を通告するとともに、一宮警察署に対して警官の出動を要請し、また、九時四〇分局外対策本部に待機中の応援管理者約二〇〇名を愛知通信部訴外相沢次長が引率して一宮局にむかつた。一〇時頃局前において、訴外相沢次長より訴外島田に対しピケを解除するよう通告し、局内、局外からマイクでピケを解散するよう呼びかけながらピケ解除通告の掲示(プラカード)三本を持つて、先頭の管理者約三〇名で入局をはかつたが、スクラムに阻まれ、ピケ解除通告の掲示も破られるに至つた。

(オ) その後も、ピケ隊のスクラムにより全く入局できないため、再三にわたり警官の実力行使を要請したが、その出動をみないまま、組合の引きのばし戦術により時間経過するのみであつた。ストライキ解除直前の午前一〇時三〇分頃に至り、ようやく組合側が管理者一五名の入局を認め、一五名だけ入局させることができたが、その余の管理者は入局できなかつた。

この間、当日出勤すべき一宮分会組合員である原告井上・岡田・小川・鈴木等一宮局職員三一六名、及び中統無中分会組合員である原告吉沢等中統無中一宮分室職員九名は就労せず一宮動労会館における職場大会に参加し、午前一一時全員就労するまでの間、完全に時限ストライキを実施した。

(6) 公社の業務確保対策

(管理者の応援体制の策定)

国民生活において、重要な役割を果している公衆電気通信役務をあずかる公社は全電通及びその組合員に対し、ストライキの中止を求める一方、可能な限り、右通信役務の確保を図ることを国民に対する当然の責務と考え、拠点局所に対する業務確保対策を講じた。

しかし、全電通のストライキが抜き打ち方式で行われる限り、拠点局所の速やかな把握は望み得べくもなかつた。

そこで、いついかなる局所が拠点指定を受けようとも、直ちに業務確保措置を講じうるよう策定することが必要とされた結果、四月中旬以降各局所ごとにそれぞれ自局管理者を中心とする独自の業務確保対策を講ずるのは勿論、各通信部並びに通信局においても、それぞれ対策本部を設置し、ストライキ前日から約三〇〇名の管理者を各県四カ所程度に分散待機させた上、拠点局の判明しだい、直ちにサービス確保要員として同拠点局に出向しうる応援準備対策を講じた。

一宮局においては、局内及び局外各対策本部を設け局内対策本部の本部長として局長が総指揮にあたり、その下に管理者を営業班に二名、電信運用班に七名、電話運用班に一三名、保全班に一〇名、線路分室に二名、局内記録確認警備班に五名をそれぞれ配置し、また、局外対策本部の本部長として同局次長が総指揮し、管理者をPR班に一名、職員掌握班に九名、局外警備班に二名、局外記録確認班及び職場大会確認班に三名、庶務班に二名をそれぞれ配置する体制を確立した。

そして、ピケによつて入局が阻止される可能性が強いため、全員前日より局内に泊り込んでストライキに備えた。

一方、中統無中においては、ストライキ対策本部として局内及び局外対策本部を設置し、局内対策本部の本部長として所長が総指揮にあたり、その下に管理者を本部班三名、保守班四名、一宮分室班二名とそれぞれ配置し所内に泊り込ませた。また、局外対策本部として五名の管理者を配置するとともに、四月一七日早朝、一宮分室がストライキ拠点局所と判明するや、直ちに右記のストライキ対策本部に配置してあつた管理者のうち四名を一宮分室へ派遣する措置を講じたが、ピケにより入局できなかつた。

次に、上部機関である愛知電気通信部においても、対策本部を設置し、各局所への応援管理者の派遣体制を確立する一方、本部要員七名を配置し、また、東海電気通信局においては、四月一六日対策本部長に副局長をあて、業務確保の見地から、〈1〉そ通対策部、〈2〉窓口対策部、〈3〉保全対策部、〈4〉広報対策部、〈5〉労務対策部を設けて管理者を配置し、管内全般に対する指示連絡援助にあたらせる体制を講じた。

以上のように、各局所、電気通信部、電気通信局にそれぞれ業務確保対策本部を設置し、四・一七ストライキ実施による国民の被害防止のため管理者によるなしうる限りの応援体制を策定したのであるが、拠点局所が不明のため、集中的応援体制を設定できなかつたばかりか、電話の交換、電話番号の案内、電報の送受信、機械の保守、線路障害の保守など通常多数の職員が専門的に行つている厖大かつ技術的にも高度な公衆電気通信業務を不慣れで手際の悪い管理者だけで完全に行うことは不可能であることはいうまでもなく、この意味で本件ストライキによる国民の利益侵害は、公社の努力にも拘らず当初から到底防止しうるものではなかつた。

(業務対策)

(ア) 主要加入者に対する協力要請

ストライキ前日、一宮局では混乱防止の観点から市役所、警察、銀行のような大口の利用者に対し、ストライキ拠点になつた場合、できるだけダイヤル通話をするとか番号帳をみてもらうとかの協力を要請した。

(イ) SC転送の中止

市外の電話番号問い合せがあつた場合、その問い合せを相手局の市内案内台へ接続して案内する方法がとられている。これをSC転送による案内というがストライキ拠点が判明した後は、他局から一宮局へのSC転送を中止し豊橋電報電話局がその案内業務を代行した。

(ウ) トーキーの挿入

ストライキ時間帯には、後述のように一〇〇番及び番号案内の受付回線を規制し、受付回線をあふれた加入者からの呼出に対してはトーキーによつて接ながりにくい情況を説明し、協力を要請した。

(ストライキ当日における市民へのPR)

一宮局及び一宮分室がストライキ拠点局所として判明するや、公社は利用者たる国民の不意の電話等使用不能等による被害を虞れ、直ちに市民に対する広報措置を講じた。すなわち、津島電報電話局から急ぎ回送した車と一宮局が保有する一台の計二台に管理者が乗車して一宮市内を巡回し、「只今、全電通労働組合のストライキにより取扱いの一部に御迷惑をおかけしております。一一時頃には平常に戻る見込みでございます。」などとマイク放送を行い、市民に対し周知を行う一方、一宮局電報受付口正面並びに電話料金受入カウンター付近に「本日午前八時三〇分から当局全電通労組のストライキのため電報電話業務の取扱いの一部におくれを生じているが午前一一時頃には平常にもどる見込みである」旨の掲示を行つた。

(六)  本件ストによる業務阻害の状況

本件ストの結果、四月一七日始業時から午前一一時の間の出勤すべき職員三四三名のうち一宮局三一六名、一宮分室九名の計三二五名が出勤しなかつたが、この間、公社の電信電話業務の正常な運営が著しく阻害され、これによつて国民生活に甚大な迷惑を及ぼした。

これを各業務別に説明すると次のとおりである。

(1) 一宮電報電話局について

(ア) 電話交換業務及び電話番号案内業務

〈1〉 四月一七日始業時から午前一一時までにおける運用部門(電話交換業務及び電話番号案内業務を中心とするもの)の業務に従事する職員は、午前七時三〇分から順次出勤し、最大出勤人員は日中における電話利用の最繁時である午前一〇時頃に七〇名となる予定であつた。しかるにこれら出勤予定者は殆んど出勤しなかつた。

また、公社がこれに備えて計画した管理者による業務応援も既に述べたように組合側のピケツテイングによつて入局を阻止されて、一部しか入局できなかつたため、自局管理者一〇名及び予定人員よりも少ない、現場作業に不慣れな応援管理者等によつて本来、出勤予定者が遂行すべき手動交換業務及び電話番号案内業務にあたらざるをえなかつた。

すなわち、当初は前日から泊り込んだ一三名の管理者だけで手動交換業務、案内業務に従事せざるを得ず、応援管理者は「最低でも二〇名程度」必要であつたが午前九時三〇分頃漸く局外から八名が加わつた。さらに、一五名の管理者が入局して作業に従事したのはストライキ終了のわずか三〇分前の午前一〇時三〇分頃であつた。

〈2〉 公社としては要員の確保にあたつたものの、不慣れなわずかの管理者では、通常のサービスを行うことは不可能であるため、ストライキ時間帯は受付線の規制を行つた。手動交換の回線であるDSA(一〇〇番通話)については一四二の受付回線中一〇七回線を規制、又、番号案内受付回線は一三〇本中一〇二本を規制し、それぞれ残りの三五回線、二八回線に入つてきた呼出についてのみ業務を行つた(三五回線分あるいは二八回線分以上の呼出があつた場合には、つながらない理由を説明したトーキーに接続され、さらに、用意したトーキー以上に呼出があれば話中音となる)。

〈3〉 電話交換業務及び電話番号案内業務の阻害状況

(A) 四月一七日午前八時から同一一時までの電話交換及び電話番号案内の取扱件数を平常日(昭和四四年三月の一日平均)の同時間帯における件数とを比較すると次の表に示すように大幅な減少となつた。

業務別

平常日の取扱件数

四月一七日の取扱件数

平常日に対する比率

電話交換業務

一七七六件

一〇六六件

六〇・二%

電話案内業務

一六七八件

七七〇件

四五・二%

本来であれば当日も平常日と同数程度の交換取扱件数、案内件数を扱うはずであるが、ストライキ時間帯には平常日の電話交換で約六〇%、案内で四五%しか取扱うことができなかつたのである。この事実は、ストライキ時間帯にそれ以上の申込みがなされたが回線の規制、取扱者の人員不足、不慣れ等により事実上公社が応ずることができなかつたことを示すものといえる。

(B) 公社の一般市民に対するサービス状況を示す指標のひとつである公衆電気通信サービスの応答時間(申込者がダイヤルしてから公社取扱者がこれを受付るまでの所要時間)についてみれば、公社はサービスの基準値を定めそれ以内であれば良好なサービスが提供できるとしている。この基準値として一五%、すなわち、全ての申込みのうち応答時間が一一秒を越えるものを一五%以内と定めている。一宮局においては通常(昭和四四年三月の一日平均)DSA(一〇〇番通話)は一一秒を越えるものは五%、案内業務は四%であるところ、四月一七日のストライキ時間帯は、一一秒を越えるもの、最高八八%にもおよび、電話サービスの著しい低下をもたらした。

なお、応答サービス状況について、平常日と四月一七日のストライキ当日の数値を比較すると、次のような図になる。

区分

区分

(午前)(時)

八~九

(午前)(時)

九~一〇

(午前)(時)

一〇~一一

DSA

(一〇〇番通話)

平常日

五%

五%

五%

当日

五二%

八八%

不明

案内

平常日

四%

四%

四%

当日

三三%

五〇%

一四%

〈4〉 以上のように、サービスの低下は数字に表われたものでも明らかであるが、通常の日にはない、「緊急な要件で電話をしたいのだが電話番号が不明なため問い合わせたのに案内係がなかなかでない」という苦情申告が四件以上あつたことからも裏付けることができる。

(イ) 電報業務

〈1〉 四月一七日、始業時から、午前一一時までの間、電報部門の業務に従事する職員の出勤予定者二四名は殆んど出勤せず、宿明勤務者三名が退局した午前九時(配達部門は午前八時)以降は、前日から局内に泊り込んだ管理者七名によつて全ての業務を遂行せざるを得なかつた。

ただし、配達については局外の臨時局に三名の応援管理者を配置した。

〈2〉 その結果、次表に示すような業務阻害が生じた。

なお、次表の取扱数は、午前九時から午前一一時(配達は午前八時から午前一一時)のものであつて、平常日取扱数は四三年八月の調査のものであり、停滞通数は、取扱数以外に停滞した数であり、それぞれ午前一〇時、午前一一時現在の数を表わしている。また、平常日では停滞遅延は殆んど生じない。また、表の読み方は次の要領による。すなわち、印刷通信についてみてみるならば、午前一〇時から午前一一時の間、平常日には、一一九通処理し得るのに当日は五〇通を処理し得ただけで二五〇通が未処理のまま放置された。調査時点午前一一時には最高一二〇分も放置されたままのものがあつたことを示している。

区分

(午前)(時)

八~九

(午前)(時)

九~一〇

(午前)(時)

一〇~一一

備考(説明)

※1

電話託送

受信通数

(省略)

一一通

二〇通

※1

加入電話等により申込みのあつた電報を電話で受付けること

停滞通数・最長遅延時間

三〇通

三〇分

平常日取扱通数

三二通

二〇通

※2

模写通信

送信通数

一三通

三通

※2

電報取扱局相互間において模写電送機により電報を送受する通信方法

停滞通数・最長遅延時間

三通

二〇分

平常日取扱通数

二四通

三七通

※3

印刷通信

取扱通数

(省略)

五五通

五〇通

※3

電報取扱局相互間において印刷通信機(紙テープにさし孔し、回線を通して配達局の受信機に印刷させる)により電報を送受する通信方法

停滞通数・最長遅延時間

一一八通

七〇分

二五〇通

一二〇分

平常日取扱通数

七八通

一一九通

※4

着信検査

取扱通数

一四通

四三通

※4

着信した電報の記載事項の点検及び着信番号の記入等必要な処理を行うこと

停滞通数・最長遅延時間

一四通

五八分

一〇〇通

一二〇分

平常日取扱通数

四通

三四通

※5

電話送達

取扱通達

二通

二通

※5

加入電話等により着信人に電報を送ること

停滞通数・最長遅延時間

五通

六〇分

臨時局送信

一通

二通

平常日取扱通数

一二通

一四通

配達

取扱通数

二六通

三〇通

停滞通数・最長遅延時間

三〇通

一二〇分

五〇通

一二〇分

平常日取扱通数

一二通

二二通

二〇通

しかも、これらの電報の停滞が解消されたのは、実に本件ストライキが終了した後、約三時間を経た午後二時三〇分頃のことである。

(ウ) 保全業務

〈1〉 通信設備の保守・建設を担当するいわゆる保全部門の業務は、電力設備の点検・修理、各種通信機器の試験・点検修理、伝送路の保守・障害の受付修理、電話等の新設・移転等を実施することが中心となつている。これらの業務に従事することを予定されていた職員は一三一名であつたが、これらの職員は四月一七日始業時から午前一一時までほとんど出勤しなかつた。

したがつてこれらの業務については、線路分室にきた応援管理者九名を含めて二〇名の管理者で行おうとした。

〈2〉 ところで本件ストライキ当日の前日夜から激しい集中豪雨があつたため、当日修理を予定されていたケーブル障害は一一ケーブル(罹障電話数にして二〇九件)の多くに及んでいた。これを管理者等によつて懸命に修理したにも拘らず、通常は午前中で修理できるものが午前一一時現在八ケーブル、罹障電話にして八八件を未修理のまま残置することを余儀なくされたのである。

しかも、ストライキ時間帯において電話が故障した場合の受付や修理の手配等を担当する試験部門、いわゆる一一三番において受付けた障害申告等(電話の故障についての申告等)の数は前記ケーブル障害もあつて平日(昭和四四年四月の一日平均)の同時間帯の二倍半にあたる約一〇〇件にも及んだのであるが、不慣れな管理者が対処したため全般的な応答はできず加入者に迷惑をかけることになつた。

さらにストライキ当日に実施を予定されていた加入者開通工事は一五件であつたが、当日は一四件が実施不能となつた。

また、移転等加入者の注文による工事も、午前中には予約されていた二一件を行うことができなかつた。

さらに、通信設備の保守点検その他業務全般において、いずれも予定された業務の遂行が不可能になり、業務停滞を生じた。

〈3〉 電話のダイヤル市外通話網をはじめとする各通信網によつて保持されている通話は、この通信網に対する日常の絶えざる保全作業によつてのみサービスも維持されていることは前述したとおりであり、本件ストによる保全業務の停滞は、不測の事態発生のおそれがある。

(エ) その他の業務

以上の業務のほかに、加入電話新設の申込受付、電話機設置場所の移転受付、名義変更等の注文受付、電話料金の計算事務、支払請求書の発行、料金収納等の電話営業業務さらに庶務、会計、給与、資材等の各業務はいずれも組合員である職員が殆んど出勤しなかつたため当日始業時から午前一一時まで停滞したことはいうまでもない。

また、一宮局に対する業務応援のため管理者多数を派遣した各電報電話局、電気通信部、電気通信局等においてもその管理業務にそれぞれ少なからず支障を生じ、平常業務が阻害されたことももちろんである。

(オ) 苦情の申告

ストライキ時間帯において前述の「案内係が出ない」という苦情申告が四件以上あつたほか、一般市民から「工事の約束日なのに工事にこない。」「ピケのため営業窓口へ入りにくい。」「電報の係がなかなか出ない。」という平常日では考えられない苦情が相次いだ。

(2) 一宮分室について

無線中継所における業務は多岐にわたつており、この中には定期試験・定期点検・回線開通工事等のように計画的に実施する作業と、電気通信設備の監視及び操業、各種管理業務等のように日常保守作業として実施する作業があるが、これ等の作業を遅滞なく遂行することによつて、良好で安定したサービスを提供するという公社の使命が達成されているのである。

しかるに、昭和四四年四月一七日には、本件ストライキが実施されて、当日一宮分室に出勤が予定されていた九名の職員がこれに参加することにより出勤しなかつたため、公社はやむなく二名の管理者を配置して電気通信設備の監視操業を行つたのであるが、たまたま、当日のストライキ時間帯に障害等による市外通話の混乱等の事態が発生することなく、事なきを得た。しかし、単にこの事をもつて、一宮分室の保全業務に支障がなかつたとは言い難い。

ちなみに、昭和四三年度に一宮分室が取扱つた障害は一九九件発生しているが、もし、ストライキ実施中に何等かの応急復旧措置を必要とする障害が発生した場合に、この障害がサービスの大巾な低下をもたらす大規模な障害に拡大発展するおそれなしと断定することはできない。

また、ストライキが実施されたことにより単に日常の保守作業にとどまらず、各種管理データの整理作業等の実施が阻害されたばかりでなく、当日、一宮分室の保守に従事した管理者が、保守に従事したことにより本来当該管理者が実施すべき管理業務につき、その遂行が阻害された。

(3) 業務阻害のまとめ

以上のように一宮局及び一宮分室の各部門においては、管理者の動員による業務確保、市民の協力要請等、種々の対策を講じ、可能な限り国民生活の支障を防止しようと最大限の努力を払つたため、結果的に本件ストライキによる影響は数字の上では以上述べたところにとどまつたものの、公衆電気通信事業の有する国民生活との密着性からその影響を実質的に考えれば事は決して単なる取扱数量などの問題ではなく、国民一人一人の社会経済その他一般の生活面において想像を絶する被害を与えていることも十分推認しうるところである。また、保全業務の停滞からくる電気通信網に対する大きな影響のおそれは常に存在していたのである。

(七)  四・一七スト及び本件ストの要約

四・一七ストライキは、公労協統一ストライキの一環として、予め定められたところの闘争スケジユールに従い敢行されたものであり、この間全電通は公社に対し、いたずらに不当過大な要求を掲げて難題を提起し、公社の誠意ある態度をことさら無視して着々と準備をすすめ、底辺行動・大衆行動などの一連の実力行動、一票投票、分会オルグ等一連の組織固め等を強力に推進し、公社業務に徹底的打撃を与えようと当初からの甚だし烈な攻撃的意図の下に、殊更公社組織並びに業務遂行上重要な地位を占めるストライキ拠点局所を選定し、遂に本件ストを含めて始業時から午前一一時までの長時間にわたるストライキに突入したものである。のみならず、右ストの遂行に関しては、いわゆる陽動作戦あるいはピケツテイングによる応援管理者の入局阻止などといつた極めて悪質かつ徹底した業務妨害を講じ、寸時の停廃も許されない公衆電気通信事業に重大な悪影響を与え、ひいては利用者たる国民の生活利益に多大の支障を生ぜしめたものであつて、公労法一七条にいう争議行為に該当することはもとよりのこと、違法かつ情状悪質なものというべきである。

(八)  原告長瀬、同井上、同森、同吉沢、同池森、同北村、同吉川(以下「原告長瀬ら」という。)の指導責任について

(1) 一宮分会及び中統無中分会においては、分会執行部の役員が上部機関の指導をうけて本件スト実現のための指導活動を行つた。ここでいう「指導」とは職員が組合の分会役員として所属組合員たる職員に対し、公社業務の正常な運営を阻害せしめる一切の行為をいい、拠点指定をうけたとき直ちにストライキを行えるよう積極的にその体制づくりをしたことを指す。

本件ストライキに即していえば拠点指定が直前になつてなされたのであり、上部機関が直接分会組合員に対するストライキ指導を行うなどということは考えられず、分会執行部の役員が分会組合員に対しストライキ実現のための指導を行つていたことは明らかである。このことは、東海地本から四月一一日に発出された地本闘争連絡をみても、「各級組織は六九春闘、ストライキ批准投票の成功の上にたつて、第一波、四・一七ストライキを力強く闘いぬくため、さらにストライキ体制を強化されたい。また、今回2/3の批准率に達しなかつた分会は組織の再点検を行い、スト体制の確立に努力されたい。」とあり、分会執行部の役員の指導性を前提とした指示がでていることからも裏付けられる。

原告長瀬らは分会執行部役員として拠点指定を受けたとき直ちにストライキを行えるよう積極的にその体制づくりをしたことは疑いのないところである。

そして原告長瀬らが右の意味での指導をしたことは、前記(五)項(1)(2)で述べた執行委員会・職場委員会の開催、印刷物の作成・配布等の教宣活動など、ストライキにいたる一連の行動により明らかである。

以上の原告長瀬ら分会役員の指導は以下の理由により、分会役員が全員参画の上実行したのである。

〈1〉 分会役員全員の各執行委員会等への出席の推定について

一宮分会運営規程には役員の任務と義務については直接規定はないが、その第二一条に「この規程に定めてない事項はすべて支部規程等の定めるところによる。」と定め、愛知支部運営規程第一六条には「役員及び書記の任務と義務は規約による。」と定めている。

中統分会準則も同様で、その二〇条に「この準則に定めてない事項は、すべて支部運営規程の定めるところによる。」と定め、名古屋支部運営規程第一五条には「役員の任務と義務は規約の定めるところの精神による。」と定めている。すなわち、分会役員は、全国電気通信労働組合規約第三四条に定めるところに従い「役員は、その業務に専念する義務があり、正当な理由がなくて議決機関及び必要な諸会議に欠席することは許されない」のである。また、一般社会通念からいつても、本来、役員として選任された者は、明示された規定の有無にかかわらず、当然に必要な諸会議に出席の義務を負うものと解すべきである。

〈2〉 印刷物の作成・配布等諸活動について

印刷物の作成・配布についても同様であり、右役員全員において印刷物の作成・配布を企画して実行に移したものである旨の趣旨であつて、たまたま配布をしていた一部役員が現認された場合であつても、当該役員らのみを指しているのではない。

すなわち、執行部の任務は、執行委員会等において具体的執行業務について執行意思を決定する機能と、右決定された意思にもとづき自ら執行する機能を併せもつものである。

印刷物の作成・配布等の教宣活動は、執行部のなす指導行為の一環として、執行委員会の決定意思にもとづき、それを組合員全員に周知徹底せしめるため行われたものであるから「役員全員において印刷物の作成・配布を企画して実行に移したものである」というべく、このことは、配布ビラの中に「分会執行部」と記されているものがあること、また、現実に執行部らによつて配布されたことからしても明らかである。

その他、立看板の掲示、一票投票オルグ等の諸活動についても全く同様である。

原告長瀬らが、右のとおり前記のような違法な争議行為を指導したことは明白であり、民事、刑事を問わず、一般に指導責任が単なる実行責任より重く、より強い法的非難を受けるべきことは多言を要しない。

(2) なお、原告らの後記反論に対しては、次のとおり反論する。

〈1〉 執行権の停止について

原告らは、四月一五日の指令六号によりストライキ拠点の指定後は分会役員の執行権が停止され、一般組合員と同じ立場に立つた旨主張する。

しかし、この非専従役員の執行権停止は規約上の根拠が不明確であるばかりでなく、四四年春闘のみ指令されたものである。このことは、全電通としてもその実効性に疑いをもつていることを示しているであろう。

常識的にいつても、スト当日の午前五時頃より急に中央本部からの派遣役員ないし専従の地本、支部役員が分会組合員を把握指導することは不可能であるばかりでなく、それまで営々とストライキ体制を築き上げてきた分会役員が以後何も組合員の把握にあたらなかつたとは考えられないところである。

したがつて、この執行権停止指令は、処分をのがれるための全く名目的なものと断定せざるを得ない。

かりに執行権の停止があつたとしても、ストライキ当日の午前五時頃よりなされたものであり、ストライキの実行にいたらしめたそれまでの分会役員の指導責任を免れさせることができないのは当然のことである。

〈2〉 非常災害時のストライキ中止について

原告らは天変地異等によりいわゆる異常障害が生じた場合には、直ちにストライキを中止し、その復旧につとめる旨主張する。

かりに、この点が原告ら主張どおりであるとしても、全電通との間に協定があるわけでもなく、公社はその内容について了知しておらずしかも、全電通内部の自主的規律としか考えられず、したがつて、非常災害の解釈も全く全電通にゆだねられているわけであり、公社がその履行を迫り得るものでもない。

(九)  原告らの処分理由について

(1) 原告長瀬らについて

〈1〉 前記のような違法なストライキを「指導」した原告長瀬らに対し、公社は、公社法第三三条、公社就業規則第五九条に基づき懲戒処分を行つたものである。

この「指導」の行為は、就業規則五条二号に違反するので、就業規則五九条一号、一八号、公社法三三条一項一号、二号に該当する。

また、就業規則六条に違反するので就業規則五九条一号、一九号、公社法三三条一項一号、二号に該当する。

同時に公労法一七条に違反するから公社法三四条に違反することになり、公社法三三条一項一号、二号に該当する。

〈2〉 原告長瀬らの懲戒処分を行うにあたつては諸般の事情を総合的に判断して処分の有無、量定を定めたものである。

すなわち、これまで詳述してきた争議行為の目的、態様、公社業務に対する影響の度合、争議行為に対する参加の仕方や果した役割などの具体的内容、原告らの組合組織上の地位、さらに全国的な均衡を配慮して総合的な判断により量定等を定めたものである。

そしていかなる場合に、いかなる種類の懲戒処分をなすべきかの選択は、専ら懲戒権者の合理的裁量に委ねられているのであつて、原告森が実行行為に参加しなかつたのに、これに参加した他の原告らと処分量定が同一であるのもまた、分会長、副分会長、その他組合員の処分量定がその地位に応じて同一であるのも懲戒処分の共通事由である指導行為を行つたこと自体を重視したことの当然の結果であり、また右指導行為の細部においては、その態様、程度において微妙な差異があつても処分を異にするに価するほどの顕著な差異があるとは認められなかつたことの当然の結果であつて、これを要するに処分の原則である公正の原則ないしは平等取扱いの原則に則つて合理的裁量に基づき処分を実施したことの結果がたまたま処分量定が一律となつたのにほかならないのである。

〈3〉 以上のことから本件ストライキを指導した原告長瀬らに対し、単なる一般参加者よりも制裁の程度を重からしめたのは当然のことであり、懲戒処分権限をもつ公社の合理的な裁量の範囲内に属することはいうまでもないことである。

(2) 原告井上、同岡田、同小川、同鈴木、同吉沢について

右原告らは四月一七日に就労すべきであつたにもかかわらず、前述のような違法なストライキに参加したため始業時から午前一一時まで就労せず公社業務の正常な運営を阻害したいわゆる「実行」行為を行つたものであつて、公社は、公社法第三三条、公社就業規則第五九条に基づき懲戒処分を行つたものである。

この「実行」の行為は、就業規則五条一項に違反するので就業規則五九条一号、同五九条一八号、公社法三三条一項一号、二号に該当する。

また、就業規則六条に違反するので就業規則五九条一号、同五九条一九号、公社法三三条一項一号、二号に該当する。

同時に公労法一七条に違反するから公社法三四条に違反することになり公社法三三条一項一号、二号に該当する。

(一〇)  本件処分と懲戒権濫用の一般的法理について

一般に、公務員に対する懲戒処分は、行政組織内の秩序維持のため、職務義務違反を犯した者に対して課せられる法的責任であり、すみやかにこれを課することによつてその責任を明らかにし、その将来を戒しめるものである。

そうだとすると、その組織体の秩序維持のために、また、当該義務違反者の将来をも考慮して、懲戒処分を課するかどうか、これを課するとしても、いずれの処分を選択するかは、その組織内の諸事情、当該義務違反者に最も通ぎようした者、すなわち、懲戒権者において初めてよくこれをなし得るものというべきである。懲戒権者は行政組織の秩序維持のため、職員の職務義務違反行為の軽重、懲戒処分が本人及び他の職員に及ぼす訓戒的効果等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、右のような懲戒権者の裁量に任されているのである。そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。このように、懲戒権者の裁量の余地は極めて広いのであるが、このように広い裁量権の中においても、処分の軽重とも関連してなお広狭の差があり、免職処分については、その判断は「特に厳密、慎重であることが要求されるのに対し」、停職以下の各処分については「裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差支えない」ものというべきである。

以上に述べた懲戒権濫用の法理からすれば、本件処分が懲戒権者である被告公社の合理的裁量権の範囲内のもので有効であることは明白である。

三  原告ら主張第五項(二)(2)に対する認否は次のとおりである。本件処分によつて原告らが蒙ると主張する経済的損失(別紙計算書を含む。)の内容(計算基礎、計算内容等)が、ほぼ原告ら主張のとおりであることは認める。

ただし、(ロ)の〈2〉の主張は否認する。減給処分の場合、当該処分の期間中、原告ら主張の特別手当が減額されることはない。現に原告らのうち、減給処分を受けた者は、いずれも特別手当の減額をされずにその支給を受けている。

また、別紙計算書には、以下指摘するような誤りがある。

1  別紙計算書一〈ハ〉1のうち、

「44,200円×1.4=………」(二五ページ一一行目)とあるは「44,300円×1.4=………」が正しい。

2  同一〈ホ〉5のうち、

(一) 「………はね返り損失分一五〇〇円」(二七ページ八行目)は、「………はね返り損失分一四〇〇円」が正しい。

(二) (45,000+1,100+1,200+1,280)×1.4-(44,000+1,100+1,200+1,280)×1.4=1,500円(二七ページ九行目)は、(55,000+1,100+1,200+640)×1.4-(54,000+1,100+1,200+640)×1.4=1,400円が正しい。

3  同一〈ヘ〉4のうち、

(一) 「………の損失分七五〇〇円」(二七ページ最終行)は、「………の損失分七四〇〇円」が正しい。

(二) 6,000+1,500=7,500(二八ページ一行目)は6,000+1,400=7,400が正しい。

4  同一〈ヘ〉5「総合計二二一一二八円」(二八ページ二行目)は「総合計二二一〇二八円」が正しい。

5  同一〈チ〉2のうち、

「………×5)×1,000円}×97/100=65,233円」(二八ページ最終行)は、「………×5)×1,000円}×97/100=56,017円」の計算誤りである。

6  同二〈ホ〉2のうち、

「………×7)×800}×97/100=47,365円」(三〇ページ一四行目)は、「………×7)×800}×97/100=47,374円」の計算誤りである。

なお、原告らは、あたかも原告ら主張の経済的損失を具体的に蒙るかのように主張するが、原告らの属する全電通労働組合においては、「犠牲者扶助規程」(甲第一号証、甲第二号証参照)が定められており、原告らは同規程に基づく救済を受けているものと思われ、原告ら主張の経済的損失なるものを原告らが具体的に蒙つているとは考えられない。

なお、原告ら主張第五項(五)(3)(4)の昭和四八年以降五〇年に至る間の処分例軽減化が原告ら主張のとおりであることは認める。

第四原告らの反論

一  被告主張第二項(一)の主張は争う。公労法一七条一項の違憲無効なことは後記のとおりである。

同項(二)の主張は争う。公労法一七条一項が仮りに合憲としても同条違反のストに対し懲戒処分をなすことの許されないことは後記のとおりである。

同項(三)の事実中(8)の一宮局及び一宮分室の機構、業務内容が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

同項(四)(1)の事実中全電通が昭和四三年八月第二一回定期全国大会を開催し、四四年春闘方針を討議したこと、昭和四四年二月二六日から二八日にかけ、第五三回中央委員会を開催し、大幅賃上げの具体的要求を決定したこと、同年三月五日被告に団交を申入れて基本給一万二〇〇〇円一律引上げを中心とする要求書迄提出したこと、これに対し被告は、三月一五日に被告主張のとおりの第一次回答をしたこと、右全電通の要求をめぐる中央団体交渉は、その後継続されたが不調に終つたこと、四月一六日の最終中央交渉において、被告が「現在民間賃金の動向は流動的であるが五%を下らないと推測されるのでその方向で検討したい」旨態度表明したこと、全電通は三月一二日指示三号を発し、三月一七日以降全職場で底辺行動を展開することを指示したこと、三月一九日指令四号を発し、大衆行動の展開を指示したこと、同月二四日指令五号を発し、三月二五日以降全国一斉時間外労働拒否に突入することを指示したこと、三月三一日指示四号を発し、被告主張のとおりのストライキ批准投票の実施を指示したこと、四月一五日指令六号を発し、被告主張のとおりの指令をしたこと、その間被告が全電通に対し、指示四号及び指令六号に関し、総裁名による警告書を以つて批准投票及びストの中止方の申入をなしたこと、全電通は、四月一七日始業時から午前一一時まで全国五拠点、九事業所においてストに突入したこと、及び四・一七スト後における春闘終結に至るまでの経過が被告主張(1)(オ)のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

同項(四)(2)の事実中全電通がスト体制確立に向けて行動したこと、四・一七ストの規模が被告主張のとおりであること、被告が全電通のスト批准投票及びスト突入指令に対し総裁名の警告書で中止方の申入をしたこと、右スト突入指令において全電通は、「各地方組織の非専従役員は拠点指定を伝達された時点からスト実施に関する一切の事項についての執行を停止する」旨指令したこと、四・一七ストに関し、被告がその主張のとおり一六三〇名の懲戒処分を行つたことは認める。その余は否認する。

同項(五)の事実中、四月一日一宮局において一宮局長から一宮分会長に対し被告主張のとおりの一票投票中止の申入書が手交されたこと及び右申入書写と被告主張のとおりの総裁談話が局内掲示板に掲示されたこと、中統無線中継所でも右と同様の措置がとられたこと、指令六号発出後一宮局長は四月一五日一宮分会長に対し、総裁名の警告書と同趣旨の警告書を手交し、右警告書写及び総裁名による被告主張のとおりの「職員各位に告ぐ」と題する文書を局内に掲示したこと、四月一五、一六日一宮局長名による「職員各位に告ぐ」と題する文書が各職員に手交され、一六日には局長が局内放送により一七日の就労を指示したこと、同日に東海電気通信局長名で「分会役員の皆さんへ」と題する説得文が局内に掲示されたこと、中統無線中継所においても四月一六日所長が一宮局におけると同様の所長名の警告書、その写、あるいは「職員各位に告ぐ」と題する文書の手交、局内掲出を行つたこと四月一七日午前五時ごろ一宮局に全電通島田中央闘争委員らが来局し、一宮局長及び中統無中一宮分室長にスト拠点局に指定された旨通告したこと、同日一宮分会組合員である原告井上、同岡田、同小川、同鈴木ら一宮局職員三一六名及び中統無中分会員である原告吉沢が始業時より就労せず、一宮勤労会館における職場大会に参加し、午前一一時まで時限ストを実施したこと、四月一七日午前一〇時三〇分ごろ応援管理者一五名が入局したこと、以上の事実は認める。その余は否認する。

一宮分会及び中統無中分会一宮分室の組合員は全電通中央本部の指令指示に従つて行動し、本件スト実施該当者は、指令に基づいて本件ストに参加したのであり、右両分会の役員である原告長瀬らは、指令六号により一切の執行権を停止され一般組合員と同じ立場に立つて共に本件スト実施該当者は本件ストに参加したのである。本件スト実施に際し、全電通東海地方本部は、一宮局舎各入口附近に説得要員を配置したが、右はストに附随する正当な団体行動の範囲内のもので違法行為はなかつた。

同項(六)の事実及び主張は後記のとおり争う。

同項(七)ないし(九)の主張は、原告井上、同岡田、同小川、同鈴木、同吉沢が本件ストに参加したことのみ認め、その余は否認する。

同項(一〇)の主張は後記のとおり争う。

第三項の主張中減給処分の場合は、当該処分の期間中特別手当が減額されないこと、及び原告ら主張計算書に被告指摘の誤りのあることは認める。

二  公労法一七条一項の違憲性

本件処分は、被告の主張によれば、原告らの所為が公労法一七条一項に違反していることを前提として公社法三三条一項一、二号、三四条一項、就業規則五九条一号、一九号、五条二号該当を理由になされたというのであるが、公労法一七条一項は違憲無効であるから、本件処分は当然に無効というべきである。

以下その理由を詳述する。

憲法二八条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と規定し、いわゆる労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)は憲法上の基本的人権(労働基本権)として「侵すことのできない永久の権利」(憲法二条、九七条)とされており、この理は、一〇・二六、四・二、四・二五、五・四各最高判決によつて明言されているところである。

この労働基本権保障の実質的根拠は、何よりも先づ、その権利主体である勤労者の労働者性に求められるべきである。そして労働基本権の保障される勤労者の範囲は、私企業の労働者のみならず、公共企業体職員や国家ないし地方公務員をも包含すると解すべきである。また、いわゆる労働三権は、原則的には三権一体として保障さるべきもので、三権は相互に密接に結びつき、その内の一つを奪えば他は形骸化するおそれがある。

従つて、争議権の保障が憲法上の基本的人権としての保障である以上、その制限は必要最少限度のものでなければならず、かつ、制限の限界については、争議権の労働基本権における位置と性格が十分に考慮されねばならない。

これが、争議権制限法理としての必要最少限度論である。もともと旧労組法(昭和二〇年一二月二二日公布、同二一年三月施行)時代には、警察、消防等を除く非現業、現業の公務員は、私企業の労働者と同様に旧労組法の適用を受け、労働三権を保障されていたことを看過してはならない。

しからば、必要最少限度論の具体的基準はいかにあるべきかというに、それは、一〇・二六東京中郵判決が説示するいわゆる四条件説が妥当と考える。

なお、この必要最少限度については、「より制限的でない他の選びうる制限の原則」(いわゆるLRAの原則、猿払事件一、二審判決参照)が、争議権制限立法の憲法適合性判断の具体的基準の一つとして考慮さるべきである。

右に述べた争議権制限法理から公労法一七条一項を検すれば、同条が違憲無効であることは明白である。

即ち、先づ公労法は、改正国公法と共に公務員や公共部門労働者の争議行為の一律全面禁止を指示したマツカーサー書簡と政令二〇一号に基づき、占領軍の超憲法的権力による事実上の強制により制定されたものであるという立法経過を明確に認識する必要がある。

次に、公労法一七条一項は、争議権の規制対象を三公社五現業という一定の公企業職員に限定したこと、規制の程度を一律全面禁止にした点において特異性があるが、このような規制方法には、何らの合理性が認められない。

三公社五現業と経営形態を同じくする公共事業体は、公庫、公団、事業団等他にも存するのに何故に公労法一七条一項が規制対象を三公社五現業に限定したのか、その説明は不可能である。また、三公社五現業に共通するとされる公共性(公益性と社会性)と独占性についても、民営でもガス、電気、電信・電話(国際電信電話株式会社)等の公益事業が存し、公共性を有するものは三公社五現業に限られていないし、反面、三公社五現業の中には民間企業との関係で競業関係に立つ事業体があり、独占性に欠けるものもあるのである。

争議行為の一律全面禁止が合理性を欠くことについて論ずれば次のとおりである。

争議権制限の実質的根拠を「国民生活全体の利益の保障」に見出す限り、その制限の可否は、「国民生活に重大な障害をもたらすおそれ」の存否にかかつてくることは当然の事理である。そして、その「重大な障害」は、〈a〉争議行為を行なう労働者の業務ないし職務の公共性(公益性・社会性)の強弱と〈b〉争議行為の種類・規模・態様――いわゆる争議行為のうち最も典型的なウオークアウト型のストライキを例にとつても、全面スト、部分スト、指名スト等があり、それぞれについて無期限スト、時限スト等がある――との相関関係によつて定まる問題であり、両者の組合せは無数にあるといつても過言ではないから、それによる「障害」も千差万別であつて、全く或いは殆んどないことも勿論ありうるのである。

そして、右にみた争議行為と国民生活に対する障害の関係からしても、争議行為の規制は、「禁止」ではない「予告」や「緊急調整」といつた労調法上の「制限」――LRAにいわゆる「よりゆるやかな制限」――で充分その目的を達成することができるのである。

右に述べたことは、三公社五現業の一つである被告電電公社の場合にも妥当する。電電公社職員(電気通信労働者)の労働者性、職務の内容と労働の実態等は民間労働者のそれと何ら変るところがないというべきである。

被告は、電電事業の「公共性」が原告ら全電通労働者の争議行為によつて著るしく阻害されるかのような主張をするけれども国民生活に対する重大な障害という観点からすると、それはせいぜい〈1〉非常災害等緊急事態をはじめ異常障害発生による通信杜絶の問題と〈2〉万全を期すべき重要な保全業務の問題にとどまる。

しかし、第一に右の〈1〉、〈2〉はいずれも争議行為との相当因果関係は全くないということ(〈1〉は、本来、労使間の争議協定の問題であり、〈2〉は何よりも要員の確保等労働条件に関する問題である)、第二に、それは、同じ公衆電気通信業務を行なう国際電信電話株式会社においても全く同様の問題であるが、そこでは争議行為は禁止されていないこと、第三に、既に明らかにしたように公社の事業には、争議権を保障された大量の下請企業労働者が存在すること、そして第四に、公社の事業は著しい「自動化」によつて「業務の停廃」は即「サービスの停廃」を意味しないのである。

この最後の点は、電電公社職員の争議行為の国民生活に及ぼす障害の問題であるが、その「障害」が「重大」なものとなる「おそれ」は類型的にないといつても過言ではないのである。それにもかかわらず、その争議行為を全面的に「禁止」するのは、余りにも過度の規制であることは明白であり、万一、「重大な障害」が具体的に予測される場合は、労調法の緊急調整による規制で充分であるといわなければならない。争議権を制限する立法目的が、「国民全体の利益の保障」以外に見出せない以上、その目的達成の手段・方法としては、争議行為の一律全面「禁止」という、最早「制限」の域を超えた争議権保障の皆無を意味する規制ではなく、より制限的でない規制、例えば、労調法の定める「公益事業」についての「予告制度」や「緊急調整制度」――その個々の制度の当否はともかく――による争議行為の「制限」で基本的には足りるというべきであり、それを超える「禁止」規制は、必要最少限度法理に反して違憲無効と断ずるほかはない。

(財政民主主義による労働基本権否認の法理の不当性)

五・四判決は、財政民主主義の原則上、五現業の国家公務員や国の全額出資の公法人で、その財政が国会で議決される法制をとる三公社の職員の団交権、争議権は憲法上許されないが、現行の法制度の公労法で、その職員に対し、団交権、協約締結権を認めているのは、立法上の配慮から、財政に関する一定事項の決定権を政府又は、三公社に委任したものにほかならないとし、公労法一六条を右委任に特別の留保を付したものと述べている。

ところで、三公社と同じく、政府の全額出資の公法人で、予算議決主義をとる日本開発銀行、日本輸出入銀行、住宅金融公庫外九公庫の職員については、前示五・四判決の論理からすれば、当然勤務条件の共同決定は、財政民主主義の原則から憲法上認められないところである。しかし、前記二銀行、一〇公庫の職員に対しては、現行法上、労働基本権が保障され、私企業の労働組合と同じく労働組合法が適用されているのである。また、政府関係特殊法人として、国、地方公共団体出資の公法人が数多く存在するが、かかる政府関係特殊法人に勤務する職員についても、労働基本権は保障されている。

五・四判決の財政民主主義論による労働基本権否定は現行法制を検証しても、論理整合性を欠くのである。

さらに、国家公務員、三公社の公社職員に対し、現行法制において、労働基本権制限の代償措置(人事院勧告、仲裁々定など)の制度が存在する。

かかる代償措置は、労働基本権の制約に代るものとして、制約を受ける公務員、公社職員の生存権保障の趣旨から設けられる制度であり、かかる代償措置が十分に機能することが労働基本権制約の合憲性の担保であるとも言われている。

したがつて、代償措置例えば仲裁裁定の内容と財政民主主義との間に懸隔を生じたとき、右代償措置が生存権保障のために設けられた趣旨、存在目的を強調し、その機能を十分に果そうとすればする程、財政民主主義を侵害することになり、財政民主主義を優位におく五・四判決流の論理からすれば、憲法上、団交権、争議権と同じく、代償措置そのものも、その存在を許されないとの矛盾を生み出し、右判決の財政民主主義優位絶対化の解釈の下では、そもそも、代償措置の機能を果せず、存在価値は皆無と同然である。

これは要するに、五・四判決は、財政民主主義論を根拠に、公務員、公社職員の労働基本権を否定したが、議会民主主義を憲法で採り入れている先進西欧諸国においても、公務員の争議権は保障され、財政民主主義を根拠に、公務員の団交権、争議権を否定した例はみあたらない。

日本においても、現行憲法施行の昭和二二年五月から昭和二三年七月に政令二〇一号が発布され公務員の争議行為が一切禁止されるまでの間は、公務員に憲法二八条の労働基本権が現実に保障され、争議行為が行なわれていたのである。そして、右争議権の保障されていた時期に、憲法八三条の財政民主主義をたてに争議権制約が論ぜられたことはないのであつて、財政民主主義論が団交権、争議権否定の論理に結びつかないことは、諸外国の事例からしても、従来の日本の経過からしても、明白なことである。重ねて引用するが、かゝる見解は「あまりにも理論にとらわれ、現実を無視するものであつて憲法の解釈として正当だとは考えられない」のである(環裁判官の反対意見)。憲法二八条の労働基本権は、財政民主主義によつて、直接、否定されることは絶対ないのである。

(国際条約による

世界の官公労働者のストライキの増加と各国の対応

一九六〇年以降、先進資本主義諸国に共通する特色として、官公部門における労働組合運動が活発となりストライキが頻ぱんに行われはじめた。

これらのストライキは単に回数だけでなく、長期化、参加人数の増加、大規模化が共通の現象となつていつた。

この原因を要約すると各国の公共部門の労働者の増加、そしてこれらの労働条件が民間と比べて低下現象を示しはじめたこと、六〇年代後半からのインフレに対し、公共部門の労働条件の改善が立遅れていたことなどを共通の原因として挙げることができる、そして、右の諸条件の前に立たされた公務員労働者が、労働条件の改善を求めて労働組合運動を活発にする傾向を強め、従来の各国の法制の大勢が公務員を特権的立場に置き、ストライキに対し消極的であつたものに対しこれを打破しようとする動きに変つたことが特徴的である。

右の世界的動向に対し、ILOをはじめ各国の対応はストライキ権の容認傾向を強めていつた。すなわち、一つの傾向は従来の禁止立法を改廃して一定の規制の下に容認するもの(アメリカ・カナダ)、二つには従来から認められているストライキ権を活用して、権利の拡大をはかろうとするもの(イギリス・イタリヤ)、三つには禁止立法を適用せず、禁止違反に対する制裁処分を行わないもの(フランス・アメリカ・ドイツ)があり、大勢としては公共部門のストライキに対処するために、公共部門のストライキ権を解放する方向に動いていることをみとめることができるのである。

(一) ILOにおける官公労働者のスト権保障の動向

ILOを中心とする法体系においては従来、公務または公共部門の労働関係に関する直接的な取り決めはなく労働者全体に対する労働基本権保障を定めたILO八七号条約の中で公務員に関する特殊な規制を定めてきた。

これは、ILOの加盟国内部における官公労働に対する認識が、旧来的な特権的地位の発想にもとづいていたことに起因するとみてよい。しかし、近年、先進資本主義諸国における官公部門の労働問題は、官公労働部門が、むしろ民間部門より立遅れていることの実態を暴露し、従来、特権的立場にあるとされてきた官公労働者の地位の不安定さを露呈すると共に、労働基本権確立の必要性を明らかにしてきたといえる。

こうした情勢をふまえ、ILOでは、一九五九年第五回諮問委員会を経て一九六三年の公務員の勤務諸条件に関する専門家会議が開催される経緯の中で、公務員問題がクローズアツプされてきた。

そして、ILO四九回総会(一九六五年六月)では公務合同委員会の設置に関する決議が行われ、一九六七年の第六回諮問委員会では「公務合同委員会の設立が、従来、公共部門及び民間部門の双方を取り扱つてきた諮問委員会の将来の仕事を容易にする」との方向を決め一九六九年までに第一回公務合同委員会の招集をすることを決議したのであつた(決議六九号)。このようにして、この数年の間でILOにおいて、ようやく公務員のストライキ権が中心的論議の対象とされるに至つた。

(二) 日本の官公労のストライキ処分に対するILOの態度

(1) ドライヤー報告(一九六五年)

右のような世界的傾向の中でILO(国際労働機構)は、日本の労働法制に対しても深い関心を示してきた。

数次にわたるILO八七号条約批准の勧告がその顕著な例であり、一九六五年のドライヤー報告書の中で日本の公共部門におけるストライキ権のとり扱いについて述べている点は、その後、今日に至るまでのわが国の官公労働者のストライキ権問題につよい影響を与えているものである。

右ドライヤー報告書は、すべての公共企業体や国有事業の労働者のストライキ権を全面禁止することの不合理性(ドライヤー報告書二一三六項)及びストライキ以外のあらゆる争議行為すらも、一律に禁止してきた労働政策への批判と懲戒処分の不当性(二一三七項)や、ストライキ権の徹底した禁止が日本の労使関係に悪影響を及ぼしていること(同二二四八項一三号)、そして、ストライキが禁止される場合の労働条件に関する問題の解決と苦情の救済のための現在の機構は、不適当であり、現行制度は徹底的に検討される必要がある(同二二四八項二四号)との見解を表明し、公共部門の労働者のストライキ問題に対する現実の法適用についての批判をくり返してきた。

しかし、右勧告にもかかわらず政府・公社等は、その頑固な態度をあらためようとせず、従前にも増して苛酷な大量懲戒処分を続発し、ストライキに対する違法視と高圧的な態度はエスカレートされ、労使関係の改善への努力を一切拒否しつづけてきたのである。

(2) ILO結社の自由委一三二次報告(一九七二年五月三〇日)

一九六五年日本政府がILO八七号条約を批准して以来、全電通をはじめ、わが国の官公労働者は政府・公社が同条約とドライヤー報告の趣旨に即して労使関係の改善をはかることを期待したのであるが、改善どころか、その後も一貫して労働組合敵視政策を変更しようともせず、団結権破壊と大量の懲戒処分をくり返してきた。

一九七一年一一月国鉄におけるマル生運動と争議行為に対する懲戒処分の不当性について、国鉄労働組合(国労)と動力車労働組合(動労)がILO八七号条約・同九八号条約違反を理由にILOに提訴をし、これに対し、一九七二年五月三〇日ILO結社の自由委員会は

「労働者に対して行われた制裁に関し、委員会は法律に規定された制裁の適用のさいの硬直した態度は、労使関係の調和ある発展にとつて望ましくないと考える。

特に、これらの制裁の結果、労働者間に国鉄当局が決定したような永久的賃金格差が生ずる場合には、この種の状態が発生する可能性がある。

このことに関して、すでにドライヤー委員会が政府に対し、公共部門に対し懲戒処分が適用される場合の厳格さおよび、きびしさをゆるめる措置をとつてはどうかと指示していることがあらためて想起されるべきである」(ILO結社の自由委一三二次報告八二項)

との見解を示し、ドライヤー勧告で表明した態度を維持すると共に、日本政府及び国鉄当局が、爾来、何らの改善を行つていないことを指摘し、再度、処分の不当性を明らかにした。

(3) ILO結社の自由委一三九次報告(一九七三年一一月一六日)

結社の自由委一三二次報告が出された年の一九七二年一〇月二〇日、全電通は、一日も早く近代的労使関係の確立を希求する立場からILOに対し、日本労働組合総評議会(総評)と国際郵便電信電話労組連盟(PTTI)及び公労協八組合など一二団体を共同提訴者として、過去一〇数年間全電通の行つたストライキに対して、公社が行つた懲戒処分について、ILO八七号、同九八号条約に違反する旨の提訴をした。

提訴の趣旨は

〈1〉 現在のストライキ全面一律禁止と大量の懲戒処分について、過去にドライヤー報告が「公共部門の懲戒処分は緩和すべきである」と勧告をしているにもかかわらず、日本政府と公社はストライキに参加した組合員に対する懲戒処分の量定を一段と苛酷なものにし、しかもその適用範囲を拡大してきている。これは、公社当局の労働組合敵視政策のあらわれであり重大なる不当労働行為である。

〈2〉 右の大量かつ、苛酷な懲戒処分は労働組合および労働者に対し莫大な経済的・社会的不利益結果をもたらし、労働組合の財政を侵害し、組合員の身分的・経済的圧迫となつて労働組合の団結権を侵害するものである。

というものであつた。

前記全電通外公労協等一二団体によるILO提訴に対し、ILO事務当局からは日本政府の意向をたしかめたうえで、本格的解決策がうち出されることが約束された。

一九七二年一一月二日提訴側代表と日本政府代表理事同席のもとで、ジエンクスILO事務総長から、提訴案件について

「すでに審議中の事案は別として、新しく提訴した事案については、結社の自由委員会にまだかかつていないので、審議に入る前にすべての当事者政府・総評提訴団体との間において直接協議が行われることを提案する。どのようなレベルで行われるかは提案しないが、定期的かつ最高のレベルで協議することが望ましい。」

との提案が行われた。

このように、ILO事務総長自ら直接のり出し政府と総評との調整に入ろうという過去にない積極的な姿勢がうち出された背景には、ジエンクス事務総長はじめILO事務当局が、今日の日本の労使関係の不調和に着目し、ILO理事会開催予定の一九七三年二月まで、新提訴事案の審議を凍結しそれと併行して政府と総評間の直接協議による有効な結論を見い出し、日本政府の誠意ある態度の可否を明確にさせようとの狙いがあつたものと考えられる。

そして、右提案については提訴組合と政府が双方共受諾し、政府自ら労働者側と十分な直接協議を約束することによつて国内的には、あらたな局面をむかえるに至つた。

しかし、国内において直接交渉の場は開かれたものの、政府側は第三次公務員制度審議会の結論が出るまでは何の解決策もうち出せないとの態度をとるばかりか、おどろくことに、直接協議が進行中の一九七三年一月中に全電通及び全農林に対し、再び大量の懲戒処分の通告を行つてきた。(電電公社は一九七三年一月二九日、前年度七二年春闘と第五次合理化闘争に対する懲戒処分発令一三、八六一名)

ジエンクス提案によつて日本国内における公共部門の労使関係を改善する方向が強調され、直接協議が行われている最中に、あえて争議行為を理由とする大量の懲戒処分をあらたに行つた政府及び公社の態度は、ILO無視もはなはだしく、きびしく非難される性質のものであつた。

(4) ILOに対する追加情報の提出

全電通をはじめ前記共同提訴労組は、一九七三年二月ILOに対し、総評と政府との直接協議中に再び強行された全電通・全農林に対する懲戒処分内容を中心として追加資料を提出し、ジエンクス提案に示された「案件凍結」の解除を要請すると共に案件について早期に結論を出すよう要請した。

日本国内における直接協議の不成功に対し、ジエンクス事務総長は失望しながらも、問題の解決はあくまでも日本国内であることを強調して、提訴案件の公式手続きの進行を約束した。

日本政府によるジエンクス提案無視の姿勢は、結社の自由委員会第一三九次報告の中で「日本政府の硬直性」ということが強調されることによつて、批判された。

(5) 結社の自由委員会第一三九次報告の結論内容と理事会の採択

ILO理事会は、一九七三年一一月一六日、共同提訴されたすべての案件(事案七三七~七四四号)についての結社の自由委員会報告を満場一致で採択した。

結社の自由委員会が示したストライキ権についての結論は

「委員会は、労働者とその組織のストライキ権が、かれらの職業上の利益を擁護する合法的手段として一般に認められていること、そしてこの権利が公務や必要欠くべからざる業務において制限または禁止さえされるところでは、このように自己の職業上の利益を擁護する必要欠くべからざる手段をうばわれている労働者の利益を十分に守るための適切な保障がなければならないということを、これまでくり返し述べてきた。」(一二二項)

として、官公労働者のストライキ権が合法的手段として一般的に承認されていることの原則を明示し、制限・禁止は例外的なものであり、その場合においても適切な保障措置が必要である旨をうたつているものである。

さらに、同委員会が示した懲戒処分についての結論は「ストライキ参加者に加えられた懲戒処分に関して、委員会は…中略…処分をうけた労働者が二年後に賃金や諸手当で、同僚と同等の地位を回復しているという情報、および処分がストライキの行われたほとんど一年後におこなわれているという情報に委員会はまた注目した。この点では委員会は処分の実施がストライキのおこるときはいつでも不可避のものと目されねばならないなどというのは納得がいかないと述べたいと思う。処分を実施する際の柔軟な態度は労使関係の調和のある発展により多くの助けとなるものであることを指摘したいと思う。委員会は、理事会に対して、この項でのべられている考慮に注意を向け、懲戒処分の実施に関し、とりわけストライキ参加者に対するこのような処分の実施によつて生ずる報酬の永続的不利益だけでなく、その結果として生じ得る関係労働者のキヤリヤに対する不利な諸結果に関して、政府に対しておこなわれた諸提案を想起するよう勧告する。」(一二四項)

と述べ、ストライキ参加者に対する懲戒処分のもたらす賃金上の永続的不利益とキヤリヤ(雇用上の保障)に対する悪影響の排除についての勧告をおこなつているものである。

なお右の結論中「処分がストライキの行われたほとんど一年後におこなわれているという情報に委員会はまた注目した」との部分があるが、これは全電通労組が、七二年春闘処分の発令について提訴状の追加情報で指摘した事実をとり上げたものである。

以上のとおり、第一三九次報告は、提訴案件の申立内容を広く容認し、支持したものであり、ドライヤー報告、一三二次報告(国労・動労・マル生不当労働行為案件)を基礎にしながら、より一歩を進め、日本における官公労働者の労働基本権問題について、ストライキ全面一律禁止体制の再検討・懲戒処分の排除・不当労働行為の根絶と救済制度の完備・団体交渉権の確立などに関する明確な判断を下したもので、官公労働者のスト権の原則的承認と懲戒処分の不当性について、当時ILOが到達した水準としては画期的なものと言える。

(三) ILO公務合同委員会及び公務専門家会議

ILOでは一九六七年の第六回諮問委の決定にもとづき一九七一年三月に第一回公務合同委員会が開催され、「公務部門における結社の自由と雇用諸条件決定に関する職員参加手続」報告が行われた。この報告では、公共部門のもつ労働問題が民間部門のそれと類似していること、そして公共部門の労使関係のルールを民間のそれと同じように取扱うべきであると指摘したのに加え、この公務部門の労働関係の進歩は世界的現象であるということを基調として公務部門のストライキ権問題を次のように言及した。

「公務部門の争議は、それが現行法のもとで認められていようといないとを問わず発生する社会的現象となつていることを認識し、争議権に関する賛否両論はともかく、基幹的サービスにおける妨害をさけるもつとも効果的な方法は法規による禁止ではなく、自己自身による抑制であることが示唆された」

そして、右の合同委員会における第一号決議として、ストライキ権について「公務員団体が他の労働者団体がその正当な利益を守るために雇用諸条件などから生ずる労働紛争の解決をはかるために有する調停斡旋、任意仲裁のような適当な合同機関を設けることの重要性を強調する」旨の決定をした。

このことは、官公労働者の労働三権なかんずくストライキ権の問題はこれを単に公共性とか公務性とかの抽象概念で一律に割り切つてストライキ権を禁止し、これに民刑罰をもつて臨むよりも、公務とは何かそして官民の異同性を問わず、ストライキ権承認を前提として労働争議を自己抑制しうる制度的な措置をあらたに考える状況が国際的に到来していることを示しているのである。

さらに、一九七五年四月七日から一六日にかけて、公務員問題が「公務専門家会議」という会議形式の下に討議された。ここでは、「公務」「公務員」「その職務内容」の定義とストライキ権問題が論じられた。

右公務専門家会議の結論によると「雇用条件について生ずる紛争は、公務員団体が他の労働者団体に合理的な利益を擁護するために通常開かれている他の手段に頼ることを不必要とすることを目的として当事者間の交渉により又は、斡旋、調停及び任意仲裁等の双方で合意した独立かつ公平な仕組みを通じて国内事情に適した方法で解決が図られるべきであることを規定すべきである」としている。

この結論は、ILO条約にはストライキ権保障がないことを認めながら、なお、事実としてストライキ権を承認し、このストライキ権保障を前提に平和的解決のための制度形成のステップを提言している。

同時にILO加盟国内部における公務公共部門の著しい集団的労使関係状況の変貌がもたらした立法規制とのそごとを新しい視角から捉えるための法改策の模索を展開せしめていることも事実である。

三  本件懲戒処分は、労組法第七条一号の不当労働行為である。

(一)  本件懲戒処分は、争議行為を理由とする不利益取扱で、明白な不当労働行為である。

原告らに対する懲戒処分は、被告の主張するように昭和四四年四月一七日指令第六号によつてストライキを行つたこと、又右ストライキを指導したことを処分理由としている。しかし、原告らの行為は、憲法で保障された団体行動権の行使そのものであつて、何ら違法、不当なものでなく、正当な組合活動である。即ち、公労法第一七条一項が違憲無効なことは先に詳述したとおりであり、したがつて、かかる違憲無効な公労法によつて、原告らの争議行為は何等違法不当視される理由も根拠もなく、憲法上の労働基本権保障による正当な組合活動である。かかる労働組合の正当な活動を理由に、原告らに懲戒処分という不利益な処分をしたのであるから、これは、もつとも明白な不当労働行為というべきである。

(二)  本件懲戒処分は、原告らの日常の組合活動を嫌悪し、これを原因とする不利益取扱であることからしても不当労働行為に該るものである。

全電通の指令第六号にもとづく本件ストライキは、全国五拠点九事業所において、始業時から午前一一時まで実行されたが、その拠点職場のストライキの態様は労務の単純な不提供にとどまるもので中央本部の指令通りを実行した統一かつ整然としたものであつた。そして右ストライキによる実害は軽微で、公労法第一七条を合憲と解釈するならば、その禁止する争議行為は、違法性の強弱、公共性の程度、国民生活に与えた影響の軽重などを判断し、その程度の強く、大きいものに限定とする立場(最高裁都教組判決)からして、本件ストライキは同法の争議行為に該らない内容程度のものなのである。しかるに被告は原告らを含めた職員に、苛酷な懲戒処分を強行したものである。右のように処分対象とならないのに拘らず被告公社が敢て処分を強行した真意、動機は原告らを含む被処分者の日頃の組合活動を嫌悪し、その活動を抑制しようとする意図に出でた差別取扱であり、ひいては全電通の団結力を弱めんとする不当な処分である。

(三)  本件懲戒処分は、原告らの所属する全電通労組の運営に対する不当な支配、介入であつて労組法第七条三号に該当するから無効である。

即ち、被告は、原告らの所属する全電通の組織の拡大、強化を嫌悪し、機会あるごとにその組織の弱体化を狙つていたものであるが、本件処分は、全電通労組に対する右意図を露骨に提示したものである。特に原告長瀬・井上・森・吉沢・池森・北村・吉川に対する懲戒処分は、全く役員の地位に対する処分であつて、同原告らが分会役員の地位にあるが故に平常の組合業務の活動分子と把え、非合理な不利益、差別取扱をしたものである。かかる組合員に対する不当な差別取扱を含む本件懲戒処分が不当労働行為の意思をもつてなされたことは疑いを容れる余地がない明白なことである。

四  公労法一七条一項違反の争議行為に対する懲戒処分の無効性

仮りに公労法一七条一項が合憲であるとしても、同項違反の争議行為に対しては懲戒権を行使することはできないから、本件処分は無効である。その理由は次のとおりである。

(一)  一般に懲戒処分は、普通解雇、損害賠償等の民事責任とは異質のもので、使用者が労働者に対し企業秩序違反を理由に科する制裁(秩序罰)である。このような懲戒処分は、市民法上の対等当事者間における民事責任とは異質のものであるから、使用者が懲戒権を本来的に有していると認むべき法理的根拠は皆無である。

(二)  争議行為と懲戒

集団的労働関係の性格を有する争議行為は、その責任主体が組合であること、個々の労働者は、右争議行為の一分子としてこれを組成するものではあるが、使用者の労働力支配から一時的に離脱していること等から考えると、平常時における企業秩序の侵犯を理由に個人責任を追及する懲戒処分は、争議行為に対して行使することはできない道理である。

(三)  違法争議行為と懲戒

前項の理は、争議行為が違法と評価される場合にも変らないのであつて、企業秩序維持を目的とする懲戒罰は、企業秩序からの離脱を本質とする争議行為に加えることは法理的に矛盾するのである(最高裁昭和四三年一二月二四日第三小法廷判決弘南バス事件参照)。

(四)  公労法一七条一項違反の争議行為と懲戒

公労法一七条一項違反の争議行為と懲戒について問題とすべきは、第一に、同条の立法趣旨と法益は何かということであり、第二に、同条違反の法律効果として定められた同法一八条のいわゆる「解雇」とは何かということであり、第三に、そしてこれが最も重大な問題であるが、争議行為に懲戒処分を課するのは公労法の予想しないところであり、必要最少限原則に反するのではないか、ということである。

(1) 公労法第一七条一項の立法趣旨と法益

公労法は、公共企業体等の争議権を一律全面的に禁止する。かかる禁止法規が、違憲であることは既に述べたとおりであるがそれはさて措き、公労法一七条一項の立法趣旨は、議会における政府の提案理由によれば、公共企業体の業務運営に支障を起こすことのなきよう公共の利益を擁護するためと言うものである。

そうだとすれば、公共企業体である故に、即ち、公社或は国営事業であるが故に、民間の企業と異り、民間企業以上にその私的利益を特に保護する趣旨を公労法に見出すことはできないし、かかる特殊な利益をまもらねばならない合理的な根拠もない。また公共企業体等の業務の公共性は、民間の企業の業務の公共性との間に特に差異があるわけでもなし、民間企業の公共性と企業主体との関係にくらべ公共企業体等の場合、業務の公共性とその主体たる公共企業体等との関係が緊密で、不可分な関係にあるという事も考えられない。

(2) 「公共性」と懲戒処分

争議行為によつて「国民生活全体の利益」が害されたということを理由に、使用者たる被告公社が労働者たる原告を懲戒処分にする事が許されるか。

この問題を考えるために、次のことを確認しておく必要がある。

〈1〉 労使は対等である。

〈2〉 対社会的に公共サービス提供の法的責任を負うのは公社である。公社職員は労働契約の内容として公共サービス提供の債務を公社に対して負うものにすぎない。

〈3〉 公共サービス低下の責任を負うのは、その原因をつくつた者である。

(イ) 労働契約の当事者として労使は対等である。対等の労使間において懲戒処分が許されないことについては既に述べた。ここでは「公共性」との関連でそれを述べる。

公労法一七条は労使双方に対して争議行為を禁じている。

すなわち第一項では、労働者及び労働組合に対し、同盟罷業その他の争議行為及びその共謀等を禁じ、第二項で、使用者に対し作業閉鎖を禁じている。この規定が違憲でないとすればその根拠は、第一に、これらの争議行為が「国民生活全体の利益」を害すること、及び労働基本権保障の狙いが労使の実質的対等にある以上、労使に対する争議行為禁止違反の法律効果が平等であること、その意味においても労働者に対する制裁が必要な限度を超えてはならない事に求められなければならない。ところで、公労法によれば一七条一項違反に対する「制裁」として、労働者に対しては一八条の解雇が定められているが、使用者に対しては何の「制裁」も定められていない。これは明白な不平等である。

もつとも、一八条の解雇が労働契約違反を原因とする通常解雇であると解すれば(こう解するのが正しいのであるが)、使用者たる公社が自らを解雇するということは法理上考えられないのであるから、労働者に対してだけ解雇を定めたのは必ずしも不合理とはいえない。しかし、使用者たる公社は、対社会的に公共サービス提供の責任を負うているのであるから、その役員に対してなんらの「制裁」も法的に規定されていないのに、職員=労働者に対してのみ解雇の「制裁」が定められているのは明白な不平等である。まして一八条の解雇を労働契約上の債務不履行に対する通常解雇でなく、懲戒解雇であり、一七条違反の労働者に対しては懲戒解雇をはじめ停職、減給、戒告等の懲戒処分が許されると解するならば、その差別的制裁は、必要な限度を超えた違憲無効のものといわなければならない。

(ロ) 対社会的に公共サービス提供の責任を負うのは公社である。このことは公社サービスの受益者たる国民との関係で、公共サービス提供義務不履行の責任を負うのが公社であつて職員ではない、ということからも明白であろう。職員は、公社との労働契約の内容として公社が対社会的に負うサービス提供の実務を担当するという債務を公社に対して負うているにすぎない。従つて職員が争議行為をした場合、労働契約上の債務不履行の効果として解雇すなわち労働契約の解除をしても不当労働行為にならない、という例外を定めたのが公労法一八条なのである。

使用者が自ら事業所閉鎖をした場合はもちろん、労働者の争議行為によつて「国民生活全体の利益」が害された場合においてもその対社会的な責任は、法的には公社が負うべきものであつて労働者が負うべきものではない。労働者は労働契約上の債務不履行の効果として解雇されることがあるというに止る。

公労法一七条は労働者に対しても、使用者に対しても争議行為を制限している。制限違反に対する「制裁」の定めは不平等であるが、制限そのものは平等である。このことは、労働者のストライキも使用者のロツクアウトも「国民生活全体の利益」を害する原因となる場合があるからであつて、その責任も平等であるとか、ましてその責任は労働者だけが負うべきだということを意味するものではない。原因と責任は別のものであり、ことに対社会的な責任は別個に考えられなければならない。公労法一七条において、使用者たる公社も争議行為の制限を命ずる主体ではなく、命ぜられる客体でしかないということは、法が使用者に対し対等当事者間における労働契約の解除=通常解雇はともかく、制限違反に対する「制裁」として懲戒処分をする権限を認めていないことを示すものである。

(ハ) 争議行為によつて公共サービスの低下を来す結果となつても、その原因をつくつたものが誰かということを抜きにして、その責任を追及さるべき者は誰か、ということを論ずることができない。

問題は争議行為を理由にして使用者が労働者を懲戒しうるか、ということであるから、争議行為の原因をつくつたのが使用者であるのに、その使用者に懲戒権があるということになれば、一般的にも道理に反するばかりでなく、とくに労働基本権については使用者に労働条件を一方的に専決する権利を容認することになつて「経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として」(東京中郵事件判決)憲法で保障されている労働基本権の存在理由を無にすることとなるのである。

本件についていえば、被告公社は本件ストライキの実施によつてはじめて賃上げ額の要求に応じたのである。賃上げ額が労働力の対価として不当に高過ぎたという事実は全くない。妥結額以上の賃上げが正当だつたのである。本件ストライキがなかつたならば被告公社は本件妥結額すら認めなかつたことは明白である。労働者はストライキによつて相当する賃金カツトを受けるのであるから、好んでストライキに訴えるものではない。被告公社が正当以下の賃上げすら応じようとしなかつたために、やむなくストライキを実施したのである。本件ストライキの原因と責任は被告公社にあり、そのために生じた公社サービス低下に対する責任は被告公社が負うべきものである。被告公社が本件ストライキを理由に労働者を懲戒することができるとすれば、第一に、後に述べるように、公共サービス提供の社会的責任を負うものが逆に懲戒の権利を取得するという点において、第二に、公共サービス低下の原因をつくつたものが逆に懲戒の権利を行使するという点において、二重に道理に反する。

(3) 公労法第一八条解雇は懲戒解雇ではない。

公労法第一八条は、同法第一七条違反の争議行為参加者らを企業から排除することを定めているが、右解雇の性格は、職員が第一七条によつて禁止されている行為を行なつたことを事由とする労働契約の解除であつて、いわば、通常解雇である。それゆえ、職員の労働契約上の義務不履行に対して公共企業体等が各公社法等によつて行なう制裁としての懲戒解雇ではない(日鉄法三一条、専売公社法三四条、電電公社法三三条、国公法八二条)。したがつて、解雇にまでいたらなくても、懲戒処分であるかぎり、停職、減給、戒告などを本条を根拠としてすることはできないことはもちろんである。

右公労法第一八条の解雇につき、政府は、昭和三一年の臨時公労法審議会に対し、第一八条について解雇にかぎらず、他の懲戒処分をも許すように改めることについて諮つたが、同年二月八日同審議会は解雇よりも軽い停職、減給、戒告などの懲戒処分をもなしうるようにすることは、第一八条を懲戒規定に変更することになるという理由から、政府の提案を答申から削除した。これは臨時公労法審議会においても公労法第一八条の解雇を通常解雇とし、懲戒解雇でないことを確認したものと言えよう。

(4) 被告公社の就業規則上からも、また公社法の規定からも懲戒処分はできない。

被告公社は、公社法ならびに就業規則を根拠法令とし原告らに対し就業規則の五九条一号、一八号、一九号を適用して処分したと主張するが、右就業規則五九条は就業規則の構成上からも通常の個別的労働関係を予想し、その秩序背反者に対して発動する制裁規定である。

即ち、被告公社の就業規則第六条は「職員は同盟罷業、怠業その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、またはあおつてはならない」と公労法第一七条一項と同旨の定めをし、同条の違反については、第五六条において、「職員は第六条の規定に違反する行為があつたときは公労法第一八条の規定により解雇される」のである。一方原告らに対し適用された就業規則第五九条は、その懲戒処分対象を一号から一九号まで列記しているが、右規定内容は、前記第六条とは性格を異にする個別的な非違行為を掲記しているものと考えられる。

即ち、被告公社の就業規則は、公労法第一七条違反については、就業規則第六条同五六条によつて解雇されることを、そして個別的非違行為について、同就業規則五九条を適用して懲戒処分するとの構成になつているのであり、またそう解釈すべきが、争議行為につき懲戒処分をなし得ないとの法理にもそうのである。就業規則五九条の一号、一八号及び一九号は公労法第一七条違反者に対しても適用されるとの見解は、就業規則第六条の条項を同規則内に入れた意義を無視するものであつて失当であるし、第五九条一九号は公労法第一七条と違い「共謀」を処分事由としていない。即ち共謀を含めないことは同号が団体行動即ち争議行為を除外する規定とみることができる。けだし、「あおり」「そそのかし」と異なり「共謀」は単独では不可能であり、かつ、「共謀」なくして争議行為=団体行為はありえないからである。

さらに、公社法第三六条は「公社の職員の労働関係に関しては公共企業体等労働関係法の定めるところによる」とあつて公共企業体等と職員との労働関係は公労法によつて処理されることとなつている。

ところで公労法は、同法第一七条一項違反の争議行為参加者らに対する効果として同法一八条で解雇を定め、かつ民事上の免責がはたらかないことを規定しているほかに違反者に対する処分条項は存在しない。従つて、必要最小限度の原則からしても、公労法第一七条違反は同法に規定する違反効果に止まるべきと解するのが相当であり、同法に何ら触れていない、効果=不利益を果することは制限違反の効果をみだりに拡張することがあつて許されない。

(5) 以上の次第で、懲戒は公労法一八条にいう「解雇」とは異質でむしろ刑罰に近い苛酷な制裁罰であり、仮に公労法一七条一項が合憲であるとしても、同条違反の争議行為に対して懲戒処分を課するのは、公労法にすら違反し、かつ違法効果の必要最小限原則に反して違憲である。その処分は違憲、違法、無効なものといわなければならない。

五  本件処分は懲戒権の濫用として無効である。

仮りに本件ストが外形上公労法第一七条に違反すると解され、ストライキに参加した原告らはこれを理由として公社法第三三条、就業規則第五九条の懲戒事由に該当するものと形式的に判断されたとしても、なお懲戒権者たる被告がこれらの原告らに対して戒告処分に付したこと及び分会役員であつた原告らに対して、その地位のゆえに、ストライキに参加したと否とにかかわらず、停職及び減給処分に付したことは懲戒権の濫用であつて無効である。

以下にその理由を詳述する。

(一)  本件処分の状況と処分選択の基準

(1) 四・一七ストライキに対して被告が同年五月二九日全電通に加えた懲戒処分は次のとおりである。

停職 減給 戒告

中央本部役員 三

地方本部〃  一二

支部〃    八八 五  六

分会〃    二四 三八 八

一般参加者  一一 二三 一、四一二

(2) 右の処分のうち被告が東海地方本部傘下の組合員に加えた懲戒処分内訳は次のとおりである。

地本現地派遣執行委員      一名   停職一〇月

拠点支部執行委員長       二名   〃一年

〃二役             四名   〃一〇月

拠点支部現地派遣執行委員    三名   〃八月

〃残留執行委員         一名   〃六月

他支部役員(現地派遣)     一六名  〃二月

拠点分会長           二名   〃三月

〃分会二役(副委員長、書記長) 三名   〃一月

〃分会執行委員         七名   減給1/10

一〇月

〃一般組合員          三一八名 戒告

(拠点支部とは愛知県支部と名古屋支部をいう)

(3) 原告ら分会役員及び組合員に対する処分の量定は、その地位に応じて全国で拠点となつた他の四分会、七事業所の分会役員及び組合員のそれと全く同じであつて、いささかの軽重の差はない。

(4) 本件処分選択の基準

右に述べた処分の状況から考えるとストライキに対する処分は被告に於てはその当初から現在に至るまで終始一貫して一般参加者と組合役員とを画然と区別し、組合役員に対しては各機関毎に執行委員長、副委員長と書記長(二役)執行委員の三種に区分し(執行委員のうち拠点局に派遣された者については更に区分することがある)これらの区分に対応して

(a) 下級機関から上級機関にむけて

(b) 執行委員から委員長にむけて

それぞれ順次重い量定の処分に付して行く方針を採つていることは明らかである。

つまり、被告公社はストライキに対する処分を行うにつき、そのいづれに、いかなる量定の(停職か減給か、停職ならば何ケ月とするか)処分に付するかはその組合員がいかなる機関の、右に類別したどの役員の地位にあるかによつて画一的に決定してきたものである。

(二)  本件処分の苛酷性と原告らが蒙る影響

(1) 一般的に懲戒処分はその本質に於て制裁罰であり苛酷性、不合理性をもつている。

(2) 原告らが本件処分によつて蒙る具体的経済的損失は次のとおりであつてその損失は終身に及ぶもので苛酷にすぎる。

本件処分によつて蒙る原告らの具体的経済的損失は単に処分期間内のみならず、退職時迄その影響は継続する。

(イ) 停職処分の場合には、概ね次のような不利益を受ける。

〈1〉 停職期間中基本給等(基本給、基本給加算、無線加算、海事加算、基本給特別加給、採用給特別加給)の三分の一しか支払われない。

〈2〉 右期度中、扶養手当、暫定手当、特殊勤務手当、時間外手当、祝日手当、深夜手当、宿日直手当、呼出手当、寒地手当、特別手当(夏季、年末、年度末、仲裁四四号)の支払が停止される。

〈3〉 定期昇給の減額基準により、停職期間の長さに応じて、次期昇給の額が減じられる。

a 処分一回につき、昇給額を四分の一減じる。右のほかに次の割合が加算される。

b 停職四カ月以下      四分の一

停職四カ月以上七カ月以下 四分の二

停職七カ月以上九カ月以下 四分の三

停職九カ月以上一年まで  四分の四

〈4〉 永年勤続表彰(記念品、旅行)の対象からはずされる。(原告吉沢を例にとれば、別紙計算書の通りの不利益となる。)

(ロ) 減給処分の場合には、概ね次のような不利益となる。

〈1〉 減給処分の期間中、基本給等の一〇分の一以下を減ぜられる。

〈2〉 右期間中に支払われる特別手当(夏季、年末、年度末、仲裁四四号)を減額される。

〈3〉 定期昇給の減額基準により、次期昇給の額が減額される。

減給期間が三カ月以下の処分一回につき 四分の一

減給期間が三カ月をこえる処分一回につき 四分の二

(原告森を例にとれば、別紙計算書のとおりとなる。)

(ハ) 戒告処分の場合には

「文書をもつて責任を確認し、および将来を戒められる」だけでなく、定期昇給の減額基準により、戒告処分一回につき、次期昇給の額を四分の一減額される。以下にその具体例を示す。

(原告吉沢弘志(停職三カ月)の場合)

〈イ〉 昭和四四年四月一日 現在

基本給    四〇、四〇〇円

基本給加算額 一、一〇〇円

暫定手当   一、六〇〇円

扶養手当   一、二〇〇円

合計     四四、三〇〇円

〈ロ〉 昭和四四年五月二九日(処分発令日)より、停職三カ月となり、基本給及び基本給加算額の三分の一しか支払われないので、次の様になる。

基本給

基本給加算額

暫定手当

扶養手当

合計

処分のない場合

四〇、四〇〇

一、一〇〇

一、六〇〇

一、二〇〇

四四、三〇〇

吉沢

一三、四六七

三六七

一三、八三四

1 昭和四四年五月分賃金の損失分 二、四三八円

(44,300×(2/25))-(40,400+1.100)×(1/3)×(2/25)=2,438

2 昭和四四年六月、七月、八月賃金の損失分 九〇、一八三円

(44,300×224/25))-(40,400+1,100)×(1/3)×(224/25)=90,183

3 故に停職期間中の不利益

2,438+90,183=92,621円

〈ハ〉 臨時手当

1 夏季手当(昭和四四年)

基準内賃金(基本給、基本給加算額、暫定手当、扶養手当の合計額をいう)の一・四カ月分が支払われたが、停職のため、

44,200円×1.4=62,020円

が不利益となる。

2 年末手当(昭和四四年)

昭和四四年度年末手当は、基準内賃金の二・五カ月分が支払われたが、停職のため、「昭和四四年度年末特別手当の支払いに関する覚書」により、一〇〇分の一五〇しか支払われないため、次のとおり不利益となる。

(44,300×2.5)-(44,300×(150/100))=44,300

〈ニ〉 昭和四四年の賃上げに伴い、次のように精算されたが、不利益が生じた。なお、原告吉沢は昭和四四年四月一日現在で基本給は、四〇、四〇〇円が四五、一〇〇円に上げられた。(暫定手当は一、六〇〇円が一、二八〇円となる。)

1 基本給の精算では八、五五五円の損失

(48,680-44,300)×31/25-4,700×1/3×31/25=8,555円

2 夏季手当では六、一三二円の損失

4,380×1.4=6,132円

3 精算時の損失は一四、六八七円である。

8,555+6,132=14,687円

〈ホ〉 昭和四五年度賃上げに伴う損失分

1 昭和四五年四月一日昇給で基本給は、四七、二〇〇円となるはずであるが、定期昇給の減額基準により四分の二減ぜられ、四六、一五〇円となる。

2 さらに、賃上げにより基本給は処分なかりせば、五五、〇〇〇円となるが、四分の二減額の関係で、五四、〇〇〇円となる。

(なお、基本給加算額、暫定手当、扶養手当は変わりない。)

3 結果として、毎月一、〇〇〇円の損失が続くことになり、これが夏季、年末各手当及び退職金にもひびいて、損失を招いていく。

55,000-54,000=1,000円

4 昭和四五年四月~九月(六カ月間)の損失分 六、〇〇〇円

1,000×6=6,000円

5 夏季手当(昭和四五年)へのはね返り損失分 一、五〇〇円

(45,000+1,1000+1,200+1,280)×1.4-(44,000+1,100+1,200+1,280)×1.4=1,500円

〈ヘ〉 昭和四四年五月処分発令により、四五年九月三〇日までの損失分の合計は、次のとおりである。

1 停職期間中の損失分  九二、六二一円

2 特別手当関係の損失分 一〇六、三二〇円

62,020+44,300=106,320円

3 昭和四四年精算時の損失分  一四、六八七円

4 昭和四五年度精算時の損失分 七、五〇〇円

6,000+1,500=7,500円

5 総合計 二二一、一二八円

〈ト〉 さらに退職時までの損失を考えると、

1 現在原告は三三才であるから、一応五五才まで今後二二年間勤務すると考え

2 一カ月当り一、〇〇〇円の損失が退職時まで続くのであり、

1,000円×16.8カ月×22年=369,600円

の不利益となる。

(注)昇給間差額一二カ月、夏季手当一・四カ月、仲裁四四号手当〇・三カ月、年末手当二・五カ月、年度末手当〇・六カ月で一六・八カ月である。

〈チ〉 退職金の損失分

1 原告吉沢は、昭和四五年四月一日で勤続一三年で、以後五五才まで勤務することとすると、二二年あり、退職時で三五年勤続である。

2 退職金で損失する額 六五、二三三円

{((150/100)×10+(165/100)×10+(180/100)×10+(165/100)×5)×1,000円}×(97/100)=65,233円

1~10年間   11~20  21~30  31~35(昇給間差額)

3 なお、基本給五五、〇〇〇円で計算した(方法は前記に同じ)退職金総額は三、一六八、九九〇円であり、その内六五、二三三円の不利益をこうむるのである。

4 昇給等を無視した単純計算でも、前項の金額が不利益となるのであり、実際には更に増大すると考えられる。

原告森、小川の場合でも同様である。

〈リ〉 更に、現行賃金が、基本給によつて決定される実体にあるので、毎年の夏季、年末、仲裁四四号、年度末の諸手当にも不利益が生じ、退職金にも影響を与える。また、毎年の賃上げ、昇給を考えると、その不利益は更に増大する。

(原告森健二(減給一〇カ月)の場合)

〈イ〉 昭和四四年四月一日現在

(四四年度賃上げ後の基本給を適用)

基本給 通信職二等級 三四、三〇〇円

〈ロ〉 減給中の不利益について

基本給関係 三四、三〇〇円

34,300×1/10×10カ月=34,300円

〈ハ〉 昭和四五年四月一日(昇給)で、基本給は四二、四〇〇円となるが、減給処分の影響で定期昇給の減額基準により、四一、六〇〇円となり、差八〇〇円が毎月損失し、退職時まで続く。

〈ニ〉 退職時まで、三〇年あるから(原告森は二五才)

800×16.8カ月×30年=403,200円

の損失となり、諸手当のはね返り、昇給等を考えると、この不利益は更に増大する。

〈ホ〉 退職金の損失分

1 原告森は、昭和四五年四月一日で勤続七年で、以後五五才まで勤務することとすると三〇年あり、退職時で三七年勤務である。

2 退職金で損失する額 四七、三六五円

{((150/100)×10+(165/100)×10+(180/100)×10+(165/100)×7)×800}×(97/100)=47,365円

3 なお、基本給四二、四〇〇円で計算した(方法は前記に同じ)退職金総額は二、五一四、八六四円で、その内四七、三六五円の不利益をこうむるのである。

(原告小川巖(戒告)の場合)

〈イ〉 昭和四五年四月一日現在

基本給 三八、四〇〇円(新基本給採用)

〈ロ〉 戒告処分により、定期昇給の減額基準により昇給額の四分の一が損失となるため、毎月四〇〇円の昇給間差額が不利益となり、退職時まで続く。

〈ハ〉 退職時まで三二年間とすると(原告小川は二三才)

400円×16.8カ月×32年=215,040円

の不利益となり、諸手当、退職金へのはね返り、昇給等を考えるとこの不利益は更に増大する。

〈ニ〉 退職金の損失分

1 原告小川は、昭和四五年四月一日で勤続四年であり、以後五五才まで勤務することとすると、三二年あり、退職時で三六年勤続である。

2 退職金で損失する額 二三、〇四七円

{((150/100)×10+(165/100)×10+(180/100)×10+(165/100)×6)×400}×(97/100)=23,047円

3 なお、基本給三八、四〇〇円で計算した(方法は前項と同じ)退職金総額は、二、一一五、五三一円で、その内二三、〇四七円の不利益をこうむるのである。

(3) 右の経済的損失のほかに、原告らが本件処分を受けたという事実そのものが原告らの勤務に関する記録、給与に関する記録に記載され、この記録は原告らが被告職員の地位を去るまで保存されて人事管理の資料とされる。

従つて、昇進は勿論のこと、同一職階であつても事実上上位にランクされる部門への転任等につきマイナス材料として評価の対象とされて重大な不利益を蒙るのである。

(4) わが国公労法適用組合のストライキに対する懲戒処分につきドライヤー委員会は、ILOに対して「特に制裁としての処分により永久的賃金の格差が生じる如き懲戒処分の厳格さ、きびしさをゆるめるべきである」とする旨の報告をなしていること、及びILO理事会で承認された結社の自由委員会第一三二次報告における同旨の日本政府に対する警告(同報告八二項)によつても右の如き影響をもつ本件処分は苛酷に失し法的には権利の濫用と認められる。

(三)  本件ストの国民生活に及ぼした影響の程度

被告はその主張第二項(六)において、本件ストにより被告公社の業務が著しく阻害され、これによつて国民生活に甚大な影響を及ぼした旨主張するので、次のとおり反論する。

(1) 一宮局について

(イ) DSA及び番号案内業務について

(a) DSA業務の代替性

DSA通話のうち利用者がその通話の料金を知りたい場合の利用は日常的には知人とか取引関係などにある者が電話を借りて通話し通話終了後その通話料を支払う場合などが考えられる。

従つて、この際ストライキの実施により一〇〇番が不通であつたとしても通話そのものが不可能となつたわけではない。

便法としてその通話時間を測定しさえすれば、DSA通話によらなくとも電話番号帳の料金表示によつて料金を計算することができるのである。

従つて、この場合利用者に若干の手間をわずらわすこととはなるが完全な代替措置が講じられる訳である。

DSA通話のうち公衆電話の一種である小型赤電話と青電話を利用する場合については先づこの利用者そのものが旅行者、外出者か一宮管内居住者であつて電話未加入者らであり、しかも市外通話をかけることを必要とする者に限定されよう。

従つて、この際にストライキの実施により一〇〇番が不通であつたとしても右の利用者で右(1)の便法をすらとり得ない者は現実的には殆んど皆無といつても過言ではない。

(b) 番号案内業務の代替性

もともと日常電話により通話を交す相手方の電話番号は電話利用者において私設の電話番号帳を作成して備付けていることが常識的である。

まして緊急時に重要な通話を交す必要があると考えられる市外局番に属する相手方の電話番号は殆んどすべて手控えしてある筈である。

仮りに本件スト当時一宮局管内居住者が同局管内の電話加入者の番号を知りたいときは無償配布されて備付けている電話番号帳を見ることによつてこれを容易に知ることができる。

また本件ストは東海五県下で一宮局一局だけのものであつたのであるから仮りに名古屋市内に友人、知人らがいたとすれば、その者に電話してその者から当該局で番号を案内してもらい、それを知らせてもらうという代替方法も採ることができたのである。

(c) 被告は現実に番号案内業務サービスを要求する利用者があつたこと並びにその要求には完全に応え得なかつたことを本件ストの影響として主張するのでこの点につき、次のとおり反論する。

乙第一〇七号証によれば昭和四四年三月の一日平均の取扱件数と本件ストの時間帯に於ける現実の処理件数との比較は被告公社の主張のとおりであることが認められる。

しかしながら被告は、自ら主張するとおりスト当日早朝から一宮市内の市民に対してPR活動を開始し「午前八時三〇分からストライキのため電報電話業務の取り扱いの一部におくれが生じること」並びに「午前一一時頃には正常にもどる見込みである」ことを周知させていたのであるから、一宮市内の市民の右スト時間帯における右両業務の利用は平常時の平均に比して格段の減少をきたしたものであつたことはいうまでもない。

従つて現実に取扱えなかつた件数は、右被告公社の比較件数を遙かに下廻つたものであつたと合理的に推定される。しかも、仮りに或程度の取扱えなかつた件数があつたとしてもその利用者には前述の代替方法を採り得たことでもあり、またそうでなかつたとしてもその利用を午前一一時頃まで待つことによつてその目的を達したことであろうことは容易に推定し得ることでもあつたのであるから、この点についての本件ストの実害は市民にとつて回復しがたいものではなく、比較的軽微であつて許容受忍の範囲内のものであつたというべきである。

なお被告公社は応援管理者らの業務不慣れによる応答時間が長きに亘つたことを重大なサービスの低下として主張するが、これまた僅かな所要時間の経過を内部的な基準で論じるに過ぎず、利用者らは結局は目的を達したものであつて、これ亦許容、受忍の範囲内のものであつたというべきである。

(ロ) 電報業務について

一般的に昭和三〇年代を境として電話の普及をその原因として電報の利用、効用に変化が生じていることはいうまでもない。

それはかつてのきとく、死亡等異常の発生と緊急性を意味したものから慶弔電報に代表される儀礼的確認的なものへという内容的な変化である。

本件スト当時一宮局管内は山間避地を含まぬ電話の普及率は全国平均を遙かに上廻つていたというべきであつたのであるから当然この変化が顕著であつたというべきである。

従つて仮りに本件ストによる電報業務の停滞が被告公社の主張どおりであつたとしても、午後二時過ぎにはすべての停滞は解消したというのであり、しかもそのうち約二〇〇通は全電通労組一宮分会宛のものでスト終了後受了された停滞分に含まれている臨時的なものであつたのであるから、一般市民の利用にかかる電報は午前一一時現在で約一〇〇通程度に過ぎず、しかもそのうち最も停滞したもので一二〇分、最も短い停滞で一分程度のものも含まれていたということである。

従つてこの程度の電報の処理のおくれは未だ国民の生活に重大な支障を与えたとは到底考えられないものというべきである。

(ハ) 保全業務について

(a) 被告主張のケーブル障害はすべてスト前日の夕方からの降雨によつて発生したもので翌日午前八時半までは修理に着手せずに放置していたものである。

ところで一宮局の当時の線路保全、修理業務の約八〇パーセントは民間業者との請負契約に基き請負工事によつて処理されていたのであるから、仮りに右障害修理が緊急且つ重要であつたとすれば発生直後これをなし得た筈であるし、また本件スト時間帯に於ても右業者らをして速やかに、完全に修理し得ていた筈であつた。

そして、右障害一一件のうち三件はスト時間帯に修理を完了し、残りの八件についてはスト終了後午後三時頃には修理を完了したのである。

してみれば、この障害修理に関しては僅か八件だけが本来なら午前中に修理される予定であつたのが約三時間程度おくれて修理されたということに帰する。

(b) 被告は、電話開通工事一四件が当日できなかつた旨主張するが、この工事もまた約八〇パーセントが請負工事によつてまかなわれているので、果して客観的に請負工事能力がなかつたためにできなかつたのか、局側に手配の不備があつてできなかつたのかは明らかではない。

それはさて措き仮りに当日一四件の開通がおくれたとしても、翌日には開通させる能力があり当然開通したものであろうから、これによる開通予定者(一四名以下)の不便は二四時間以内に止つたものというべきである。

(c) 被告はスト時間帯に一一三番で受付けた障害が約一〇〇件に及んだ旨主張するが、右一〇〇件のうち障害の受付けは僅かに局外二件に過ぎずその余の合計九八件に上る受付数は加入者からの問い合せや、障害に関係のない苦情に過ぎなかつたのである。

従つて、被告の右主張は全く理由がないことに帰する。

(ニ) その他の業務

庶務、会計業務についての停滞は、現実には僅かに二時間半の内部業務の停滞に過ぎないのであつて一般市民に対してはいささかの影響もないし、これを回復することは極めて容易である。

窓口業務について右二時間半程度市民に不便をかけたことになるが、もともと一宮局の窓口業務は瞬時の停滞も許されない性格のものではなく、PRや説明によつて利用者らは快くスト終結後に窓口を再訪してくれることが容易に推測できるのであるから、帰するところ市民の生活に影響がなかつたというべきである。

(2) 一宮分室について

一宮分室の無線中継業務については現実になんらの障害は発生せず、且つ発生のおそれすら全くなかつた。

従つて、スト時間帯に於いても無線中継業務はなんら支障なく遂行されていた。

また、設備の保守状態も極めて良好であり、回線も良好に維持されていた。

従つて、被告の主張は唯単にスト参加者が勤務場所にいなかつた状態をさしてこれを非難するに過ぎないものというべきである。

原告らは一宮分室の機械設備並びに回線の特性とその保守管理のあり方システムが長期的、周期的なものであり、従つて長期的に障害の発生を予防することが目的とされて運用されていることを基礎として、本件ストが実施されたとしてもそれを原因としてはなんら障害が発生するおそれがなかつたことを強調するものである。

(3) 両局に共通の危険性について

被告は電信電話及び無線の各装置、施設には異常障害等による危険が潜在しているとし、この危険の存在をストライキ否認の根拠とするもののようである。

しかしながら、右の主張は全く仮定の論議に過ぎず、右の危険とストライキとの間には因果関係を認め得る余地は全くない。

また、全電通労組は、たとえスト実施中であつたとしても仮りに異常障害等の国民生活に重大な影響を与えるおそれのあるような事態が発生したときは直ちにストライキを解除しその復旧に従事する方針を樹てているのである。従つて、この点の被告の主張は全く失当である。

以上のとおりであるから、被告の本件ストライキの影響についての主張は、極めて過大であり、且つ仮定的であるというべきである。原告らとしても電気通信業務が公共性を有することは充分認識しているものであり、本件ストライキにより番号案内等の公共サービスやその他の業務が停滞し、或る程度国民生活に迷惑をかけたことを否定するものではないが、その程度は、被告が主張するような甚大な影響というようなものではない。

(四)  本件ストの目的、態様

(1) 全電通の組織

全電通は、主として日本電信電話公社従業員をもつて組織し、組合員の労働条件の維持改善、電気通信事業の民主化等を主たる目的とする全国単一組織の労働組合である。

全電通には、中央本部、地方本部、支部、分会の組織が置かれ、

イ 中央本部は東京都に置き、中央執行委員会および、事務機関としての書記局と財政局で構成する。

ロ 地方本部は、各電気通信局所在地に置かれ、中央本部に直結して地方的統制をはかる。

ハ 支部は、組合規約で規定された単位毎に置かれ、原則として一府県の組合員をもつて構成し、職場組織である分会を指導統制する。

ニ 分会は支部に直結し、職場活動を推進する。

(議決機関)

イ 全国大会は最高の議決機関で、代議員、役員、地方本部委員長および地方本部書記長で構成し、運動方針、規約、予算、決算、役員の選出など、規約で定められた議決事項を出席代議員の議決によつて決定する。

ロ 中央委員会は、全国大会に次ぐ議決機関で、その議決は、全国大会の責任を負い、中央委員、役員、地方本部委員長および地方本部書記長で構成し、運動方針、役員の補選、労働協約の締結、追加予算等、規約に定められた議決事項を出席、中央委員の議決によつて決定する。

(執行機関)

中央執行委員会は議決機関の決議を執行し、緊急事項を処理し、その執行した一切の業務につき、議決機関に責任を負う。

(各級機関)

地方本部、支部、分会にそれぞれの議決機関および執行機関が置かれる。

結成当時の組織人員は組合員四三、〇〇〇名で、組織可能な電気通信省職員一一五、〇〇〇名の半数に満たなかつたが、その後、組織拡大強化につとめた結果、本件当時は約二四〇、〇〇〇名、ほぼ全員加入の体制を築き上げたものである。

組合の最高の意思決定は、全国大会においてなされ、同大会の議決は、

イ 大会開催日の一ケ月前までに、組合員に告知された議案につき、

ロ 全組合員の直接無記名投票により選出された代議員の、多数決により民主的に

決定される。

(役員の選出および義務)

中央本部および各級機関の役員は、それぞれ対応する大会で選出され、その業務に専念する義務を負う。

(組合の指令、指示権)

指令指示権は、組合運営のための基本機能のひとつであり、単一組織の最高機関である全国大会、あるいは中央委員会の決定にもとずく業務執行のために、中央執行委員会に与えられた権能であり、各級機関および組合員はこれに従う義務を負うものであり、具体的には指令指示として発動される。

指令指示権は、中央委員会がもつが、権限の一部を地方執行委員会および支部執行委員会に委譲することができる。

イ 実力闘争戦術をする場合は「指令」による。

ロ 指令実施にあたつての具体的行動および指令に定める以外の行動は「指示」による。

(組合員の権利および義務)

組合員は、規約第三七条に規定する諸権利を有するとともに、綱領、規約、決議に従うべき義務を負い、義務に違反すると「警告」より「除名」に至るまでの制裁を課せられる。

(2) 昭和四四年春闘の経緯

(全電通中央における交渉の経過)

全電通は、昭和四三年八月金沢市において第二一回全国大会を開催し、大幅賃上げを始めとする諸要求の大綱を決定した。

人事院は、昭和四三年八月一六日、「本年五月一日以降、国家公務員の賃金を平均八・〇%引上げる」ことを主な内容とする勧告をおこなつたが、その直後全電通は、最低人事院勧告に見合うべき賃金引上げのための必要な措置をとるよう公社に対し、八月二四日申入をおこなつた。

全国大会の決定を受け、昭和四四年二月二六日から二八日伊東市において開かれた第五三回中央委員会は消費者物価の相次ぐ上昇、社会保障全体の劣悪化、低所得者層に対する重税等に伴う実質賃金の切下げから生活を守るため、大幅賃上げの具体的要求を決定し、さらに三月五日「昭和四四年一月一日以降全組合員の基本給を一律一二、〇〇〇円引上げる」ことを中心とする要求書を被告公社に提出した。

公社は、三月一五日第一次回答をおこなつたが、賃金関係諸要求については、「民間賃金の動向をみきわめたうえで回答」するという、全くのゼロ回答であつた。

さらに、新賃金要求について、三月一八日、二〇日、交渉を重ね、四月四日、全電通は「新賃金要求について」を提出、その要求根拠を明確にした。

昭和三九年春闘における「太田、池田会談」の確認事項である「公企体と民間の賃金格差はうめるべきである」という結論にもかかわらず、四月九日、一〇日の中央団交でも進展せず、四月一五日、一六日の中央団交でも、公社側は、「消費者物価上昇率、経済成長率は、事実関係としては認めるが、それは直ちに賃上げに結びつかない」「民間賃金の動向は流動的だ」などと称して、従来の態度から一歩も前進せず、

「組合は現時点においても賃金要求一二、〇〇〇円を再検討する余地はないか」

などと情勢打開の努力は少しもみられない、不誠意な態度に終始した。

四・一七ストを目前にした四月一六日の徹宵交渉において、公社側は「民間支援ストを構えているのは遺憾だ」と発言、副総裁が陳謝する一幕もあつたが、最終的回答として、「現在民間賃金の動向は流動的で、全体としてまだ把握できる段階になつていないが、おおむね五%を下らないと推測される。従つて公社としてもその方向で検討してみたい。」との態度表明があつたが、組合側は、「内容の明らかでない抽象的なものでは話にならない」と指摘し、激論となり、最終的に公社側は、組合の要求の切実さを理解せず、みずからの責任と自主性を放棄するに至つた。

(全電通の闘争の状況)

全電通は新賃金要求書を提出後三月一二日指示三号を発出し、「三月一七日以降全職場で底辺行動を展開すること」を指示し、組合の春闘を闘う態勢の確立をおこなつた。

さらに春闘諸要求の前進を図るため、三月一九日指令四号を発出し、「三月二五日以降全国一斉時間外労働拒否に突入できる態勢を確立し、且つ各地方組織はてつていした大衆行動を実施すること」等を指令した。

指令四号発出以後、中央交渉は、前進せず、三月二四日、指令五号を発出し、「三月二五日以降全国一斉時間外労働拒否闘争に突入すること」を指令し、事態の打開を図つた。

全電通は「自主交渉強化、調停決着」のもとに中央団交に鋭意努力をかたむけていたが、いかなる情勢にも即応できる態勢の確立のため、三月三一日指示四号を発出し、「ストライキ批准投票を四月四日以降一〇日までに実施し、ストライキ体制をすみやかに確立すること」を指示し、スト批准は八三・一%の高率をもつて成功した。

さらに、四月一五日指令六号を発出し、全組合員の総意を結集し、次のごとくスト突入を指令した。

「一、四月一七日、別途指定する職場は始業時から午前一一時までストライキに突入すること」

「二、前一項に該当する各地方組織の非専従役員は本指令によるストライキの実施およびこれに関連する事項についての執行は一切停止する」

組合側の徹宵体制をひいた努力にもかかわらず、中央交渉は、物別れとなり、四月一七日、公労協、交運共闘と統一し、整然とストライキに突入した。突入組合員は一、五六七名で、脱落者は一二名にすぎず、組合員一丸となつて闘つた。

(公社側の不当な闘争への干渉)

公社は、指示四号(スト一票投票)発出及び、指令六号(スト突入)に対し、二回にわたり「警告書」を全電通本部に手交したと称し、闘争へ不当に干渉した。

全電通はこれに対し四月二日、公社に対し「申入書」を手交し、「賃上げ交渉について自主性をもち得ず、ゼロ乃至は低額回答に終始」していることに闘争の原因があるのであり、「具体的回答を行なうなど団体交渉に誠意をもつて臨む」よう要請するなど強く公社に反省を促し、賃金交渉に、自主能力をもたず、いわば弾圧だけに自主能力を発揮する公社を追及した。

(四・一七スト後の賃金闘争の経過)

1 四・一七ストライキ後も公社は反省の色なく、四月一八日中央交渉において「さらに民間賃金の動向をみきわめたい」と答え、前進せず、組合側はやむを得ず公社側に対し、四月二一日調停申請をする旨通告し、同日公労委に調停申請をおこなつた。

2 公労委では四月二二日第一回事情聴取がおこなわれ、その後全電通も参加し、四月二八日、公労協各組合委員長による労働大臣会見、四月三〇日、同じく、大蔵大臣会見等をおこない、本春闘の解決のため努力を行い、四月三〇日の第二回事情聴取の後、五月一日、全電通は酒井委員長、片山副委員長が公社副総裁と会見し、公社に対し前向きに努力するよう申入をおこなつた。

3 この間全電通は四月二八日指令七号、四月三〇日、指令八号を発出し、五月二日のスト態勢を確立した。

4 五月二日早朝、公労委で「八%プラス一、〇〇〇円」の調停委員長見解が掲示され、全電通は「不満であるがストは収拾する」こととし、五月二日指令九号、五月六日指令一〇号を発出した。

5 五月二日、仲裁に移行した賃金紛争は、五月一四日、仲裁裁定(八%プラス一、〇〇〇円、全電通の場合、定昇込みで平均六、〇五二円)が提示され一応の解決をみるにいたつた。

(3) 右に述べた昭和四四年春闘の経緯からすると次のことが明らかである。先づ春闘の目的は賃上げ要求を主体とする諸要求の獲得であつてまさに正当である。

この要求に関する団体交渉は三月一五日の被告第一次回答(ゼロ回答)ののち四月一六日まで数回に及んだが被告側の不誠意によりなんら前進せず、本件ストをひかえた四月一六日から一七日未明の団体交渉においてようやく抽象的な五パーセント程度の賃上げ回答に止まるという状態であつた。

公社のこのような態度こそすでに述べた当事者能力の欠除、団体交渉の形骸化、政府の労働政策への従属等としてみずからの責任と自主性を放棄するものとして強く非難されるべきである。

全電通は他の公労協組合にさきがけて昭和三九年から自主交渉、自主決着をかかげ団体交渉の充実を図つてきたことにかんがみ被告の右の如き態度は団体交渉を否定するものとして最早ストライキを回避することはできないと判断せざるを得なかつたものである。

四・一七ストは四月四日から四月一〇日までの間に行われたストライキ批准投票(一票投票)により八三・一パーセントの高率で確認されたものでこの事実は被告側の不当な干渉にもかかわらず組合員全体がいかに闘争をささえ且つその為にストライキを実施することがいかに必要であり、組合にとつて正当であり極めて重要な意義をもつものであることを確信していたことを実証するものである。

さらに四・一七ストはストライキ当日のしかもほぼ直前に全国で五拠点(分会)八事業所がその拠点事業所の組合員や役員が事前に全く知らされることなく派遣された中央闘争委員によつて指定されたにもかかわらず整然と実施されたという特徴をもつものである。

このことは全国の全分会はすべて拠点指定を受ければ直ちに分会組合員はストライキが実施できるという自信ある態勢にあつたことを実証するものである。

また一宮局及び一宮分室の組合員の本件ストライキは右全国的ストライキの東海地本管内唯一の拠点局としてストライキを実施したものであるが、分会役員らは四月一七日午前四時五〇分頃指令六号が発出されて分会に伝達されて始めて拠点指定を知つたのであり、同時に分会役員としての業務は一切執行を停止され局内にいた役員は局外へ出て、局外にいた役員は一般組合員と同じ立場で一宮市での組合員集会に参加し勤務予定者にあつては始業時から午前一一時までの間、ストライキに参加したものであつてこの間なんら非難される個別、具体的な行為は一切なかつたものである。

従つて、右時刻以後同局に於て動員者らがなにをなし、同局が如何なる状態にあつたか応援管理者らがどうであつたか、ピケがあつたかなかつたか等については一切知らない状態で終始したものであつてストライキ終了と共に同局に帰着したものである。

(五)  ストライキに対する被告の懲戒処分の動向

(1) 昭和四六年までの間に実施されたストに対する処分についてみると、先づストが実施されてから処分の発令されるまでの期間が極めて短いことが特徴的である。

次に処分の内容量定が一般参加者を含め極めて苛酷であつたことが認められる。

このことは処分がまさにストライキに対する報復と共に見せしめ威嚇としての性格が強かつたこと意味するものと考えられる。

(2) 昭和四七年の処分についてみると同年春闘における三回のストライキ(半日を含む)と年末闘争時の一回のストライキについて併せて昭和四八年一月二九日に処分が発令されていることは特徴的である。

また、この処分はそれ以前のストライキ一回毎になされたそれと比較すれば質的には変りはなく苛酷性をもつてはいるが全体的な量定としては一つの画期的な軽減化への方向を示したものと評価される。

(3) 昭和四八年春闘に於ける四回に及ぶ長時間のストライキに対して一括して同年一二月一四日発令された処分は所謂処分の大幅段落しと云われる特徴をもつものであるが、その処分の内容に於いて拠点分会役員に対する停職処分は皆無となり分会の一般参加者は全て訓告に止ることとなつた。

(4) 昭和四八年年末闘争に於ける三回の、同四九年度における四回の、同五〇年五月に於ける九六時間に及ぶ各ストライキに対して一括して同五〇年六月四日発令された処分は、拠点分会に対しては分会役員に対する減給処分も皆無となり、すべて訓告に止まり分会の一般参加者はすべて文書注意(懲戒処分ではない)に止まることとなつた。

その後の所謂スト権や昭和五一年以降のストライキについてもこの処分の量定の傾向はより軽減される方向で継続されている。

(六)  分会役員であつた原告らに対する本件処分権の濫用について

(1) 本件ストが組合民主主義に基づく組合活動として第二一回全国大会で賃上げを始めとする諸要求の大綱を決定し、第五三回中央委員会で昭和四四年春闘における具体的決定を要求して要求書を提出し、団体交渉を開始し、四月上旬組合員全員の一票投票によつてストライキ実施につき組合としての意思確定をなし、その規模、内容等の戦術は全国戦術会議に一任され全国すべての分会は中央本部の指令によつて拠点に指定された場合直ちにストライキを実施できる態勢を整えていたものであつたことは先に述べたとおりである。

(2) ところで被告は分会役員であつた原告らがストライキを指導したと主張し、その指導行為をしたことは執行委員会、職場大会の開催、印刷物の作成配布行為、及び拠点指定をうけた後に現実にストライキが行なわれたことによつて明らかであるという。

この主張によればあたかも右原告らの右行為がなかつたならば分会の一般組合員は「そそのかし、若くはあおられる」ことなく拠点指定をうけてもストライキが行なわれなかつたという関係に立つものと理解しているかの如くである。

しかしながらそうではないことは本件ストライキの経過実態にてらして明らかである。

全電通組合の全国各分会の組合員は右全国大会及び中央委員会の決定によりストライキの実施はすでに組合意思として確立されていたものであり、一票投票はこの意思の確認的意味をもつものであり創設的意味をもつものではない。

従つて、被告が主張するような右原告らが右の具体的な行為をなす以前に於て一宮局及び分室の組合員はいうに及ばず、全国の全組合員は組合民主主義のもとでストライキを実施することが確定されていたものであつたというべきであるから、原告らが分会役員としてスト実施意思をあおり、そそのかすが如き必要すらなかつたというべきである。

(3) また被告が指導行為であると主張する行為についての個別的具体的主張は極めて不十分であるが、それはさておき、仮りに被告主張の行為を具体的に実行していたとしても、それらの行為は分会役員として上級機関の決定した事項を組合員に伝達することを主たる目的とするものであつて、一宮分会の組合員をして同分会としてのストライキを構築させ、実行させる為の原動力的役割を独自で果し得る筈がない。

本件ストライキも中央本部の指導と指示により全国的全組合的な規模で決定され、企画されて、始めてなし得ることである。

また本件ストに関するこれらの具体的企画や戦術は中央本部役員、地方本部役員を構成員とする戦術会議や中央闘争本部の指令、指示に基いて実施されるものであつて、これらに分会役員は参加するものでもない。

さらにまた、本件スト実施=拠点指定は中央本部の指令のみによりなされ、分会組合員は勿論分会役員においても指令の伝達を受けるまで全く知らされなかつた。

従つて、全国の全分会の役員は、右のスト指令を受けるまでは、いずれも同じ立場で同じ組合活動に従事していたのである。

してみれば、原告ら役員は、分会組合員と共同意思の下で拠点指定を受けたときは無用の混乱を生じることなくストライキが整然と実施されるに必要な末端組織としての団体的責務を果したに止まるものであつた。

(4) このような分会役員としての本件スト前の行動につき、敢て一般組合員と区別して、しかも、役員をさらに執行委員と二役と分会長という三つの区分けをなした上で、減給と停職一ケ月と同三ケ月という差別量定を選択適用したことは、被告が当時強く抱いていたストライキ憎悪観と組合敵視意思に基づく恣意的な報復である。

従つてこの意味に於ても合理性を欠き明らかに懲戒権の行使につき濫用があつたものというべきである。

六  本件処分の無効のまとめ

これを要するに、公労法一七条一項は違憲無効であるから、原告らの所為が同条に違反していることを前提としてなされた本件処分は処分事由を欠き無効であるのみならず、労組法七条一号三号に該当する不当労働行為としても無効である。

仮りに公労法一七条一項が合憲、有効であるとしても、同条違反の争議行為に対し懲戒処分をすることは許されないから本件処分は、処分事由を欠き無効である。

仮りに懲戒処分をなすことが許されるとしても、本件処分は、本件ストの目的の正当性、国民生活に及ぼした影響の軽微であること、右処分によつて受ける原告らの経済上身分上の影響が大であること、その後の処分の軽減化の傾向等に照らすと、重きに過ぎ、懲戒権の濫用として無効である。

第五証拠〈省略〉

理由

一  原告ら主張第一ないし第三項の事実及び四・一七ストには、一宮局及び一宮分室のスト(本件スト)を含むことは当事者間に争いがない。

二  (一) つぎに成立に争いない甲第四〇号証の一ないし一〇によれば、原告らに交付された本件処分辞令書に記載されている処分理由は次のとおりであることが認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

原告長瀬、一宮分会書記長として一宮局における違法な本件ストを指導し、かつ実行し、公社業務に支障を生ぜしめた。右は、就業規則五九条一号、一八号、一九号に該当し、公社職員としてはなはだ不都合であるので公社法三三条を適用。

原告井上、一宮分会執行委員として、以下同文。

原告森、一宮分会執行委員として、以下同文。

原告岡田、同小川、同鈴木、一宮局における違法な本件ストに際し就労すべきにもかかわらず、就労しなかつた。右は就労規則五九条一号、一八号、一九号に該当し、公社職員としてはなはだ不都合であるので公社法三三条を適用。

原告吉沢、一宮中統無中分会長として一宮分室における違法な本件ストを指導又は実行し、公社業務に支障を生ぜしめた。右は就業規則五九条一号、一八号、一九号に該当し、公社職員としてはなはだ不都合であるので公社法三三条適用。

原告池森、一宮中統無中分会書記長として、以下同文。

原告北村、同吉川、一宮中統無中分会執行委員として、以下同文。

なお、成立に争いのない乙第八号証によれば、就業規則一条、四条ないし六条、五九条ないし六四条は別紙その一のとおりであることが認められ、当時の公社法三三条、三四条は、別紙その二のとおりである。

(二) 右事実によれば、本件処分は、一宮分会の役員である原告長瀬、同井上、同森に対しては、本件ストの指導責任及び実行責任を、一宮中統無中分会の役員である原告吉沢、同池森、同北村、同吉川に対しては、本件ストの指導責任又は実行責任を、原告岡田、同小川、同鈴木に対しては、本件ストのいわゆる単純参加者としての責任をそれぞれ問責したものであることは明らかであり、また前記適用された公社法、就業規則の規定に照らすと、原告らに対しては、就業規則五九条一号、一八号、一九号該当を理由に公社法三三条が適用されており、就業規則五九条一号は、「公社法または公社の業務上の規程に違反したとき」という抽象的包括的な規定であり、「公社法三三条一項一号と同旨であること、同規則六条は、公労法一七条一項と同旨の規定であること、同規則五条一号は無断職場放棄の禁止を含み、同五九条一九号は、右六条と同趣旨の規定であることが認められるところからすれば、結局本件処分は、公労法一七条一項、これと同旨の就業規則六条該当を骨子として、公社法三三条一項一号を適用してなされたものであることは明らかであるから右のように被告公社職員に適用された公労法一七条一項の合憲性についての判断が先決問題となる。

三  被告公社職員に対する関係における公労法一七条一項の合憲性

当裁判所は、被告公社職員に対する関係において公労法一七条一項は合憲と解するがその理由は次のとおりである。

(一)  三公社五現業の争議権に関する立法の推移

旧労組法(昭和二〇年法五一号、昭和二一年三月施行)は、公務員を一般私企業と同様に扱いスト規制の法制はとられていなかつたが、昭和二一年一〇月一三日施行の労働関係調整法三八条において、警察、消防、監獄勤務者及び非現業公務員につき争議行為を禁止するに至つた。

ついで、マ書簡に基づく昭和二三年七月施行の政令二〇一号は、現業公務員を含むすべての公務員の争議行為を禁止し、同年一二月三日改正施行の国公法九八条五項、一一〇条一七号(昭和四〇年法六九号による改正後は九八条二項、一一〇条一項一七号)は、すべての一般職国家公務員の争議行為を禁止し、その遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又は企てた者につき三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処する旨規定するに至つた。

公共企業体職員や現業の公務員については、昭和二四年六月一日施行の公共企業体等労働関係法が、国鉄及び専売公社の職員の争議行為を禁止したが、その禁止違反に対する刑事罰は設けられていなかつた。ついで昭和二七年七月三一日の改正により現行公労法となり、従来国公法の適用を受けていた五現業の職員についても適用されることになり、三公社、五現業の争議行為を禁止するに至つたが、右違反についての刑事罰の規定は存しない。

(二)  公労法からの考察

同法は、職員に対し、労働組合の結成を認め(四条一項)、多くの労組法の規定を適用することを定め(三条一項)、賃金その他の給与に関する事項を含めて広範囲に亘る事項について団体交渉を認め(八条)、使用者による団体交渉の拒否を不当労働行為とすることによる実効性確保の手段を定め(二五条の五)、労働協約の締結を原則として認め(三条)、予算上、資金上の支出にかかわる事項についても、国会の承認を条件としながらも労使間協定の自主的締結を認め(一六条)ている。また、いわゆる代償措置として、当局と職員との間の紛争につき、あつせん、調停及び仲裁を行なうため公共企業体労働委員会を設け、三五条本文において「委員会の裁定に対しては、当事者は、双方共に最終決定としてこれに服従しなければならず、また政府は、当該裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない」と定めている(この仲裁裁定の実施については国会の承認を要することは、一六条の定めによる)。

この、あつせん、調停、仲裁制度の外に、国家公務員における人事院的制度(人事院は、公務員の給与、その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会及び内閣に対し、勧告または報告することを義務づけられている)は存在しないけれども、前記あつせん、調停、仲裁制度は、職員に対する適正な給与保障のための制度であることは明らかである。

(三)  被告公社法からの考察

公社法は、職員は、法定の事由なしに降職、免職、休職されない旨の身分保障を受け(三一、三二条)、その給与は、国家公務員及び民間事業の従業員の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされ(三〇条二項)、いわゆる給与準則制度が存し、右給与準則は、これに基づく一事業年度の支出が、国会の議決を経た当該事業年度の予算の中で定められた給与総額をこえてはならないと定められているが(七二条一項)、その例外として、予定外収入の増加ないし予定外経費の節減の場合と、仲裁裁定の場合を規定し(七二条二項)、公労法上の仲裁裁定による職員の適正な給与の保障を予定している。

(四)  被告公社の業務の公益性、公共性

被告公社は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し、並びに、電気通信による国民の利便を確保することにより、公共の福祉を増進することを目的として設立された公法人たる公共企業体であり(公社法一条、二条)、その資本金は全額政府の出資とされ(五条)、郵政大臣の監督を受け(七五条)、その業務の運営は、内閣が任命する経営委員を以つて構成する経営委員会の指導統制に服し(九条以下)、その予算について、郵政大臣、大蔵大臣の検討、査定の下に国会の議決を必要とし(四一条、四八条)、公衆電気通信サービスの料金額の決定は、法律により定められ、あるいは、郵政大臣の認可を要するものとされている(公衆電気通信法六八条)。

そして、被告公社の事業目的である公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務は、被告主張のとおりの各種の電気通信設備により提供されるのであり、しかもこれら設備は全国に亘つて有機的に設置され、いわゆる公衆電気通信網を構成し、その公益性、公共性、社会性が著しく高度であることは、成立に争いのない乙第二一六号証の二、第二一七号証の五、六、一六、一七の一、二、第二一八号証ないし第二二〇号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる第二一七号証の二五、及び証人升家俊一郎の証言により明らかである。

(五)  以上の公労法、公社法、及び被告公社の事業の高度な公益性、公共性等を併せ考えるに、被告公社職員は、他の公社、五現業職員と同様に、憲法二八条にいう勤労者である以上、同条の保障する労働基本権の保障を受けることは当然であるが、同条の保障する労働基本権は、何らの制約も許されない絶対的なものではなく、おのずから国民全体の共同利益保障の見地からする制約を内在的制約として当然に内包していると解されるところ、私企業の労働者と異り、被告公社の職務の高度の公共性(被告公社の前記の業務内容にかんがみ、職員が争議行為に及ぶことは、多かれ、少かれ業務の停廃をもたらし、その停廃は、国民全体の共同の利益に重要な影響を及ぼすか、又はそのおそれが大である)、社会経済的関係における地位の特殊性(使用者である公社当局側にロツクアウト等の対抗手段がなく、また、市場の抑制力が働かないため、職員の争議行為は、一方的に強力な圧力となる)、憲法上の地位の特殊性(被告公社職員は、国の全額出資にかかる公法人に勤務する者として、給与その他の勤務条件が国会の制定した法律予算により国会の議決によつて定められる非現業の国家公務員と基本的には同一の地位にあるから、もし、被告公社職員が、公社当局に認められた予算の範囲をこえる賃金改定等の要求実現のために争議行為に及ぶときは、国会の正常な議決が歪められるおそれが大である)等の見地から、国民全体の共同利益擁護のため、被告公社職員の労働基本権中争議権に対し、十分な代償措置を講ずることを条件として、これを一律に禁止し、かつ、争議行為の共謀、そそのかし、あおり行為を禁止することは、合理的理由に基づく必要やむを得ない措置というべきである。

ところで、被告公社職員は、前記のとおり、公社法上法定の事由なしに降職、免職、休職されない旨の身分保障を受け、公労法上組合の結成、これへの加入の自由が保障され、広範囲の事項について団体交渉権が認められ、団体交渉の拒否を不当労働行為とすることによる実効性確保の手段も定められ、労働協約締結権も条件つきながら認められているのであり、これに加えて、前記仲裁裁定制度が設けられていることを考え併せると、被告公社職員は、労働基本権中争議権制限の代償として制度上整備された関連措置による保障を受けているものというべきである。

以上の諸点から考えると、被告公社職員に対する関係において、争議行為の禁止、該行為の共謀、そそのかし、あおり行為を禁止した公労法一七条一項は合憲と解する(最高裁昭和四一・一〇・二六判決、同五二・五・四判決等参照、これら判決は、いずれも民事責任を伴う争議行為禁止が合憲であることに関しては軌を一にしている)。

もつとも、三公社、五現業の業務の規模内容のいかん、ないしその争議行為自体の規模、程度のいかんにより、国民、生活に及ぼす影響の度合は一律ではないことは明らかであり、公労法一七条一項の一律禁止規定を、この点から制限的に解釈すべく(限定解釈説)、或いは、具体的場合における適用を場合により憲法違反として拒否すべし(適用違憲説)との論が存するけれども、前者は、法文の合理的解釈の限界をこえるもの、後者は、判断基準の明確性を欠くものとの批判を免れず、当裁判所は採用できない。

以上の説示に反する原告らの主張は採用できない。

(六)  ILO条約等との関係

成立に争いのない甲第五四号証、証人中山和久の証言によれば、我が国が昭和四一年四月に批准し、同年六月に発効したILO八七号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)にはスト権の保障についての規定は存しないこと、(これより先昭和二八年に批准し翌二九年に発効した九八号条約にもスト権の保障についての規定は存しない)右八七号条約の批准に伴う国内法の改正に関し、昭和四一年一月ごろ発表された、日本における公共部門に雇用される者に関する結社の自由実情調査調停委員会報告書(いわゆるドライヤー報告)中には「ストが国民生活に重大な障害を与える経済分野においては、十分な代償的手段が、満足に機能することを条件としてストを禁止することができるが、すべての公共企業体、国有事業のうち比較的重要でないものについて、ストを禁止することは、公共の利益の要求するところではなく、公共部門のストを一律に禁止する政策は批判さるべきである」と述べられており、またILO理事会の結社の自由委員会の基本原則として「公共企業のスト制限については、その業務の中断が公共の困難を惹起する程度によつて区別さるべきである」旨が述べられていること、以上の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

右事実からすれば、前記ILO各条約にはスト権の保障規定は存しないのであり、またスト権の一律禁止政策を批判するドライヤー報告は立法論としては十分検討に価するとしても、右報告が現行法である公労法一七条一項の合憲性の判断に直接消長を及ぼすとは解し難い。

なお前掲甲第五四号証、成立に争いのない第五一号証、第五二号証、第五三号証の一、二、第五五号証、第五六号証、第六五号証、第六六号証、証人及川一夫、同中山和久の各証言によれば、ILO結社の自由委員会一三二次報告(昭和四七年)、同一三九次報告(昭和四八年)が原告ら主張組合の共同提訴にかかる案件に関してなされたものであること、その結論内容が原告ら主張のとおりであること、右各報告が、原告ら主張の日ころILO理事会で採択されたこと及び、原告ら主張の第一回公務合同委員会、公務専門家会議の結論内容が原告ら主張のとおりであること、以上の事実が認められるけれども、これら報告等が現行法である公労法一七条一項の合憲性の判断に直接消長を及ぼさないことは、前記ドライヤー報告と同様である。

四  公労法一七条一項違反の争議行為と懲戒処分

一般に違法ストは、正当な争議行為に与えられる労組法上の免責から除外され、それが団体行動としてなされたものであつても、その行為は、団体行為性と個人行為性の二面をもつものとして評価されるから、違法ストについては、組合が団体として責任を負うのとは別に、個々の組合員も個人行為性の側面から、民事上の責任を負うはもとより、経営規範上の違法評価の対象となり、懲戒責任を免れないと解される。

これを被告公社における公労法一七条一項違反のストについてみるに、公労法は、職員の争議行為につき民事免責に関する労組法八条の適用を除外している(三条)ほか、一八条において、公労法一七条一項違反の争議行為をした職員は解雇されるものとしている。

右一八条による解雇は、公社法による身分保障の例外として、特に被告公社に認められたものであり公社法に規定する懲戒処分としての免職とは別個のいわゆる普通解雇の性質を有するものと解されるが、実質的にみれば、一七条一項違反に対する制裁規定であることは明らかであるから、一八条の解雇規定の存することを理由に公労法が被告公社の懲戒権を否定したものと解することはできない。

そして、前記のとおり公社法三四条は、「〈1〉職員は、その職務を遂行するについて誠実に法令及び公社が定める業務上の規定に従わなければならない。〈2〉職員は全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」と規定し、就業規則四条は、服務の根本基準として「〈1〉職員は、その職務を遂行するにあたつては、公社が行なう公衆電気通信事業を合理的かつ能率的に運営し、国民の利益を確保することによつて公共の福祉を増進することを常に念頭に置き、所属長の命令に服し、誠実に法令、規程及び通達に従わなければならない。〈2〉職員は全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」と規定し、国家公務員に準じ、法令遵守義務と職務専念義務を明確にしているところからすれば、公労法一七条一項違反の争議行為は、私企業における平和義務違反のストとは、本質的に異なり、単なる労使間における債務不履行と目することはできず、これに参加した個々の組合員の行為ないし、ストを指導した組合役員の行為は公社法、就業規則上の法令遵守義務ないし職務専念義務違反の面から、違法評価の対象となるから、これらの者に対し、懲戒処分を行なうことは、もとより許されるところである(最高裁第三小法廷昭和五三年七月一八日判決参照)。

これを要するに、被告公社が、スト参加の組合員ないしストを指導した組合役員につき公労法一八条による解雇をなすか、公社法、就業規則により懲戒処分をなすかは、被告公社の裁量に委ねられていると解される。

これに反する、原告らの主張は採用できない。

五  本件処分理由の正当性の存否

(一)  一宮局及び一宮分室の機構及び業務の概要

一宮局及び一宮分室の当時の機構及び業務内容が被告主張第二項(三)(8)のとおりであつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一五号証、第二〇号証の一、二、第二一号証ないし第二八号証、第二一八号証ないし第二二四号証、証人竹中孝雄の証言、右証言により成立を認めうる乙第一六号証、証人梅村基憲の証言、右証言により成立を認めうる乙第一七、第一八号証、証人中山幸之助の証言、右証言により成立を認めうる乙第三〇号証、証人升家俊一郎、同沢田慶弘、同清水公夫、同近沢富雄の各証言、原告本人吉沢弘志尋問の結果によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(1)  一宮局は、東海電気通信局愛知電気通信部所属の現場機関であり、同通信局管内では、岐阜、静岡の各局と並ぶ大局に属し、本件スト当時の総職員数は六六八名(業務部九九名、運用部二一五名、第一施設部一〇二名、第二施設部一〇一名)であつた。

(イ) 運用部第一、第二電話運用課は、一〇〇番(DSA)、申込即時一〇六番(ダイヤル市外通話のできない地域からの市外通話)の手動交換及び一〇四番(市内)一〇五番(市外)の番号案内業務(一宮市内のみでなく、一宮市周辺地域をも含む)を、同部の自動運用課は市内市外通話のそ通状況の調査等を、同部の電話監査課は、通話完了率の調査等をなし、昭和四三年度における一日平均の手動交換扱い件数は、一〇〇番(DSA)八一七六件、一〇六番(待時)二五八件、番号案内七三四四件に達している(市内ダイヤル化率は一〇〇%)。なお手動交換業務の繁忙時間帯は、平均して午前九時から一〇時まで、午後八時から九時までとされている。

(ロ) 業務部電報課は、電報申込の受付、送受信及び配達の各業務(一宮市内のみでなく同市周辺地域の電報取扱局の中継を含む)をなし、昭和四三年度の年間取扱通数は四一万五三三八通、一カ月平均にして、発信通数一万三〇八五通、着信通数八八九一通、中継信通数一万二四六八通合計三万四四四四通となつている。

同部の第一、第二電話営業課、料金計算課は、営業サービスを業としている。

(ハ) 第一、第二施設部は、電気通信施設の保守及び建設を業務としており、第一施設部第一線路宅内課は、電話線路の障害修理等を、同部第二線路宅内課は、新設電話工事ないし電話移転工事等を、同部市外線路課は、一宮局の市外ケーブル(名古屋から大阪方面に行く同軸ケーブル約五〇〇〇回線を束にしたものなどを含む)の保守、巡回等を、同部増設電話課は、一宮局管内の官公署、会社内にある交換機の保守、巡回、増設等をなしている。

第一施設部所管にかかる電話線路の昭和四三年度における障害件数は、市内線路で七五一二件で、障害の原因は、設備劣化、自然腐食、雷電等であり、昭和四三年三月一五日午後七時ごろに火災による類焼のための異常障害の状況は被告主張のとおりである。

(ニ) 第二施設部第一、第二機械課は、市内交換機(市内通話の接続を行う機械で、A型とその改良型がある)の保全作業(点検、監視、定期試験、障害修理等)を、市外機械課は、市外交換機(市外通話の接続を行う機械)及び手動交換機(いわゆる交換台)の保守作業を、試験課は、一一三番の障害申告の受付、試験を、電力課は、各通話に必要な電力を供給する機械設備の保全作業をなしている。

昭和四三年度における第二施設部所管の交換機関係の障害発生件数は、一五九一件であり、同年度における同部所管の電力関係の機械障害発生件数は六九件であり、これら障害の発生原因は被告主張のとおりである。

(2)  一宮分室は東海電気通信局名古屋無線通信部所管の現場機関である名古屋中統制無線中継所所属の分室で、昭和四一年に一宮局構内に設置されたものであり、本件スト当時の職員数は一三名であつた。

(イ) 同分室は、マイクロウエーブによる無線設備と同軸ケーブルによる搬送設備を有し、一宮局に入出する市外通話回線のうち、東京、大阪等全国主要一九対地に及ぶマイクロウエーブ回線等の送受信基地であり、また日本道路公団の専用電話回線の一宮側の窓口であり、かつ、一宮地域における被告公社の業務連絡用無線回線の基地でもあり、一宮局区域内における重要な無線中継所である。

(ロ) 同分室の業務は、無線通信設備の保全(点検、保守)、建設、回線の維持、管理等であり、その管理対象である市外回線は前記のように一宮地域と全国主要対地を結ぶ重要な回線であるため、年間の実施計画表に基づいて定期的に各種の試験、点検を行つたり、また、日常の保守作業として、常時右設備の監視、点検、調整、修理等をしている。

(ハ) 昭和四三年度における一宮分室の障害件数は一九九件(一日当り〇・六件)であるが、その内訳は、搬送回線障害七五件、無線システム障害三七件、搬送施設障害三〇件、無線施設障害五七件である。

以上に認定した事実によれば、一宮局及び一宮分室は、一宮地域の中心となるべき重要な局所であると共に公社の全国電気通信網上からも、きわめて重要な位置をしめていることが明らかである。

(二)  本件ストを含む四・一七ストの経緯及び仲裁裁定の経緯

(1)  四・一七ストに至るまでの労使交渉の経緯

成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一二、第一三号証の各一、二、第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七、第一八号証、第一九号証の二、第二〇号証の一、二、第二一号証ないし第二五号証、乙第三一号証の一ないし二六、第三二号証の一ないし九、第三三号証ないし第四七号証、第五五号証の四、証人鈴木正道、同岩井章、同及川一夫、同近沢富雄、同森川金成の各証言、右近沢証人の証言により成立を認めうる乙第六一号証、第六四号証、証人中山幸之助の証言、右証言により成立を認めうる乙第八四号証によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(ア) 全電通の組織は中央本部、地方本部、支部分会よりなり、中央本部は東京都にあり、中央執行委員会及び事務機関である書記局と財政局で構成され、地方本部は、各電気通信局所在地に置かれ、中央本部に直結し、地方的統制をなし、支部は、組合規約で規定された単位毎に置かれ、原則として一府県の全組合員を以つて構成し、職場組織である分会を指導統制する。議決機関としての全国大会、及び中央委員会の構成員議決事項、地方本部、支部、分会の各執行機関、議決機関等はすべて原告ら主張のとおりであり、本件スト当時の組合員は約二四万人であつた。

全国大会ないし中央委員会の決定に基づく業務執行のため中央執行委員は指令指示権を与えられている。指令とは、スト等の実力闘争をする場合に発せられ、指示とは、指令実施にあたつての具体的行動を命ずるときに発せられる。

(イ) 昭和四三年一〇月全電通の属する総評、及び中立労連等は春闘共闘委員会を発足させ、春闘の統一要求として一万円前後の大幅賃上げ、合理化反対、スト規制の撤廃等の五項目要求を決定し、ついで昭和四四年二月五日の同戦術委員会において、春闘の統一要求を〈1〉要求額一二、〇〇〇円(高卒初任給三一、〇〇〇円以上)〈2〉要求方式定額分の三分の二以上、〈3〉実施時期昭和四四年一月一日と決定すると共に、合理化反対、スト権確立等の闘争を賃金闘争とあわせて強化することとし、具体的戦術として、民間の春闘相場が定まる四月中旬には、これを支援するべく、労働時間短縮、合理化問題等をからめて、ストを含む実力行使をなし、四月下旬には、大規模な公労協統一ストを実施することを決定した。以上の決定は、三月一〇日付文書を以つて各単産に通知された。

(ウ) これより先全電通は、昭和四三年八月第二一回全国大会において四四年春闘方針を討議し、そのころ、人事院が国家公務員の給与を同年五月一日から平均八%引上げる内容の勧告をしたことに伴い、同月下旬右人事院勧告に見合う措置をとるよう被告公社に申し入れた。ついで第五二回中央委員会を一一月七日から三日間開催し、昭和四四年春闘については、大幅賃上げを目標に、全組織的行動を開始し、公労協統一闘争の中で要求貫徹をはかること、全員スト体制を前提とする拠点スト方式を実施することを決定した。

ついで、昭和四四年二月二六日から二八日まで第五三回中央委員会が開催され、春闘構想として、「賃金要求については、自主交渉決着に向けて積極的に取り組むこと、公労協との共闘については、その中核となること」等を定め、スケジユールとしては、公社側の賃金回答をうけて徹底した自主交渉を行うと共に、民間の春闘相場が公労協の賃上げに影響するという実状を十分認識し、民間との共闘を成功させるため、民間春闘支援のためストを含む実力行使を行うこと、ストは、公労協統一闘争の一環として、公社に真に打撃を与える拠点で一日以内行うこと、スト批准投票は四月上旬に行うこと等が決定された。

(エ) かくて、全電通は、昭和四四年三月五日公社に団交を申入れ、同年一月一日以降組合員の基本給を一律一万二、〇〇〇円引上げを骨子とする一五項目に亘る要求書を三月一五日を回答期限として提出した。

これに対し、被告公社は、同年三月一五日の団交の席上賃上げ要求については、昭和四三年度分は仲裁裁定の実施により決着されているところであるから再度の措置はとれない。昭和四四年度分については、今後の民間賃金の動向をみきわめたうえで回答する旨を答えたが、公社の右回答は、「公社職員の賃金は生計費、国家公務員の給与、民間賃金の動向などを考慮して従来決定されて来ており、とりわけ民間賃金の動向に見合つて決定することが、ここ数年来の慣行となつているところ、現時点では、民間賃金の動向を把握できる状態にない」ことを理由とするものであつた。

(オ) 全電通は、同年三月一二日指示三号を発したが、その要旨は「三月一七日以降全職場で底辺行動(分会旗掲揚、腕章、ワツペン着用等を指す)を展開すること、三月下旬以降の闘争の準備、健保改悪、物価値上げ反対、減税要求等の春闘要求に積極的に取り組むこと」等であつた。

ついで、全電通は、三月一九日指令四号を発し、春闘前進のため、三月二五日以降全国一斉時間外労働拒否に突入できる準備態勢の確立、同日以降の大衆行動の展開、各地方組織の闘争委員会への切替え等を指示した。

三月一八、一九、二〇日と全電通と被告公社の中央団交が行われたが、右団交において、全電通の一五項目要求書の前文(自主交渉、調停決着、誠意を以つて交渉に当り、ゼロ回答はしない等)について被告公社は、原則的にこれを確認したものの、民間賃金の動向とは、民間の一〇〇人以上の企業規模の賃金の平均を指し、化学、電機、鉄鋼、私鉄、造船の回答状況を重視するが、これらの回答が出揃つていないので、いまの時点では、回答できない旨答え、交渉は進展しなかつた。

そこで、全電通は、三月二四日指令五号を発し、同月二五日以降全国一斉時間外労働拒否闘争に突入することを指令し、ついで、同月三一日指示四号を発し、各地方組織は、四月四日以降一〇日までの間にスト批准投票(一票投票)を実施し、スト体制の確立を指示した。

(カ) 被告公社は、総裁名を以つて、全電通中央執行委員長に対し、一票投票は、法律で禁止されているストにかかわるものであること、公社は、過去二年間ストの有無にかかわらず調停段階で有額回答を行い、実質的解決をなしてきており、本件は、従前にまして努力を重ねているところであるから、一票投票は中止されたい旨の申入を行い、全国の公社機関においても、対応する組合機関に対し、同趣旨の申入れをしたが、全電通は、これを拒否し、一票投票を実施した。

(キ) 全電通と被告公社との中央交渉は、四月三日、四日、七日、九日、一〇日、一二日、一四日、一五日と連続して行われたが、全電通側は、公社は、昭和四〇年末の団交の席上賃金決定の要素として単に民間相場のみでなく、職務の内容、公務員賃金との関係、生計費等の要素も当然勘案すると答えている上に、民間での回答もかなり出されており、(四月一五日現在における民間賃金回答状況の資料を提出)鉄綱回答も出されたから、具体的金額は別として、民間賃金の動向についてある程度見通せる時期に来たと考えるがどうかと質したのに対し、公社側は、鉄綱は未だ回答した段階で妥結しておらず、電機、化学、私鉄の回答は明らかになつていないから、民間賃金の動向をみきわめられるだけの資料が出揃つたとは考えていない、今しばらく情勢の推移をみきわめるように努力したいと答え、これに対し、全電通側は、納得せず、具体的金額の回答を要求し、せめて、昭和四三年度の名目経済成長率を上廻る程度の賃上げ額(平均七二〇〇円以上)の回答があれば、組合としては、検討に応ずる用意(第三者機関に場を移し、平和的に解決する用意)がある旨答えて、平行線を辿るばかりであつた。

(ク) かくて、全電通は、スト批准投票が八三・一%を以つて成功したことと、中央交渉が何らの前進を見ないことから、かねての計画に従い、公労協各組合及び民間組合と歩調を合わせ自主交渉の促進と高額の有額回答の引出しを目的として、四月一五日付を以つて指令六号を発し「四月一七日別途指定する職場は、始業時から午前一一時までストに突入すること、右に該当する各地方組織の非専従役員は、本指令によるストの実施及びこれに関連する事項についての執行は一切停止する」旨指令した。

右指令六号に対し、被告公社は、同日総裁名による警告書を以つて、全電通中央執行委員長に対し、スト実施指令の即時撤回を申入れると共に、ストが実施されたときは、企画、指導にあたつた者に対しては解雇等のストに参加した者に対しては、減給等の処分をする旨警告し、各公社機関においても、対応する組合の機関に対し、同趣旨の警告書を手交した。

同年四月一六日の団交は、午後三時ごろから翌一七日午前五時四五分ごろまで断続的に開催された。

右団交の席上、被告公社側は、「公社は、従来から賃金問題については、前向きの姿勢で対処して来たし、今後更にこれを前進させたい。経済成長率の向上、公社の生産性の向上は認められるし、民間賃金の動向も、はつきりではないが昨年より上昇傾向にあることは常識的に理解できる。今年もできるだけのことをして具体的な解決の道を開いていく努力が必要であると考えており、全電通側も、賃金問題を平和的に解決するという姿勢を堅持されたい。ついては、現在民間賃金の動向は、流動的で全体としてまだ把握できる段階ではないが、概ね五%を下らないと推測されるから、公社としてもその方向で検討したい」旨述べ、これに対し全電通側は、「右回答は、これまでに至る公社の努力を否定するものではないが、五%という数字は、政府において国家公務員の給与改定において既に予算化しているところであり、自主交渉、調停決着という線ですすめられている団交の回答としては到底承服しがたい。合理化問題等の他の要求は労使間で解決され、残る問題は賃上げだけであるが、少くとも、具体的に民間相場が反映された回答がなされない限りスト中止の余地はない」と答え、遂に物分れに終り、同日午前五時四五分全電通側は、被告公社にスト拠点を通告するに至つた。

(ケ) かくて、全電通は、四月一七日の始業時から午前一一時まで、被告主張の五拠点、九事業所において時限ストをした(以上の事実のうち、昭和四三年八月に全電通が第二一回全国大会を開催し、四四年春闘方針を討議したこと、昭和四四年二月第五三回中央委員会を開催し、具体的要求を決定したこと、同年三月五日被告公社に、団交を申入れ、前記要求書を提出したこと、これに対し、被告が三月一五日の団交の席上、賃上げ要求については、今後の民間賃金の動向をみきわめたうえで回答する旨答えたこと、中央交渉は、その後継続され、四月一六日の中央交渉において、被告が「民間賃金の動向は流動的であるが五%を下らないと推測されるので、その方向で検討したい」旨答えたこと、全電通が指示三号、指令四号、指令五号、指示四号、指令六号を発したこと、被告が総裁名による警告書を以つて批准投票の中止方を申入れたこと、全電通が四月一七日に始業時から午前一一時まで全国五拠点、九事業所においてストをしたこと、以上の事実は、当事者間にも争いがない)。

(2)  四・一七スト以後仲裁裁定に至るまでの経緯

前掲乙第三二号証の九、成立に争いのない、甲第三〇号証の一、二、第三一号証ないし第三六号証、第三七号証の一、二、乙第三二号証の一〇を総合すると次の事実が認められる。

全電通本部中央闘争委員会は、昭和四四年四月二一日自主交渉では、これまで以上の前進は期待できないとして、交渉を打ち切り、公労委に調停申請をすることに決定し、その旨被告公社に通告し、同日午後公労委に調停申請書を提出した(全電通と被告公社間に同年四月一日付で結ばれている「あつせん、調停及び仲裁の申請に関する協約」第二条第一項には、公労法八条に定める事項について団交により解決がえられなかつたときは、両者のいずれか一方から交渉を打切る旨を相手方に通告した後において、両者の双方若しくは一方からあつせん又は調停の申請を行うことができる旨の条項が存する)。

公労委調停委員会は、四月二二日、ついで四月三〇日の二回に亘り事情聴取が行われたが、被告公社側は、同月二八日に至り、「公社としても、民間賃金の動向にもかんがみ、経営の合理化を一層推進することを前提として、昨年の仲裁裁定で示された賃上げ額程度(七%+四〇〇円、定昇込率一二・〇七%、定昇率四・〇三%)はやむを得ないと考える旨の意見表明がなされた。

右同日、全電通は指令七号を発し、公労委における被告公社の回答を不満として、公労委における調停決着の促進をはかるべく、他の公労協と共に統一ストを五月二日に行うこと、そのため、各地方組織は、五月二日始業時から、午後五時まで拠点指定がなされたときは、ストに突入し得る準備体制を直ちに確立することを指令した。

右の公労協統一ストを目前にした五月二日未明調停委員長試案として「本年四月一日以降の基準内賃金を八%+一、〇〇〇円引上げる」旨の案が提示され、全電通を含む公労協は、同日午前五時、「調停案としては承諾できないが、調停委員会で仲裁移行を決定することには異議はない」旨決定し、被告公社ら三公社五現業当局も、右と同旨の結論となつたので、公労委は、同日午前五時五〇分ごろ調停は不調とし、直ちに総会を開き、仲裁移行が決議され、かくて、公労協の統一ストは中止と決定され、全電通は、同日指令九号を以つてスト中止を指令した。

公労協の他の組合は公労委に対する調停申請を全電通より早く四月上、中旬に既になしており、それぞれ調停係属中であつたため、調停委員長試案は、三公社、五現業各組合に対する一括提示としてなされ、右試案を全電通に引き直すと、四、三八八円(一〇・三六%)、定昇込で六、〇五二円(一四・二九%)となる。

かくて、五月一四日付を以つて、公労委仲裁裁定委員会は、その旨の仲裁裁定をなした。右裁定書の理由の骨子は、「昭和四四年度における民間賃金の引上げ状況についての最終的な資料は、現時点で得られる状況にないが、入手した資料からして、多くの企業の賃上げ率が昨年をかなり上廻る状況にあることが認められ、これを公共企業体の職員にいかに反映させるかについては、ここ数年来行われて来た民間賃金のすう勢を重視する建前を尊重し、これに調停段階における経緯を綜合勘按して決定した」というにある(以上の事実のうち、全電通の調停申立から仲裁裁定がなされるまでの経緯については、当事者間にも争いがない)。

(3)  四・一七ストの目的についての評価

以上(1)(2)に認定した事実について考えるに、本件四・一七ストは、民間企業の賃上げ率に見合う賃上げを、公労協各組合が獲得するべく、民間春闘支援の目的も含めて、統一的に計画されたものであり、五月二日に計画された第二次統一スト(前記のとおり中止)と相待つて、自主交渉、調停決着の路線を有利に進めるための手段としてなされたことは明らかである。

そして、自主交渉、調停決着の路線に基本的に合意していた被告公社の四・一七スト以前の回答が、全電通にとつて不満足であつたであろうことも容易に推認できる。

しかしながら、先に述べたとおり、現行法上被告公社には、予算制度、給与総額制度等自主能力(当事者能力)に制約が存するのであり、そのための代償制度として仲裁裁定制度が存するのである。

従つて、賃上げについての労使紛争は、終局的には、公労委の仲裁裁定により決着さるべきであり、公労法一七条一項が合憲である以上、本件四・一七ストの違法性が阻却さるべき事由を見出すことはできない。

被告公社の自主能力の現行法上の制約及び予算制度の運用については、立法上、行政上の問題として検討の余地は十分あるにしても、(成立に争いのない甲第四三号証ないし第四六号証、第四八、第五〇号証、証人堀昌雄の証言によれば、この点は、常に国会で論議されていたことが認められる)右制約が直ちに、本件四・一七ストの違法性を阻却しないことは多言を要しない。

また、右の点につき証人及川一夫の証言中には、「公労協がストをしなければ、満足できる仲裁裁定がなされたい」旨の供述部分が存するが、公労委の性格が人事院的な適正給与の勧告をする第三者機関ではなく、あくまで労使間の紛争解決のための第三者機関である点において、右のような見解が生ずるものと解されるが、右のような見解は、結局ストによる圧力により仲裁裁定を組合側に有利に導かんとする意図を正当化しようとするものと評する外はなく、前記判断をくつがえすに足りない。

(三)  本件ストの経緯、態様

成立に争いのない甲第六〇号証の一ないし四、第七一号証、第七二号証、乙第三一号証の一一、第五三号証の一、二、第五四号証の一ないし五、第五五号証の一ないし四、第五六、第五七号証、第五九号証、第七二号証の一ないし三、第七三ないし第七五号証、第七九ないし第八三号証、第八八号証、第一〇九号証、第一一六ないし第一二八号証、第一三二号証、第一三五号証の一、二、第一四二号証、第一四六号証、第一四八号証、第一五一号証、第一五四号証、第一五七号証、第一六〇号証、第一六四ないし第一六九号証、第一七九ないし第一八七号証、第一八九号証、第一九一号証、第二〇二ないし第二〇六ないし第二〇九号証、第二一六号証の五、証人森川金成の証言、右証言により成立を認めうる乙第五八号証、第六〇号証、第一二九号証、第一三三号証、第一三六ないし第一四一号証、第一四三号証、第一四五号証、第一四七号証、第一四九号証、第一五二号証、第一五八号証、第一六一号証、第一六三号証、第一七〇ないし第一七八号証、証人近沢富雄の証言、右証言により成立を認めうる乙第六一ないし第六九号証、第九二ないし第九四号証、第九七号証、第九八号証、第一〇二号証、第一〇三号証、第一三〇号証、第一三一号証、第一三四号証、第一四四号証、第一五〇号証、第一五三号証、第一五五号証、第一五六号証、第一五九号証、第一六二号証、証人中山幸之助の証言、右証言により成立を認めうる乙第七〇号証、第七一号証、第七六ないし第七八号証、第八四ないし第八七号証、第九九号証、第一〇五号証、第一八八号証、第一九〇号証、第一九二ないし第二〇一号証、証人鈴木生直の証言、右証言により成立を認めうる乙第八九号証、第九〇号証、第九六号証の一、二、第一〇一号証、証人清水公夫の証言、右証言により成立を認めうる乙第五一号証、第五二号証、第一〇四号証、第一〇六ないし第一〇八号証、第一一五号証、証人竹中孝雄の証言、右証言により成立を認めうる乙第一一二号証、証人沢田慶弘の証言、右証言により成立を認めうる乙第一一〇号証、第一一一号証、証人梅村基憲の証言、右証言により成立を認めうる乙第一一三号証、証人升家俊一郎、同鈴木正道の各証言、原告本人小川巖、同長瀬洋一、同吉沢弘志、同池森敏満尋問の結果、検証の結果によれば、次の事実が認められる。

(1)  一宮分会のスト体制と分会執行部の活動

全電通の組織機構は前記のとおりであり、全電通愛知支部は、愛知県の全組合員で組織され、その傘下の職場組織である一宮分会等の二九分会を指導、統制しているが、同支部は、昭和四三年一〇月から、従来の分会代表者会議を分会長会議と改称し、愛知支部執行委員会の指導方針の決定に参画することになつた。

分会長会議は、昭和四三年一〇月三日を第一回として、昭和四四年四月一〇日までの間に七回開催され、一宮分会執行部からも毎回これに出席した。

右各分会長会議の議題は、中央委員会で決定した事項の報告と右決定に基づく、支部、分会単位の春闘に対する具体的な取り組みについての討議であり、支部副委員長が座長となり、時には、中央本部の委員も出席した。

一宮分会の執行部は、分会長一名、副分会長一名、書記長一名、執行委員五名で構成され、決議機関は、大会と、職場委員会(課単位に一〇名に一人の割合で選出)である(原告長瀬は当時の書記長、原告井上、同森は当時の執行委員であつたことは前記のとおり)。

第六回拡大分会長会議は、三月二四日に、同年三月一九日付全電通指令四号(三月二五日以降における大衆行動の展開、地方組織の闘争委員会への切り替へ等の指令)に基づく各分会の具体的取り組み方を討議するため開催されたが、その討議内容は、乙第五六号証(第六回拡大分会長会議資料)記載のとおりであり、被告の主張と符合している。即ち、右会議資料によれば、四月段階における春闘のスケジユールは、〈1〉四月一七日に第一波の公労協他組合との統一ストを実施する。そのため、前日から、全職場において団交による徹夜交渉(待機行動を含む)に全組合員が参加する。〈2〉ストの一票投票は四月四日から九日までに実施する。〈3〉大衆行動の具体的取り組み方は、先づ底辺行動については、すでに実施されている分会旗の掲揚に加えて、分会執行部は腕章を着用し、全組合員は要求貫徹ワツペンを着用する。

第一次大衆行動として、三月二八日昼休みに全分会一斉に決起集会を開催し、終了後庁内デモを実施する。右集会における内容は、情勢報告とスト体制確立に向けての協力要請とする。四月一四日から一九日の間スト体制の強化のため第二次大衆行動を行うこと等であつた。この会議には、原告長瀬が、組合休暇をとり一宮分会代表者として出席した。

一宮分会執行部は、三月二四日に、第一七回執行委員会を開催し、春闘決起集会の開催について、一票投票の具体的な進め方、腕章ワツペンの着用等につき協議し、この結果、一宮分会は、翌二五日以降組合員全員によるワツペンの着用、執行部役員の腕章の着用、立看板の作成(一万二〇〇〇円獲得までストで闘おう等の記載がある)等の底辺行動が実施されるに至つた。

三月二八日昼休みには、組合員八〇名を以つて一宮局の屋上で春闘決起集会が開催された。集会終了後、一宮分会の分会長、副分会長及び書記長原告長瀬、執行委員原告井上等が一宮局長室において賃上げ要求等に公社が応じないなら重大な決意をせざるを得ない旨の決議文を同局長に手交した。

これより先三月二七日一宮分会は、執行部役員のほかに、職場ごとの組合員で組織されている各部の部会長及び青年婦人両会議議長を含めた第五回拡大執行委員会を開催し、一票投票の体制作り、前記決起集会の開催の準備等について協議した。

三月二八日午前八時三〇分ごろ、一宮分会執行委員原告井上は、分会長と共に一宮局前附近において組合員に対し、一宮分会機関紙「一宮分会ニユースNo.18春闘シリーズ5」及び同分会発行のビラ「春闘おはようニユースNo.1」を配布し、一票投票の成功及び同日の決起集会参加への呼びかけをした。

ついで、四月三日午前八時一五分ごろから一宮局前において分会書記長原告長瀬、執行委員原告井上、原告岡田らは、分会長らと共に、全電通号外二六号(三月二六日号)を組合員に配布し、一票投票の成功、ストによる春闘のもり上げを呼びかけ、ついで四月八日午前八時二〇分ごろ原告長瀬、同井上らは、分会長らと共に支部の機関紙全電通愛知四月一日号を組合員に配布し、一票投票の成功を呼びかけた。

これより先、全電通は、前記のとおり三月三一日指示四号によりスト批准投票の実施を指令したが、一宮分会執行部は、四月一日第八回職場委員会を開催し、その具体的取り組み方を協議したが、前記執行部による四月三日のビラ配布は右協議に基づきなされたものであつた(組合休暇については、原告長瀬は、三月一二日、二二日、二四日、四月一日、二日、七日、八日、原告井上は、三月二四日、四月一日、八日、九日、にそれぞれ承認願を提出している)。

分会執行部は四月二日から九日の間に各職場において一票投票のオルグ活動に従事し、オルグ終了後一票投票を実施した(原告長瀬、同井上のオルグ活動は被告主張のとおりである)。

右オルグ活動期間中の四月九日早朝分会執行部役員は、「春闘おはようニユースNo.2、一票投票はすみましたか」というビラを一宮局前で組合員に配布し、一票投票参加と、四・一七スト体制の確立を呼びかけた。

ついで、四月一〇日午前八時一五分ごろから、一宮局前等において分会執行部役員(訴外早川、同佐々木執行委員を除く全員)は、「批准率八一・九%、四・一七ストに向けて体制確立を急ごう」とのビラを組合員に配布し、スト参加の呼びかけをした。

ついで、同日愛知支部は、第七回拡大分会長会議を開催し、四・一七ストを中心とする当面の行動について協議した。

分会執行部は、四月一一日に第六回分会拡大執行委員会を開催し、被告主張のとおりの四・一七ストの具体的取り組みに関し協議し、同月一三日緊急執行委員会を、同月一四日分会全役員会議を開催したが、その議題、内容はすべて被告主張のとおりである。

なお、四月一二日朝、執行部役員は、青年婦人会議の役員と共に「全力を上げて四・一七ストを成功させよう」と記載されたビラを一宮局前で組合員に配布し、同月一四日午前八時二五分ごろ、分会執行部の原告長瀬、同井上、同森は、一宮局前で組合員に対し、「春闘おはようニユースNo.4」を配布し、また、翌一五日早朝には、「同ニユースNo.5」を配布し、ストを打ちぬく以外に賃上げ闘争の解決はない。分会は今日から非常時態勢に入り、全役員は、スト体制確立のため全精力をそそぐ、スト参加に迷つてはいけない旨を訴えた。

四月一四日午後、分会執行部は、大衆行動の一環として、一宮局木造庁舎非常階段に組合旗を立て、同日午後八時三〇分ごろ分会執行部役員、職場委員約三〇名は、一宮局、人形町分室、線路分室等に駐車中の被告の公用車四五台に「大幅賃上げをかちとろう」などと印刷したビラ約五〇〇枚を貼付した。

(2)  中統無中分会のスト体制と同分会執行部の活動

全電通名古屋支部に属する中統無中分会執行部の活動の大要は、同分会執行部作成の乙第七三号証(春闘総括と題する書面)及び乙第七二号証の一ないし三(分会大会議案集と題する書面)に記述されているとおりであるが、これら文書の内容は、被告の主張に符合している。即ち、同分会執行部の分会長は原告吉沢、書記長は原告池森、執行委員は、原告北村、同吉川らであるが、右執行部は、全電通名古屋支部の指導の下に(三月五日の名古屋支部第五回分会代表者会議には、原告池森が、三月二五日の同支部第六回拡大分会代表者会議には、執行部役員全員が、四月一四日の同支部第七回拡大分会代表者会議には、執行部の代表がそれぞれ出席、右各会議の討議内容は、被告主張のとおり)、執行委員会における討議決定の下に、積極的に四・一七ストに向けての体制作りに活動した。

先づ、執行部は、三月一二日及び一七日の両日に組合掲示板に「〈1〉四月下旬に拠点ストを行う。〈2〉三月一八日は時間外労働の拒否をする。〈3〉三月一七日より組合旗の掲揚、腕章、共闘バツチの着用を一斉にすること」等の春闘方針を掲出し、組合員は、これに従つて、同日から腕章等の着用の底辺行動を開始した(原告吉沢、同池森、同吉川、同北村は春闘期間中終始腕章を着用していた)。ついで、三月二八日昼休みに職場集会を行い、右集会終了後、原告池森、同吉川は、組合員約三〇名を引率し、中統無線中継所所長に面会を申込み、同所長に対し分会長原告吉沢名義の基本給一万二、〇〇〇円の賃上げ等の要求書を提出した。

更に、四月七日昼休みに組合員約五〇名で時間外職場集会を開催し、かつ一票投票を実施した。

四月一六日午前八時一〇分ごろから四〇分ごろの間に、原告池森、同北村は、中継所局舎五階の入口廊下に、「四・一七ストを成功させよう」と大書した二枚の立看板に、出勤してくる組合員に、いわゆる寄せ書きを要請していた。

この間右分会執行部は、三月三一日から四月二日にかけて、「しゆんとう一号」「同二号」「同三号」を中継所五階廊下等において組合員に配布し、また分会ニユース号外「一万二、〇〇〇円はどうしても必要だ」、「四月一七日は公労協統一ストです」「ストライキで反省させよう」等を組合員に配布し、一票投票の成功、四・一七スト実施について積極的な呼びかけをした。

(3)  両分会のスト体制作りに対する被告公社の警告等

この経緯は、すべて被告主張のとおりである(四月一日一宮局において一宮局長から一宮分会長に対し、一票投票中止の申入書が手交されたこと、右申入書写と被告主張のとおりの総裁談話が局内掲示板に掲示されたこと、中統無線中継所でも、右と同様の措置がとられたこと、指令六号発出後一宮局長は、四月一五日一宮分会長に対し、総裁名の警告書と同趣旨の警告書を手交し、かつ、右警告書写及び「職員各位に告ぐ」と題する文書を局内に掲示したこと、四月一五、一六日に一宮局長名による「職員各位に告ぐ」と題する文書が各職員に手交されたこと、一六日には一宮局長が局内放送により一七日の就労を指示したこと、同日東海電気通信局長名で「分会役員の皆さんへ」と題する説得文が一宮局内に掲示されたこと、中統無線中継所においても、四月一六日に所長名による一宮局におけると同旨の警告書を分会長に手交し、かつ「職員各位に告ぐ」と題する文書の掲示をしたこと、そのころ、右文書が各職員に手交されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない)。

(4)  本件スト前日の各分会執行部の活動

(一宮分会)

ストの前日である四月一六日午前八時二〇分ごろ一宮分会長及び副分会長らは、一宮局前附近等で、「春闘おはようニユースNo.6」を組合員に配布し、「みんなでストに参加しよう」「本日午後五時、明日午前七時三〇分の全員職場集会へ参加して下さい」等と呼びかけ、ついで同分会執行部は、午後五時三〇分ごろから、午後八時ごろまで当日の非番者約二八〇名により春闘決起大会を開催し、春闘情勢の報告と、四・一七ストについての説明をなした後、一般組合員を交渉班、待機班、行動班の三班に編成した。交渉班は、分会長、副分会長、原告長瀬書記長、同井上執行委員が中心となり、総勢三〇名で、あらかじめの一宮局側との話し合いに基づき、庁内デモ、ビラ貼りは一切しない、時間は午後六時二〇分から午後七時までとの約束で、局長室の隣室の訓練室で一宮局長、訴外森川厚生課長らとの間に賃上げについての陳情という形式で労使交渉をなし、その間一般組合員約一〇〇名は局舎六階廊下にすわり込み待機していた。

陳情終了後、待機中の一般組合員に対し、原告長瀬、同井上が陳情状況の報告をし、午後七時二〇分ごろ一般組合員は退出した。

その後分会執行部は、数十名の行動班の組合と共に、組合事務所等で待機していたが、午後八時三〇分ごろから約一時間に亘り、一宮局側との約束に反し、組合執行部役員(原告長瀬、同井上、同森を含む)ら指導の下に、職制の再三の制止にもかかわらず、局舎内の階段、エレベータ―扉、便所、下駄箱等に約一、三〇〇枚のビラ(大幅賃上げをかちとろう、必ずとるぞ一二、〇〇〇円、公社は誠意ある回答を、等の内容)を貼り、その後も、分会執行部役員は、組合事務所で徹夜で待機していた。

(名古屋中統無中分会)

スト前日の四月一六日昼休みに分会執行部は、中継所局舎六階休憩室で組合員約四〇名で職場集会を開催し、ついで、午前一一時三〇分ごろと、午後三時五〇分ごろの二回に亘り、原告池森書記長から賃上げ問題等についての団交の申入がなされたが、中継所側は、スト対策業務多忙及び権限外の事項を理由にこれを拒否した。

ついで、午後五時ごろ、原告池森書記長から賃上げについての陳情の申入れがあり、人数五名以内、時間は二時間以内の条件で、所長室で陳情が行われた。出席者は、分会側は、原告吉沢分会長、同池森書記長、同北村執行委員、同吉川執行委員ら一〇名で、中継所側は、所長、次長、庶務課長等であつた。

午後五時三〇分から始つた右陳情は、当局側の時間切れの打切り要請に分会側が応ぜず、断続的に翌一七日午前〇時二〇分ごろまで行われた。その間原告池森書記長は、原告吉川、同北村執行委員と共に、「職員各位に告ぐ」と題し、各組合員に配布された警告書を一括返上したりした。

この間午後八時前後ごろ、中継所内局舎六階休憩室、ロツカー等に約二二〇枚のビラ(前記一宮分会と同趣旨の内容のビラ)が分会執行部らにより貼られていることを現認した中継所当局は、訴外中山庶務課長から撤去方を分会執行部に要請したが、これを拒否されたので、管理職数名でこれを撤去した。

その後も、分会執行部は、六階休憩室で徹夜待機を続けていた。

(5)  本件スト実施の状況

(被告公社一宮局及び中統無線中継所の事前業務確保対策)

四・一七ストが拠点スト方式で実施されることに備えて、当日の業務確保のため、一宮局は、局内及び局外対策本部を設け、局内対策本部は、本部長たる局長以下管理職四三名を以つて構成し(内訳は、営業班二名、電信運用班七名、電話運用班一三名、保全班一〇名、線路分室二名、局内記録確認警備班五名等)、局外対策本部は、本部長たる次長以下管理職一八名を以つて構成し(内訳は、PR班一名、職員掌握班九名、局外警備班二名、局外記録確認班及び職場大会確認班三名、庶務班二名等)、それぞれその配置を了し、局内対策班は、スト当日予想される全電通のピケによる入局阻止に備え、四月一六日夜全員四三名は局舎内に泊り込んだ。

一方、無線中継所においても、所長を本部長とする管理職一五名によるスト対策本部を設け、このうち局内対策本部は、本部班三名、保守班四名、一宮分室班二名計九名を以つて構成し、局外対策本部は、五名を以つて構成し、局内対策本部員九名は四月一六日夜全員が所内に泊り込んだ。

また、上部機関である愛知電気通信部及び東海電気通信局において、それぞれ、被告主張のとおりのスト対策本部を設置し、スト対策の体制を講じた。

(本件ストの実施)

四月一七日早朝における全電通と被告公社の団交不調に伴い、午前五時四五分ごろ全電通は指令六号に基づくスト拠点局を被告公社に通告したが、これより早く、同日午前五時一〇分ごろ、全電通訴外島田中央闘争委員が来局し、一宮局長及び中統無中一宮分室長に対し、一宮局及び一宮分室がスト拠点局に指定された旨通告し、併せて、一宮分会及び中統無中分会の執行部の執行権は停止された旨通告した。

そしてその直後ごろ全電通愛知地方本部(東海地本)及び支部の専従役員、書記局の男子書記により(その後愛労評等の他労組の組合員もこれに加わり、合計約六〇名となる)、一宮局通用門附近(現在の西正面玄関附近)にピケラインがはられた。

被告公社側は、スト拠点局の事前探知に努力したが、全電通側の陽動作戦(全電通は、四月一六日夜から一七日早朝にかけて組合役員やピケツト要員を五台のバスに分乗させ、東海電気通信局管内一円の地域を分散走行させ、その通過地域内にある電報電話局が拠点に確定されたかのような印象を与えるような戦術をとつた)のため、事前探知は奏功しなかつた。

一宮局と一宮分室がスト拠点に決定されたことを知つた被告公社側は、応援管理者約二〇〇名を動員し、一宮市内の局外対策本部(やよい旅館)に集結させ、午前七時ごろ愛知通信部対策本部の相沢次長、東海電気通信局対策本部の訴外鈴木調査役、同平野厚生課長が一宮局前に赴き、ピケ隊の責任者東海地本副委員長訴外藤田に対し、応援管理者の入局とピケの解除を要請したが、話し合いがつかず、一旦交渉は打切りとなり、相沢次長らは、局外対策本部に引き返し、協議の上、訴外藤田副委員長に対し、八時三〇分に応援管理者がピケ隊を突破して入局し、強行就労する旨を通告することに決定し、午前八時ごろ訴外鈴木調査役が、この旨を訴外藤田副委員長に架電した。しかし訴外藤田副委員長の要請により再度の話し合いをすることになり訴外相沢次長と訴外鈴木調査役の両名は、直ちに一宮局附近に赴き再度の交渉に入つた。

右交渉は、公社側が最低限三〇名の応援管理者の入局を認めよとの要求に対し、訴外藤田副委員長は二〇名が限度であり、入局の方法もピケ隊のいる面前では困るとの返事をなし、話し合いがつかず、訴外相沢次長は、局外対策本部に再び帰つて協議の上、訴外藤田副委員長に対し、二二名を一宮局の東側民家の敷地から、はしごを使つて局舎の裏側の塀づたいに局舎の窓からひそかに入局するという提案をした。訴外藤田副委員長は、いずれ諾否の返事をすると答えたので、訴外相沢次長らは局外対策本部に引き返して待機していたが、そのころは午前八時三〇分ごろになつていた。

その後訴外藤田副委員長から何らの連絡がないので、午前九時ごろ、訴外相沢次長らは、あらかじめ、入局要員二二名を五組に分け、五台のタクシーに分乗し、前記の方法で入局することとし、第一組(四名)の出発を命じ、一組は前記の経路で入局し、ついで第二組(四名)も同様の方法で入局したが、このことがピケ隊に知れ、局舎の東側民家附近にもピケがはられたため、第三組以下の入局は不可能になつた。

かくて、局外対策本部は午前九時半を期して、ピケ隊を突破して強行入局することに決定し、その旨ピケ隊責任者訴外島田中央闘争委員に架電したうえ、午前九時四〇分ごろ相沢次長指揮の下に、応援管理者約二〇〇名が約四列に隊列を組み(先頭集団はピケ突破要員として十数名、その後に入局要員約三〇名、その後に突破、入局の支援要員という編成)一宮局に向けて出発した。そして午前一〇時ごろ、訴外相沢次長は、訴外島田に対し、ピケを解除するよう通告したうえ、先頭集団約三〇名の管理者を以つて強行突破を企て(携帯マイク、プラカード等によりピケの解除の呼びかけもした)たが、局舎西側の旧通用門附近でピケ隊のスクラムに阻止され、押し合いとなり、押し合いは約二〇分位続いた。五分か一〇分位押し合いをやめた後再び押し合いを始めたところ、約一〇分後に訴外島田から話し合いの申入れがあり午前一〇時三〇分ごろ組合側は一五名の応援管理者の入局を認めるということで話し合いがつき、そのころ右一五名が入局した(これより先午前九時三〇分ごろ局外対策本部は一宮警察署に警官の出動を要請し、同署の警官隊が一宮局前に来たが、実力によるピケの排除はしなかつた。)

そして始業時から午前一一時に至る間、一宮局においては出勤予定者三三四名中三一六名の一宮分会組合員、一宮分室において出勤予定者九名の中統無中分会員が就労せず、一宮勤労会館における職場集会に参加し、時限ストが行われた(原告井上、同岡田、同小川、同鈴木、同吉沢が就労せずにストに参加したことは当事者間に争いがない)。

(6)  本件ストによる業務阻害の状況

(一宮局について)

(ア) 電話交換業務及び電話番号案内業務

運用部第一、第二電話運用課の業務は前記のとおりであるがこれに従事する職員は午前七時三〇分五名、午前八時一九名、午前八時二五分二四名、午前八時三〇分一二名(乙第一〇六号証の二二名は一二名の誤記)と順次増加し、午前一〇時には、七〇名となる予定のところ、これらの職員は殆んど出勤せず、一方公社の準備した応援管理職は、前日から泊り込んだ一三名、午前九時三〇分ごろ入局した八名、午前一〇時三〇分ごろに入局した一五名であり、仕事に不慣れなかかる少数の管理職では、通常のサービス業務を行うことは不可能であつたため、スト時間帯は、受付回線の規制をなし(DSAについては、一四二回線を三五回線に、番号案内は一三〇回線を二八回線に規制)たが、スト中の午前八時から一一時までの取扱件数を平常日の取扱件数と比較すると、その数値は、被告主張のとおりであり、電話交換業務は約四〇%、電話案内業務は約五五%減少した。

また、公衆電気通信サービスの応答時間(申込者がダイヤルしてから、公社取扱者がこれを受付けるまでの時間)についてみれば、被告主張の基準値による平常日との比較は、被告主張のとおりであり、スト当日午前九時から一〇時に至る間は、応答時間が一一秒をこえるものはDSAで八八%(平常日五%)、案内業務で五〇%(平常日四%)で、平常日に比し著しいサービス低下がみられた。

なお、番号案内の問い合せに応答がない旨の苦情申告が四件以上あつた。

(イ) 電報業務

業務部電報課の業務内容は前記のとおりであるが、スト当日始業時から午前一一時までの電報業務に従事する出勤予定の職員が殆んど出勤せず(出勤予定人員数は、内勤と外勤を合わせて、午前八時から九時までは一二名、同九時から一〇時まで一七名、一〇時から一一時まで二一名)宿直明勤務者が退局した後は、前日から局内に泊り込んだ応援管理者七名によつて業務を遂行するほかなかつた(右管理者七名は内勤業務にあて、局外に配達業務のため三名の管理者が配置された)。

そのための業務阻害は被告主張の図表のとおりであり、これら電報の停滞が解消されたのは午後二時三〇分ごろであつた(但し、右の数字の中には、全電通一宮分会宛の電報約三〇〇通が含まれていたが、右電報が被告主張の停滞分に含まれていたか否かは分明でない)。

(ウ) 保全業務

第一、第二施設部の保全業務は前記のとおりであり、これら業務の当日の出勤予定者約一三一名が、始業時の午前八時三〇分から午前一一時まで殆んど出勤しなかつたので、前日から局内に宿り込んでいた保全班(第二施設部関係)管理者一〇名、線路分室班(第一施設部関係)管理者一名の外、当日第一施設部に応援に来た管理者九名以上合計二〇名で保全業務をした。

第一施設部関係では、スト日の前日から集中豪雨があつたため、当日修理を予定されていたケーブル障害は一六日に発生した分を含めて一一ケーブル(電話数二〇九件)であつたが、午前一一時現在で八ケーブル(電話数八九件)が未修理となり、平常日に比し約四時間(午後三時ごろに修理完了)遅延した。また当日新設予定の電話工事は、一五件中一四件が工事不能となつた。また当日午前中に予定されていた移転の電話工事二一件は、不能となつた。

第二施設部関係では一一三番で受付けた電話障害申告は、前記ケーブル障害のためか、平日の約二倍半の約一〇〇件に及んだが、平日のような迅速な応答はできなかつた。また、保全作業は、各種交換機の監視、点検作業のみを行い、予定されていた定期試験、障害修理等の全般的な保全業務はできなかつた。

(エ) その他の業務

業務部第一、第二電話営業課、料金計算課や、庶務、会計等の各業務も、スト時間帯に出勤予定者約七〇名が就労しなかつたため、いずれの業務も停滞した。

(オ) 電話番号案内係の応答が仲々出ないとの苦情電話が四件あつた外に「工事の約束日なのに工事に来ない」等の苦情が一宮局になされた。

(一宮分室について)

一宮分室の業務内容は、前記のとおりであるが、本件スト当日出勤予定の職員九名が始業時である午前八時三〇分から午前一一時まで就労しなかつたため二名の管理者により電気通信設備の監視保守作業をしたが、スト時間帯には、格別障害等による事故は発生しなかつた。

しかし、先に認定した一宮分室の業務内容及び年間の障害発生件数にかんがみると、同分室においては障害の発生の有無にかかわらず無線局として各種の通信設備に対し不断の保守点検が要請されることは明らかであるから、スト時間帯における九名の職員の不就労は、同分室の業務の阻害と、これによる不測の事態発生の可能性を否定できない。

以上の認定の趣旨に反する原告本人小川巌、同吉沢弘志各尋問の結果部分はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(7)  本件ストの経緯、態様及び業務阻害状況に対する評価

以上(1)ないし(6)で認定した事実につき考えるに本件ストは、四・一七ストの一環として、いわゆる陽動作戦を伴う抜打ち拠点スト方式を以つてなされたこと、スト突入通告の直後に応援管理者の入居阻止のためのピケツトが全電通本部から派遣された中央闘争委員等の指揮の下になされたこと、スト突入と同時に本部指令に基づいて一宮分会、中統無中分会各執行部役員に対する執行権停止の措置がなされたこと、しかし、スト突入直前に至るまで一宮分会執行部は、原告長瀬書記長、同井上執行委員、同森執行委員を含む執行部役員の全員、中統無中分会執行部は、原告吉沢分会長、同池森書記長、同北村執行委員、同吉川執行委員を含む執行部役員の全員が、それぞれ、中央本部の指令、指示に基づき、支部の指導の下に、前記分会長会議等の協議を経て、四・一七ストを成功に導くべく、分会員に対しスト体制確立に向けて各種の指導をなしたこと(執行委員会、職場委員会等の開催、討議、職場決起集会の開催、春闘ビラの作成、配布、立看板の掲出、一票投票のオルグ活動、一票投票の実施、集団陳情、スト前夜の待機行動及び、ビラの局舎内貼付、勤務時間中の腕章の着用等)、前記ピケツトは、使用者側の正当な操業に対し、約三〇分間に亘り実力を以つて阻止したものであり、いわゆる平和的説得の限界をこえるとのそしりを免れないこと、以上のことが明らかであり、前記両分会に対するスト時間帯における執行権停止措置は、分会執行部役員に対する懲戒処分責任の追及を免れるための便法としてなされたと推認され、右執行権停止措置がスト直前に至るまでの両分会役員の本件ストの指導責任を免責する効果をもつとは到底認められない。

また、勤務時間中の腕章着用ないしスト前日の局舎内や公用車に対する多数のビラ貼付は、違法組合活動と目すべきである(前者は、公社就業規則第四条2項の職務専念義務及び第七条の勤務時間中の組合活動禁止に違反し、後者は無許可貼紙として第五条6項に違反する)。

そして、本件ストは、被告公社側の再三の警告を無視して実行されたものであり、右ストによる業務阻害の状況は先に認定したとおりである。

そして、被告公社の業務は、公衆電気通信サービスであり、その各種通信設備は、全国に亘つて有機的に設置され、公衆電気通信網を構成し、公益性、社会性、公共性が著しく高度であることにかんがみると、本件ストによる業務阻害中一宮分室における保守、点検業務の一時的中断は、一宮市及びその周辺地域のみならず、被告公社の電気通信サービス全体に対する不測の事態発生のおそれは大であると言いうるし、一宮局における電話番号案内、電話交換各業務、保全業務等の一時的停滞も、一宮市及びその周辺地域の国民生活に少からざる影響を及ぼしたか、ないし及ぼすおそれは大であつたと言うべきである。

従つて、本件ストは、公労法一七条一項に違反する違法ストである。

これに反する原告らの主張は採用できない。

(四)  原告らの懲戒処分事由該当性

原告井上、同岡田、同小川、同鈴木、同吉沢が本件ストに参加し、就労しなかつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六〇号証の六、原告本人長瀬洋一、同池森敏満尋問の結果、及び弁論の全趣旨によれば、原告長瀬、同森は本件スト当日は、勤務明けの休日であり、原告池森、同北村、同吉川は、本件スト中名古屋中統無線中継所で勤務しており、これら五名はストに参加してはいなかつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

従つて、被告公社の問い得る原告らの責任とは、原告岡田、同小川、同鈴木についてはスト参加という実行責任であり、原告長瀬は一宮分会書記長としての、同森は、同分会執行委員としての、原告池森は無中分会書記長としての、原告北村、同吉川は、同分会執行委員としての本件ストに至るまでの前記指導責任であり、原告井上は、一宮分会執行委員としての指導責任及びスト参加責任、原告吉沢は中統無中分会長としての指導責任及びスト参加責任であることは明らかである。

そこで、先に認定した原告らに対する本件処分辞令書の理由中右に符合しない部分(原告長瀬、同森、同池森、同北村、同吉川の実行責任を問う部分、正確に表現すれば、原告池森、同北村、同吉川については指導責任と撰択的に問う部分)は実体上の原因を欠くというべきである。

しかしながら、原告長瀬、同森、同池森、同北村、同吉川についてはいずれも指導責任は免れないところであり、先に説示したとおり、本件処分の理由は、要するに公労法一七条一項(ストの禁止と禁止されたストの共謀、そそのかし、あおり行為の禁止―スト指導の禁止)及びこれと同旨の就業規則六条該当を骨子として公社法三三条一項一号を適用してなされたのであり、スト指導禁止違反行為は、スト禁止違反行為(スト実行の単純参加行為)に比し、はるかに社会的責任は重いことを考えると、本件処分理由の前記瑕疵は、さしたるものとは言えず(撰択的に指導責任と実行責任を問われている原告池森、同北村、同吉川については瑕疵がないとも言える)本件処分の効力に消長を来たすとは認められない。

従つて、本件処分は、いずれも前記処分理由書記載の法条に該当し、かつ正当な事由に基づくものと認められ、労組法七条一号三号の不当労働行為と目することは到底できないことは多言を要しない。

六  本件処分と懲戒権の濫用の存否

(一)  先に認定した本件ストを含む四・一七ストが民間春闘支援の目的をも兼ねた公労協傘下組合の統一ストであつたこと、スト対策として被告公社の管理職による正当な操業を妨害する目的をもつた陽動作戦、ピケツト戦術を伴う抜打ストであつたこと、及び本件ストが被告公社の業務を阻害し、右業務阻害が一宮市及びその周辺地域の国民生活に少からざる影響を及ぼしたか、及ぼすおそれが大であつたこと、及び被告公社の電気通信事業に対し不測の事態発生のおそれも大であつたこと等の本件ストの目的、規模、態様、並びに原告らのうち執行部役員がなした本件ストの指導の具体的活動等に照らすと、原告らに対し分会役員としての指導責任、ないし、一般組合員としてのスト実行責任を問責するためになされた本件各処分は、客観的に見て社会観念上著しく妥当を欠き、被告公社の裁量権の範囲を逸脱しているものとは到底認められない。そして、スト当日になされた原告らのうちの分会執行部役員に対する執行権停止の措置が、これら原告の指導責任を免責する効果を有しないことは先に説示したとおりである。

また、成立に争いのない甲第七四号証、原告本人池森敏満尋問の結果、右により成立を認めうる甲第六二、第六三号証、原告本人長瀬洋一尋問の結果によれば、四・一七ストに対する被告公社の懲戒処分の量刑は、拠点に指定された各分会は、分会長は停職三月、分会二役(副分会長、書記長)は停職一月、分会執行委員は減給(月額基本給の一〇分の一を一〇月)一般参加者は戒告であり、これは全国の拠点指定局にほぼ共通していることが認められるけれども、四・一七ストが全電通本部の指令により、拠点指定局において、全国一斉に、殆んど同じ規模、態様の下になされた点において、拠点局のストや、分会執行部の活動につき、被告公社として甲乙をつけ難いであろうことは容易に推認することができるから、このような画一的な量刑基準に基づく懲戒処分も、やむを得ないものというべく、右事実を以つて懲戒権の濫用とまで認めることは困難である。

(二)  原告らは、本件処分により原告らの受ける身分上、経済上の不利益は甚大であること、本件処分時以降のストにつき被告公社のなした懲戒処分は、軽減化されていること等を理由に、本件処分は懲戒権の濫用であると主張するので、右主張の当否につき以下判断する。

(ア)  前掲甲第六二、第六三号証、成立に争いのない乙第八号証、証人鈴木正道、同及川一夫の各証言、原告池森敏満尋問の結果によれば昭和三六年度以降昭和四七年度までの各年度におけるストに対する懲戒処分の量刑基準は、本件処分とほぼ同一であつたが、昭和四八年春闘における四回のストに対し、一括して同年一二月に発令された処分は、拠点分会役員に対する停職は皆無となり、一般参加者はすべて訓告となつたこと、同年末における三回の、同四九年度における四回の、同五〇年五月における一回の各ストに対し一括して、同五〇年六月に発令された処分は、拠点分会の役員に対しては減給処分もなくなり、すべて訓告となり、分会の一般参加者はすべて文書注意(訓告は就業規則第六四条によれば、懲戒処分を行うに至らない程度の行為に対し、将来を戒しめるためになされるものと規定され、文書注意は就業規則に規定がない事実上の注意処分である)となり、(昭和四八年以降同五〇年に至る間の処分例の軽減化は当事者間にも争いがない)この軽減化傾向は現在も変つていない。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(イ)  つぎに、原告らが本件処分自体により受ける経済的不利益ないし本件処分後に受ける次期定期昇給の減額措置、及び右減額措置の影響がその後の昇給、一時金、退職金まで及ぶこと、その具体的計算内容の大綱が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない(但し、原告ら主張の減給処分につき減給期間中特別手当(各一時金等)が減額されることはないこと及び、原告ら主張の計算書の細部について被告主張のような誤謬のあることは原告らの自認するところである)。

そして、成立に争いのない甲第五八、第五九号証、証人及川一夫の証言によれば、本件処分は、原告らの勤務、給与に関する記録に記載され、退職時まで保存されていることが認められる。

(ウ)  そこで考えるに、懲戒処分の裁量権濫用の存否の判断基準時は、当該処分のなされた時点と解するのが相当であり、昭和三六年から昭和四七年までの処分の量刑は、四・一七ストの量刑と殆んど同じであつたことは前記のとおりである。

そして、昭和四八年度以降における処分の軽減化の傾向が、本件処分が重きにすぎたとの被告公社の判断に基づくものと認めるに足りる証拠はなく、却つて、成立に争いのない甲第四九号証、第七五号証の二、及び弁論の全趣旨によれば、処分軽減化の傾向は、違法ストに対する処分のみによつては、違法ストの防止ないし労使関係の安定、相互信頼を得ることは、不可能であるとの政治的判断に基づくものであることが看取できるから、右処分の軽減化傾向からして、本件処分が裁量権の濫用であると即断することはできない。

また、本件処分に伴い、処分期間経過後に受ける経済的不利益ないし、処分の事実が記載された人事記録の退職時までの保存の問題は、本件懲戒処分そのものの効力とは言えず、前者は、成立に争いのない甲第七九号証の二(九八頁)によれば、賃金に関する協約三六条に基づくものであることが認められ、後者は被告公社の人事管理上の措置というべきであり、本件処分時以降の処分の軽減化の傾向に照らすと、労使の団体交渉により妥当な解決(例えば、先に認定したILO結社の自由委員会一三九次報告一二四項及び前掲甲第五二号証により認められる一九七六年のILO第二回公務合同委員会における決議にみられるように、懲戒処分後一定期間経過したときは、その時点で懲戒処分に伴い処分期間後に受ける経済的不利益を将来に向つて解消し、かつ、人事記録上の記載を消去する等)を計ることは、十分に可能であるから、本件処分以後における原告らの経済的不利益等の事実は、前記判断をくつがえし、原告ら主張事実を維持するに足りる資料とはなし難い。

七  結論

以上の次第で本件処分は適法有効であるから、その無効確認を求める原告らの本訴請求(本件処分の附着しない従業員たる地位の確認を求める趣旨と解される)は、すべて理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本武 戸塚正二 林道春)

(別表)

氏名

職務関係

ストライキ当日の勤務関係

組合関係

処分内容

長瀬洋一

一宮電報電話局

第二施設部電力課

非番

全電通一宮分会

書記長

停職一ヵ月

井上金吾

同 第一機械課

勤務

執行委員

減給1/10一〇ヵ月

森健二

業務部電報課

非番

執行委員

(旧姓岡田)

石黒勝

同 料金計算課

勤務

組合員

戒告

小川巖

第一施設部増設電話課

組合員

鈴木三雄

資材課

全電通愛知支部青年常任委員会委員長

吉沢弘志

名古屋中統制無線中継所一宮分室

全電通名古屋中統無中分会分会長

停職三ヵ月

池森敏満

第二整備課

書記長

同 一ヵ月

北村重則

第一整備課

執行委員

減給1/10一〇ヵ月

吉川和夫

第一試験課

執行委員

(別紙 その一)

第一章 総則

第一条(準則) 日本電信電話公社の職員の就業に関しては、法令または労働協約に定められたもののほか、この規則の定めるところによる。

第四条(服務の根本基準) 職員は、その職務を遂行するにあたつては、日本電信電話公社(以下「公社」という。)が行なう公衆電気通信事業を合理的かつ能率的に運営して国民の利益を確保することによつて、公共の福祉を増進することを常に念頭に置き、所属長の命令に服し、誠実に法令、規程および通達に従わなくてはならない。

2 職員は、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。ただし、公共企業体等労働関係法(昭和二十三年法律第二百五十七号。以下「公労法」という。)第七条の規定によりもつぱら労働組合の事務に従事する者については、この限りでない。

第五条(局所内の秩序風紀の維持) 職員は、みだりに欠勤し遅刻し、もしくは早退し、または直属上長の承認を受けないで、執務場所を離れ、勤務時間を変更し、もしくは職務を交換してはならない。

2 職員は、公社の他の従業員を誘い、または強要して、欠勤遅刻もしくは早退をさせ、またはその就業を妨げてはならない。

3 職員は、局所内において、みだりに飲酒めいていし、またはとばく等をしてはならない。

4 職員は、局所内において、みだりに火器その他の危険物を所持し、または使用してはならない。

5 職員は、公社の物品または財産を不当に棄却し、亡失し、き損し、または私用に供してはならない。

6 職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするときは、事前に別に定めるその局所の管理責任者の許可を受けなければならない。

7 職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。

8 前各項のほか、職員は、局所内において、風紀秩序を乱すような言動をしてはならない。

第六条(争議行為の禁止) 職員は、同盟罷業、怠業その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、またはあおつてはならない。

第五十九条(懲戒) 職員は、次の各号の一に該当する場合は別に定めるところにより、懲戒されることがある。

一 公社法または公社の業務上の規程に違反したとき

二 職責を尽くさず、または職務を怠り、よつて業務に支障をきたしたとき

三 上長の命令に服さないとき

四 部下に対し不法または不当な命令をし、よつて業務に支障をきたしたとき

五 部下の指導監督に適切を欠き、よつて業務に支障をきたしたとき

六 故意または過失により業務上の事故をひき起したとき

七 職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき

八 職務上の規律を乱し、または乱そうとする行為があつたとき

九 他の従業員の懲戒に当る事実を故意に隠したとき

十 部内部外を問わず職務に関して他人からみだりに金銭、物品その他の利益を受けたとき

十一 非行について再三注意されてなお改しゆんの情がないとき

十二 通信の秘密およびその他の職務上知ることができた秘密をもらし、またはもらそうとしたとき

十三 公衆に対し業務上不当な行為があつたとき

十四 職権をらん用する行為があつたとき

十五 業務取扱に関し不正があつたとき

十六 刑事事件に関し有罪の確定判決があつたとき

十七 故意に前歴を偽わつたとき

十八 第五条の規定に違反したとき

十九 故意に業務の正常な運営を妨げ、もしくは妨げることをそそのかし、またはあおつたとき

二十 その他著しく不都合な行為があつたとき

第六十条(懲戒処分の種類) 懲戒処分には、次の種類がある。

一 免職

二 停職

三 減給

四 戒告

第六十一条(停職) 停職の期間は、一月以上一年以下とする。

2 停職者は、職員としての身分を保有するが、その職務に従事することができない。

3 停職者は、その停職の期間中、基本給の三分の一を支給されるほか、一切の給与を支給されない。

第六十二条(減給) 減給は、一月以上一年以下の間基本給の十分の一以下を減ぜられる。

第六十三条(戒告) 戒告は、文書をもつて責任を確認し、および将来を戒められる。

第六十四条(訓告) 職員は、第五十九条各号の一に該当する場合で、前五条の規定による懲戒処分を行なうに至らない程度であるときは、その将来を戒めるため、別に定めるところにより訓告されることがある。

(別紙 その二)

第三章 役員及び職員

第三三条(懲戒) 総裁は、職員が左の各号の一に該当するときは、これに対し、懲戒処分として免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

(1) この法律又は公社が定める業務上の規程に違反したとき。

(2) 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。

2 停職の期間は、一月以上一年以下とする。

3 停職者は、職員としての身分を保有するが、その職務に従事しない。停職者は、その停職の期間中俸給の三分の一を受ける。

4 減給は、一月以上一年以下の間俸給の一〇分の一以下を減ずる。

第三四条(服務の基準) 職員は、その職務を遂行するについて、誠実に法令及び公社が定める業務上の規程に従わなければならない。

2 職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない。

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